
うつ病の回復過程
気分と意欲・気力
うつ病の症状の2つの柱に、気分と意欲の障害があります
大きくは憂うつ気分と抑制(制止)症状です
前者は、何となく憂うつ、たまらなくさみしい、全てが駄目になる、自分が居
ても役に立たない、迷惑をかけるのでむしろ居ない方がいい、死んだ方がまし
という自責感、希死念慮がイライラ感や不安焦燥感と合わさると自殺企図、自
殺に結びつきやすくなります
後者は、やる気が出ない、何をやるにも億劫、食欲や性欲が無い、眠れない、
疲れやすい、何に対しても興味関心が湧かない、趣味もやる気がしない、感動
が無い、全ての存在が希薄に感じる離人感、頭が働かない、集中できない、根
気が無いなど生気的エネルギーが枯渇した状態です
記名力と記憶力の障害=忘れっぽい、おぼえが悪いのも仮性認知症と言われる
ほどになることがあります
これらの症状は様々な能力低下を起こすので、能率が上らない、ミスが多くな
るなどの生活上の障害に結びついて更に無理をするという悪循環になります
こだわりも強くなって気分転換ができない、頭の中で同じことがグルグル回っ
て疲れるという状態になると、丁度川に渦がまいてゴミが溜まるようなもので
す その渦が大きくなると逃れられません 休養するか治療をして渦を無くす
ことになります
妄想
もっと重症だと、情けない自分を皆が白い目で見る、追われる、クビになると
いう迫害妄想、被害妄想、取り返しの無い罪を犯した、それで刑罰を受けると
いう罪業妄想、家が滅びる・借金だらけになる、商売が潰れるという貧困妄想
脳が石になった・癌などの不治の病になったと確信する心気妄想になります
脳が無い、内臓が全て無いという心気妄想はコタール症候群に出現します
身体症状
その他に頭痛、めまい、耳鳴、眼精疲労、視野異常、口渇、食べ物がおいしく
ない、味が無いという味覚の喪失、においが無いという嗅覚の喪失もあります
また胸部の拘厄感、心悸亢進、胸痛、胃部不快、腹痛、便秘、四肢のしびれ等
々の身体症状が出ます
脳を含めた内臓が全て無いという心気妄想のあるコタール症候群も出ることが
あります
うつ病は、こうした脳の活動、思考、感情、気分、意欲、実感、自律神経を主
とした身体などあらゆる領域を侵します
つまりうつ病は脳、心身の病であって、心の病の神経症とは違います
このことを理解しないと、例えば気分が良くなれば解決したと簡単に考えるこ
とになって、すぐ無理をして悪化するという繰り返しをして治りにくくなるこ
とがあります
意気・やる気・根気の改善
主に気分・感情が障害されるタイプと、主に意欲・気力が障害されるタイプがあ
りますが、比重はともあれ、多くは両方が障害されます
そして治療すると一般的には、まず気分が良くなる=良い気になる、次に意欲
気力が出てきます=やる気が出る、そして最後に疲れにくくなって集中力が長
続きします=根気が出る
この良い気→やる気→根気の順が大事です もし休業したら、気分が楽になっ
たところで復職するのは危険です やる気が出てもすぐ息が上ればいけません
次第に疲労が溜まって、やがて元の木阿弥になります
気力・集中力が続く、疲れが残らない いわゆる根気が出ると復職のタイミン
グです
逆に悪化する時には、まず疲れやすい→やる気が出ない→憂うつであるという
順で症状が出ます
大きくは@良い気=気分Aやる気=意欲・気力B根気=集中力・持続力のあり様を
観察して行動の指標にしてください
大事なのは、「根気が出る」ことです
不安焦燥感
悲観とイライラ感がくっつくと不安焦燥感という症状になります
これが厄介です
何となくイライラするという感じですが、もう少し具体的になると、こんなこ
とをしていていいのか、何もしたくない、何をしてもうまくいかない、無駄に
過ごしている、こんなことではひどいことになるという閉塞感が生じて加速し
ます
頭痛肩こり、胸部苦悶、心悸亢進、便秘等の身体症状が加速することもしばし
ばです
自殺企図、自殺には、この不安焦燥感が伴うことが多いのは、訴えから推測で
きますが、チオリダジン(商品名メレリル)を処方して不安焦燥感が減じると、
考えはしても行動しないかたが殆どであることから、ほぼ間違いないと思いま
す
※チオリダジンは製造中止になりました 心伝道系への副作用が問題になった
ようです しかし実際には処方量も含めて気をつければよいことでした
自殺を防ぐ、死にたいほどの不安焦燥感を緩和する良い薬です
この不安焦燥感は、ゆっくりした方が良い時に、せかせかと行動しては疲れる
という繰り返しがうつ病の遷延化をもたらす要素でもあります
そうすると、イライラ感、不安感の改善が、気分が良くなる前、あるいは治療
の底流に必須です
うつ病の回復のプロセス
結論します
@イラ気が無くなるA良い気になるBやる気が出るC根気が出る
という順に良くなるということになります
仕事などの持続的な行動の開始は、治療がCまで行ってからにしましょう
技術職、専門職のかたは更に思考力の回復が必要です
新聞や本などを読みこなせるとよいでしょう 見出しだけ、簡単な記事だけし
か読めない すっと頭に入らないのでは充分な業務はできません
そうすると、また悪化して振り出しに戻るという悪循環を防げます
復職の練習としてのリハビリ復職や半日勤務などの制度がある場合は、この限
りではありません
またそんなのんきなことを言っていると首になっちゃうというかたも多いでし
ょう これは私たちの力を超えた問題です
退院したら返る場が無いと言われたという経験は少なくありません 医師とし
ての無力を感じますが 最近はリワークに取り組む職安があるので利用するの
もありでしょう
症状の改善には、うつの底流にある不安焦燥感=イラ気の軽減か解消が大切で
す
分かっちゃいるけど焦っちゃうというかたには、適切な薬物が第一です
周りに気を使って焦っちゃうかたには、そうして再び悪化することこそ周囲の
迷惑であると、もっと長いスパンで考える習慣を身につけることが大切です
短いスパンで考えるのは、どうやら病前にもあったようですが、不安焦燥感が
その弱点を増幅します
不安焦燥感がどこまでが脳の失調で、どこまでが心の在り様の問題なのか、そ
うした区別が明確でないのも、うつ病の特徴です 一種の心身症と言われる所
以です 軽症うつ病と診断されたとしても回復⇒治癒は意外と難しいのです
あまりにも悲観的にならず、かといってあまりにも簡単に考えずに治療に当た
ってください
