「散りしをる乙女達」

「豪炎寺君、悪いんだけどお昼休みに少し、時間取れる?」
「ああ。構わない。…珍しいな。どうか、したのか?」
 豪炎寺と同じクラスの木野が、円堂が席を外した時に囁くように言った。
 聞けば、彼女の友達が伝えたい事があるらしく、体育館裏に来て欲しいとの事だった。
「どうしても、って頼まれたんだけど…都合が悪いなら、私から断っておくから」
 木野が何をそんなに気を使っているのか、豪炎寺には解らなかった。校舎裏やら体育館裏、空き教室や倉庫への呼び出し、と来ればボコりか告白、と相場が決まっているのだが、教室か部室で過ごすばかりでそういった事に縁のなかった豪炎寺には思いつかなかったし、何しろ日頃世話になっているマネージャーの頼みでもある。木野の人柄からして、自分を陥れるような真似はしないだろうし、大丈夫だろう。
 そう判断した豪炎寺は、昼休みを告げるチャイムを聞いて、体育館裏へと足を運んだ。
「…豪炎寺?」
「鬼道…?」
 木野の友達が居る筈の場所に居たのは、鬼道だった。
「何故、おまえがここに…?」
「春奈の友達が俺に何か伝えたい事があると頼まれたとかで、来てみたんだが…」
「…俺は、木野の友達が俺に伝えたい事があると頼まれた、って言われたから」
 お互い、訝しげな顔をしながらここに来た理由を話す。
「…相手はまだ来ていないようだが…このまま待つべきだろうか」
「……少しは、待ってみた方がいいかもしれないな。音無や木野が頼まれたと言っていたから…何の用か解らないまま帰るのも、どうかと思う」
「…そうだな」
 ふたりが話していると、背後から声がした。
「待たせちゃった?!ごめんなさい、鬼道君、豪炎寺君!」
「だから言ったじゃない、早くしなきゃって」
「だってほんとに来てくれるなんて思ってなかったから」
「だから春奈や秋に頼んだんじゃない!」
「大成功だね!」
 口々に話す、5人の女子生徒。近付いて来た彼女らは、円陣を組むような形でふたりを囲んだ。
「……君達は一体…?」
 高音のお喋りと何時の間にか囲まれてしまった状況に少し圧倒されつつ、鬼道が口を開いた。
「木野さんと音無さんにお願いして、ふたりを呼んで貰ったのは私達です」
「来てくれて、ありがとう」
 言葉と共に5人がふたりに向かって一斉に礼をする。
「……それで?俺達に、何の用だ?」
 大体において無口な豪炎寺は、状況を理解しきれない所為か警戒心をあらわに、口をつぐんでしまっている。仕方がないので鬼道は、5人に対して聞く事になった。
「……私達、あなた達ふたりの事が、好きなんです!」
「見ず知らずの私達に言われても、困ると思います。でも、伝えたくて!」
「………は……?」
 思わず間抜けな声を出してしまった鬼道と、無言のままの豪炎寺が、顔を見合わせる。
 無理もない。今の状態が体育館裏への呼び出し王道のひとつ、告白なのは理解出来た。
 理解出来ないのは、その内容だ。
「…5人が、俺達ふたりを、好き…?」
 5人のうちの誰かが鬼道を、誰かが豪炎寺を好きで、あとの3人が付き添って来たのだというなら…ふたり同時に呼び出す時点でどうかと思いつつ…まあ、解る。5人全員がどちらかを好き、というのでも…ふたりを呼び出す意味が解らないまでも…何とか理解しようとは、思う。だが、これは…解らない。
「今すぐ返事は要りません。でも、いつか…」
「…悪いが、意味が解らない」
「…俺もだ」
 ふたりが脱力しながら呟くが、5人は「だって、私達全員、あなた達ふたりが好きなんだもの!」「意味が解らないとか、ありえない」「私達があなた達を好き、っていうだけじゃない」等と口々に言って引かない。
 どう対処すれば良いのか…鬼道が考えを巡らせるよりも先に、豪炎寺の忍耐力が限界に達したようだった。
「…悪いが、何度言われても、俺には意味が解らない。好意は勝手だし、止める気もないが、今後一切、こういった事を止めて欲しい。…付きまとったりするのも。はっきり言って、迷惑だ」
 不快感を隠しもせずに、5人を順に睨みつけながら、豪炎寺は淡々と言った。
 このところ、ずっと誰かに見られているような感覚があった。心当たりなど何もなかったから、気の所為だと思っていたが、こいつらの所為だったのではないか、と決め付けるような言い方になってしまった事に、豪炎寺は後悔していなかった。
「…俺も、同じだ。何度説明されたとしても、俺には意味が解らないし、迷惑だ」
 妹が友達との間で嫌な思いをしないように、と対処の方法を考えていた鬼道だったが、正直なところ、理屈が通用しない相手は面倒だった。豪炎寺に便乗するような形になってしまうが、開き直る事に決めた。表情を変えずに、事務的に告げる。
「ええぇえええ〜!ひどぉーい!」
「「…どっちが」」
 口々に騒ぎ始めた5人に、ふたり同時に返す。
「…行こうか、豪炎寺」
「ああ」
 力ずくで引き止められたら厄介だと思ったが、ふたり同時に動くと囲まれていた輪が解けた。振り返る事もなく、ふたりで並んで教室へ向かう。
「……何だったんだろうな」
「……音無や木野に、悪い事をしたか…?」
「…いや、春奈には俺から言っておくから大丈夫だ。豪炎寺、お前は木野に、この事で何かあったら言ってくれるように伝えておいてくれないか」
「解った」
 何故だか妙に疲れた豪炎寺と鬼道は、この事をこの後一切、口にする事はなかった。
 どこからか知ったらしい目金が「それは腐女子というものですよ!」と呟いたとか何とか。

END 初出2011.03.09覚書 更新2012.03.02

「動詞30題」より『16.ちる 』です。校舎裏 腐女子の想ひ くだけ散る…みたいな?という事で、散り萎る(しをる)という芸のなさをこれでもかと発揮したタイトルでございます。どうせならこう、もうちょい色気のある話を目指したいお題ですけれども。もちろん豪炎寺を散らすんです、よ…!<おやぢ臭い。同居人の実話をイナイレ変換したので、これ以上何がどう、という事もございません。愉快な体験をしておることよのう…と思って笑っていたのですが、本人は「わけわからん…どうしたいねん…」と困っておりました。(笑)まあな…困るよな。喜ばれても何だしな。ワタクシが聞いた限りのエピソードでは、相手は腐女子かどうかは微妙なカンジでしたが、素質はあると存じます。