雑記5 その2

慢性うつ病の観察ポイントと対処法


この女性の経験から、慢性的抑うつを訴えるかたの観察をするのが習慣にな
りました そのポイントは以下のようです
@性格的に几帳面で熱中性があって 元気になると今までやれなかったこと
 を挽回したいと焦る
A抗うつ剤のせいで元気になったのを自分の元気と勘違いして頑張りすぎる
B回復期の軽そう状態やそう状態を元気になったと勘違いして頑張る、ある
 いは疲れても止められない
大きく分けて、この3種類になります もちろん厳密に分類できるものでは
なく、臨床的には重なることがあります
したがってその対処も、どれか一つではなく、組み合わせたり、同じ患者さ
んでも、その時期や病相に合わせて強調点が微妙に変わります
そのことを前提に対処法を記します
@は自分の特徴を知ることが大切です 性格は変えられないと嘆くかたが多
 いのですが、多くの部屋を1日で掃除しないで、1日1部屋なら完全に綺
 麗に掃除しても過労になりません こうして区切りをして、その範囲で納
 得の行くまでやれば良いのです
Aは医師が知識を与えて制止する必要があります 場合によっては抗うつ剤
 の減量が必要です
Bこれは発病間もなくのかたのことを言っているように思われるかもしれま
 せんが、慢性的な抑うつを訴える方にも当てはまります
 もちろん少しづつ薄紙を剥ぐような回復が多いのですが、回復期と言って
 良いくらい急速に心的エネルギーが溜まる時期があります
 しかし地についていないので、ちょっとでも無理をするとまた元に戻りま
 す だから元気が溜まるチャンスとは思っていません チョッと元気にな
 ったけれど、少し動いたら疲れて元のうつに戻ったとしか捉えていないの
 で、医師に報告しないことが多いのです
 症例としてあげた女性は炭酸リチウムという抗そう剤で安定しました
 最近抗てんかん剤のバルプロ酸が、より有効であるという報告が複数あり
 ます 副作用の眠気が欠点ですが、試みています 今のところ有効なかた
 は居ますが、文献ほどの効果ではありません
 また慢性化したうつ病に炭酸リチウムやカルバマゼピン、バルプロ酸が有
 効な症例があると、日本の文献でも20年位前から報告されていますが、
 こうした軽症そううつ病が隠れているのだと思います 
 全ての慢性化したうつ病を対象に試しに投与をするほどの価値はないと思
 います
 
 こうした気分障害は、広い診断に認められますが、私が注目するのは、木
 村敏と笠原嘉が定式化した軽症うつ病=内因性非精神病性うつ病と同じよ
 うに、軽症そううつ病も下位分類として存在することです
 そう病相もうつ病相も軽症の場合と、そう病相は軽症でしかも短期間で、
 うつ病相はそう病相よりも重症で長期に渡るという不均衡性が特徴の場合
 があります しかし後者でも逸脱が殆ど無く、精神病性とは異なる
 笠原は軽症うつ病の回復期に一過性に軽そう状態になることがあるが、こ
 れは放置しておけば自然に消失すると言っています そうすると敢えて軽
 症そううつ病などと命名せずに、うつ病の症状の変遷の中で捉えればよい
 のかもしれません しかし放置しておいては、せっかく慢性化した病から
 抜け出すチャンスを失うので、その対処が大切になる そううつ病の薬物
 療法が必要になることがあるとすると、やはりうつ病の慢性化群の中には
 軽症そううつ病が紛れていると明確にした方が良さそうです 
 また精神病のかたの症状の変遷の中にも、この軽症そう状態が一過性に出
 現することも注目されて良いと思います
 私も見逃していると思いますが、まだ一般的に注目されていないと思われ
 ます これは統合失調症にもよく見られる気分障害の観察と対処にも役立
 ちます
 
 
※うつ病の慢性化の分析はよく為されています あえて書いたのは専門家
 の分析の力の入れ方の少なさの割りに患者さんの数は多く、それは患者さ
 んの気付きが不十分で、家族もあえて報告するほどではないために過小評
 価されていると感じたからです 
 患者さんにもっと細かく報告して頂くと慢性化の防止、慢性からの脱却に
 結びつくでしょう
 ※炭酸リチウムが抗うつ剤の効果を高めるので、慢性化したうつ病にも試
 みる価値があるという話は別にありますが、慢性化していなくても、効果
 があるが、いまいちの場合は使用してみるという組み合わせの妙が唱えら
 れていますので、慢性化する前に考えた方が良いということでしょう   

  ※以前から重症のうつ病相と軽症のそう病相を特徴とする躁うつ病の存在
 は指摘されていましたが、軽症のうつ病相とそう病相を有する軽症躁うつ
 病のことは話題になっていませんでした 軽症うつ病と診断されていたが
 そううつ病だったという例は珍しくありません
 なお東京女子医大の坂本教授はうつ病外来の患者さんの6割はそううつ病
 で単極性うつ病と誤診されることが多いと警告を発しています
 私の経験と重なります 特に思春期で当てはまりますが、20代半ばまでは
 おそらくそううつ病だろうと想定しておいた方が外れが少ないように感じ
 ます