雑記1

転地療養=休養入院


病の変遷 
 私が精神科医になった頃は精神病院ばかりで、統合失調症など各種精神
病が治療の主な対象でした その後名古屋大学付属病院や名古屋市の中部
労災病院で、世の中には軽いうつ病や多彩な身体的苦痛を訴える方に出会
って、むしろ数としては精神病レベル以外の病が多いことを知りました
 長浜赤十字病院に14年間勤務して、次第に外来患者が増加するにつれて
精神病以外の患者の方の比率が増えてくるのを見ると、統合失調症の治療
の重要性はもちろん大切ですが、もっと日常生活に密着した出来事から
「悩み」が「病み」に至る方の治療も大事になってきていることを実感しま
した

 その代表的な病が、軽症うつ病と称される精神病ではないうつ病とその
近縁の病です
中には自殺に至る方も居ますし、離職、休職、離婚、家庭内不和や葛藤の
増大など様々な生活上の困難や障害に苦しむ要因になっています
軽症うつ病以外にも、パニック障害、強迫性障害、自律神経失調による心
身の不調や心身症に悩まされている方達が居ます
 また最近の特徴の一つに、統合失調症をはじめとした精神病の軽症化も
見られます
まず第一に派手な症状である、興奮と昏迷(意識障害とは違って、知覚は
しているが、それに反応できない 例えば周りで心配して話をしたり動い
ていることを分かっているが、話はできず動くこともできないでじっとし
ている)が見られなくなってきているか、あっても軽くなってきています。
躁病の興奮や誇大妄想も減ってきています まだ滋賀県ではその変遷が遅
いのですが、この14年間で徐々にその傾向が見られます

クリニックの存在価値と限界 
こうした現象を見ると、街中にあって、より敷居の低いクリニックの存在
は大きな意味を持っていますし、今後より大きくなっていくでしょう
交通の便の良いところに点在するクリニックがあることによって、早期に
受診でき、継続して通いやすいというメリットが生きて、「悩んでいる」
から「病んでいる」に至る初発の時点で治療が開始できますし、その後の
継続がしやすいので悪化を防ぐことができます また途中で具合が悪くな
った時の早めの対処もできます つまり
街中の前線という位置になるでし
ょう
 こうしたメリットがある反面、入院設備が無いというデメリットがあり
ます この矛盾は致し方ないところです 

休養病棟の可能性
今後は興奮するから、周りが困るからという入院は次第に少なくなって、
休養のための入院、社会や家庭の重い荷から心身ともに休んで、自然治癒
力を回復することを目指した入院が増えていくでしょう
例えば軽いうつ病の方の多くは、仕事をしなければいけないと思うができ
ない、家族にも迷惑をかけていると思うと焦る、というジレンマに悩んで
います このことで無理をして、風邪は万病の元と謂われるのと似て、う
つ病がこじれて慢性化することがあります
病がこじれた方の殆どは入院することで良くなります 心身ともに休むこ
とが回復力を生むのです
核家族化すると、家族には経済的にも精神的にもゆとりがなくなります
一人がダウンすると、その家族は機能麻痺を起こします 長引いたり、ゆ
っくり休養できない環境下で外来治療するよりも、
入院治療の効果がこの
窮地を救います 
こうしたことは、私がクリニックを開設しようとしてから考えたことでは
ありません
名古屋市の中部労災病院では、精神病床が整形外科と同じ病棟にあって、
見学すると入院をためらう患者の方はごく一部でした クリニックからの
紹介も多くて回転の良さを大事にしていました
長浜赤十字病院に赴任前の三河地方の病院は単科の専門病院でしたが、そ
の経験から、休養入院しやすい病棟を造ってもらいました 
ここでも今まで入院を拒否していた患者の多くの方が、その病棟を見学す
ると入院に同意しました
こうした新たな役割を担う病棟が増えて欲しいものだと思います 敷居が
低いほど、どうにもならなくなる前に入院して回復できるのです
このニーズは病院の患者にもあります クリニックが増えると、もっとニ
ーズが膨らみます
滋賀県は救急医療が充分機能していません ましてや
ソフト救急はまだ軽
視されていて、病の種類に関わらず、
休養・転地療養を目的とした病棟
ありません 
他府県にはぽつぽつとできてきています 大阪、京都、岐阜県、愛知県な

急性期病棟の制度を利用すると、ニーズと経済に合います
時代のニーズを先取りするクリニックと、今後変わっていかなければなら
ない病院の連携は、今ある器だけではなくて、時代に沿った器を中心にで
きていくのではないでしょうか