
病の軽重
病には軽重があるのは当然です
実際に糖尿病には境界から重症まで色々あり、心疾患も同様です
ところで心の病はどうでしょうか
確かに今までは統合失調症は重症で手をかけないといけない、神経症は
贅沢病であるという考えが精神科医にありました
私が卒業したてで勤務した病院の先輩医師はヒステリー患者が来ると嫌
がりました
あんな患者に時間を使うのはもったいないという話題が医局でよく出た
ものです
しかしそういう患者が私の元に来た時に、この患者さんも同じように苦
しんでいるのに何故という疑問がありました
統合失調症は慢性の病で、神経症は一過性の病であるという教科書的な
定義があったので尚更です
慢性化する病の方が大変なので余計手をかけないといけないと考えるの
はありえます
しかし実際はどうでしょうか 神経症でも慢性化している方は多いので
す むしろ心気症という神経症の方が軽快しにくくて、統合失調症の一
部の方が良くなることがあります
神経症の患者さんには病識(病気という自覚、あるいは病気の特徴を知っ
ていること)があって、統合失調症などの精神病にはそれが無いという
のが教科書の記述でしたが、神経症でも病識の無い患者さんは多いし、
統合失調症の患者さんにも病気の治療をきちんとしなければいけないと
悟る時期が来ることが多いのです 最近は外来統合失調症と言って、自
ら受診するかたが増えています
重症か軽症か
こう考えると何をもって重症というのか難しくなります
実際今までも軽症(!)うつ病の方を多く診てきて、その悲惨な経過と
結末を知るようになり軽症だからといって軽く診ることはできないと思
うようになりました
ここでは重症は精神病性で軽症は非精神病性という定義があります 軽
症だから自殺をしないというわけではありません むしろ回復してきた
時に自殺が生じやすいというのは市販の大衆書にも書いてあることです
こう考えると精神病理学的な定義と臨床的な経過や結末は相対的に独立
していると考えるのが良いでしょう
クリニックを始めて驚いたのがパニック障害の多さです 開設当初の新
患の2/3くらいになります 病院では稀でした
治療すると多くの方は症状が消失します、一部の方は軽く残るが殆ど目
立たないくらいになります
しかしそれで治ったとは言えません 他院から転院された方も含めて多
いのが、人ごみを避ける遠出しない、高速道路に乗らない、快速電車・
特急電車に乗らないなど生活圏を縮小してます
問うとパニックは無くなりましたと答えますが、更に問うと、またパニ
ックが出るのが怖いと言います
予期不安と言って、これも症状です 10年以上に渡ってこの予期不安
に脅かされて生活範囲を狭めている方は少なくないのです
病の軽重と援助の大小は相関するか
こう考えると精神病でないから軽症であることと、その苦しみや生活障
害の程度とは相関しないと考えた方が良いでしょう
こうしたところが身体疾患とは違うところかもしれません
言いたいのは軽症だから援助が少なくても良いという考えは間違ってい
るということです
援助の内容が病によって異なるということです
こういう考え方とは逆だったから、総合病院軽視、クリニック無視があ
ったのです
さて今はどうでしょうか、過去形になったのかという問いに明答はあり
ません
