雑記10

うつ病は薬で治る?

うつ病は薬で治るのか?単に脳のホルモンバランスの失調なら薬で治るのでは
ないか?という疑問はもっともです
薬の無い頃には人はどうしていたのか 3年寝太郎のように自然の回復を待っ
たのでしょうか
患者さんの中には、以前に明らかにうつ病だったが自然治癒したと考えられる
かたが居ます 
休養が最も大きな治癒力を発揮します 休養が自然治癒力を促進します
薬はその補助です 渦ができてしまって消失するどころか大きくなっていくと
多少の休養では間に合いません そうした時に薬が杖の役割を果たすのです
足の怪我をかばい悪化を防ぎ回復の手助けをする 
怪我が回復すると杖は不要になる 
例えば骨折するとギプスをして骨がくっつくのを待つ、やがてギプスを付けた
まま軽く歩く、次にギプスの一部を取り去って歩き、歩きが自然に近くなった
らギプスを外す そして無理をかけない歩きからふつうの歩きに進む
この過程とうつ病の治療は似ています こころの捻挫、こころの骨折と例えて
も良いくらいです

特に元来神経質だったり、自分を悪く見る傾向のあるかた、人との交わりが苦
手なかたは薬だけではなく、リラックスする方法を身に付けたり、少し元気に
なってきたところで自分を振り返ってみる方が良いかもしれません 

抑うつ神経症と軽症・中等度うつ病 
  
悩みとうつ病を別の物として分けるとうつ病を見落とすことがあります
うつ病はいわゆるノイローゼとは違いますが、アメリカでは両方ともうつ病で
す 厳密には分けません
しかしうつ病は悩みでブルーになっているだけではありません
やはり生気的抑うつという心的エネルギーの低下があります 悩んでいるだけ
なら自己解決が主です 気分転換をするも良し、悩みに向かうのも良し
一人では重すぎるなら誰かに相談するも良し、場合によっては精神療法を受け
るも良し ただ精神療法やカウンセリングを愚痴のはけ口や指針を与えてくれ
ると勘違いしているかたが多いようです 身近に相談相手が少なくなっている
せいもあるでしょう
それに比して薬は便利です 悩みの果てに心身の過労でエネルギーが尽き果て
た状態だと、薬で生気を取り戻して悩みが軽くなることがあります
しかしうつ病でなければそれほど効かないか副作用ばかりが出ます
ただ難しいのは何にでも境界域があって、どちらの領域か分類が難しいことが
あります
抗うつ薬が効いているようないないような 本人は幾らか楽になると言うけれ
ど、明らかに効いているとは思えない感じ
軽い向不安薬でも大差は無い うつ病にしては、やりたいことは一生懸命で、
嫌なことは意欲が湧かないと言う 毎回診察で結構エネルギッシュに症状を訴
える
こういうかたの中にもうつ病のかたが居て難しいのですが、明らかにそうでは
ないかたも居ます
しかし後者のかたも、悩みの果てに心身ともに疲労してうつ病と違わないくら
いの症状を呈する時があります
そうすると悩みの延長か環境変化に因る発症かかという分類よりも、悩みによ
る心身の過労でうつ病を発症することがあると簡単に考えた方が良いかもしれ
ません
うつ病を神経症から分ける考えは今は一般的ではないのですが、環境変化も心
身の過労も発症因になる、悩みも過ぎれば同じ要素であると考えて、程度問題
と考えて、中にはうつ病に至らないかたが居るとするとすっきりします
うつ病になれば、悩みが渦に巻き込まれて本来の悩み以上に大きく、抜け出し
にくくなるということです
この場合薬を使って渦を小さくし、本来の悩みの大きさになると解決できるよ
うになります
抗うつ薬は川の中にできる淀みや渦を、流れを良くして消失するように手助け
することがあるのです
言うのは簡単ですが、初診で見分けるのが難しいかたが増えています
世の複雑さに応じて人間も複雑になり診断が難しくなっていることと、この地
域はうつ病になる前の性格が良くも悪くも物事に執着するタイプが多いのです
が、一律ではない、つまり病気になる前はこういう性格のかたが多いと類型化
できないことがその要因になっていて、専門家でも見分けが難しいことがあり
ます
薬と休養を旨として、疲労が回復して気分と思考がふつうになったら自分を振
り返りながら整理していくという手順もあります この振り返りも支持的精神
療法の目的の一つです

治療中に医師に症状を報告する、対話する繰り返しの中で、自分を観察するこ
とに習熟するかたが居ます 
これは薬や休養だけの効果以外のものです そのことで生活法を変える、考え
方の修正をする、今まで漠然としていた人生設計をする、人生観が変わるなど
様々な変化があります
病んだから得たものがある 
治療者にとってこれ以上嬉しいことはありません