一昨年のフットボール・フロンティア決勝戦、帝国学園 対 木戸川清修。
その会場に、奴は現れなかった。
豪炎寺修也。当時の木戸川で、1年生でありながらエースストライカーとして注目を集めていた選手だった。
1年生でありながらチーム内で重要な役目を担っている、という点では、鬼道有人も同様だった。過去40年間無敗の帝国学園で、1年生でありながらミッドフィールダーのポジションを得るばかりではなく、卓越したゲームメイク力から天才ゲームメイカーと呼ばれ、その統率力からキャプテンを任されていた。しかし、帝国学園においては実力が全てであるという事は内外に知られており、無敗を誇る40年間の間にも、そういった人物が幾人か出ていた為に、必要以上に注目される事がなかっただけの話だ。
自分達なりに収集するデータは、あくまでもサッカーに関するものだったが、帝国学園の総統と呼ばれる影山の力は計り知れなく、有力選手の情報ならば、全て…それこそ、私生活に至るまでの詳細なものを得られる状態にあった。
その為に、豪炎寺が決勝戦に現れなかった理由も、その後にサッカー部を辞めた事も、データの一部として示された。
豪炎寺には妹がいる。その妹が決勝戦会場へ向かう途中で交通事故に合った事が原因で、決勝戦に来る事が出来なかった事を知った時、鬼道が思い浮かべたのは妹である春奈の事だった。両親を飛行機事故で亡くして以来、兄妹はいわゆる孤児院と呼ばれる施設で過ごし、それぞれ別の家へ引き取られた。妹と一緒に暮らしたい。望みを叶える為に、自分を引き取ってくれた義父とフットボールフロンティア3年連続優勝を条件に、約束を交わした。豪炎寺の妹が事故に合った事は気の毒だとは思う。もしも、春奈が事故に合ったとしたら…と考えてみると居ても立っていられない。しかし、自分は鬼道家の跡取りとしての役目を放棄するわけにはいかない事は解っていたし、豪炎寺は自分のように唯一の肉親である妹と離れて暮らしているわけでもなければ、両親が死んでしまって会えないわけでもない。豪炎寺が妹の事故を自分の責任であるかのように感じ、その事によって部を辞めただけではなく、サッカーそのものから離れた事、そしてその事故が自分が総帥として慕う影山の手によって仕組まれたものである事にまで思考が及ばない鬼道は、それ以上の事を考える事など、なかった。
「雷門中のサッカー部を、知っているかね、鬼道」
影山に呼ばれ学園長室に足を運ぶと、思いもよらない事を言われた。
雷門といえば確か、妹である春奈が在籍している学校の名前だ。春奈を引き取った音無の家に、鬼道が直接連絡を取る事はなかったが、音無の家から養父宛に連絡が来たのか、影山の情報網によって知らされたのか、鬼道は養父からその事を聞いていた。鬼道が知っているのはそれだけで、サッカー部が存在する事すら、知らなかった。
「…いいえ。そのサッカー部が、どうかしましたか、総帥」
「我が帝国との練習試合を、申し込もうと思う」
表舞台で聞いた事もないような、サッカー部との試合。帝国学園、特にサッカー部に於いて、総帥である影山の言う事は絶対だ。疑問を持つ必要もなく、指示に従うのが常だった。
しかし、解せない。鬼道は思わず、問い返した。
「何故ですか」
「豪炎寺修也を、知っているだろう?」
ここで、その名前を聞く事になるとは、思わなかった。豪炎寺は木戸川清修の、エースストライカーだった。今は、サッカー部を辞めた筈だ。実際、昨年のフットボールフロンティア決勝戦には珍しい三つ子のフォワードである武方3兄弟が出場し、その後の試合でも木戸川清修から豪炎寺が出て来る事はなかった。木戸川清修以外の試合に於いても。その豪炎寺の名前を、ここで影山が口にした、という事は。
「まさか、豪炎寺が雷門に…?」
鬼道が驚くと同時に口にした言葉に、影山が満足そうに笑う。
「流石は鬼道だ。私は、察しの良い子は嫌いではない。…豪炎寺が、雷門に転入した事が解った。しかし、サッカー部にはまだ、所属していないらしい。雷門サッカー部は今、練習試合をしようにも、人数が足りない事も解っている。そこで、我らが帝国学園から練習試合の申込みをしたら、どうなると思う、鬼道…?」
単純に考えれば、外部から助っ人を集めるしかないだろう。木戸川清修がサッカーの名門校である事は、知られている。豪炎寺がそこからの転校生だと知ったら?いや、そうでなくても、ある程度知識のある者であれば、豪炎寺が中学サッカー界で名を知られたストライカーである事ぐらい、簡単に解る。名前を聞いた事もないような中学の、部員が足りないサッカー部に、40年間無敗を誇る帝国学園から練習試合の申込みが来る。それを受ければ、助っ人を探さなければいけない。そんな状況で、得点力を持つストライカーが転校して来たとなれば、答えは明白だ。
「…豪炎寺が、出て来る可能性が高い」
「そうだ。雷門は、我が帝国と同じく私立校だ。無駄な経費を削る為に、不要と思える部を廃部にする方向で動いている事は解っている。人数が足りないサッカー部は、格好の標的だろう。しかし、むやみに潰すわけには、いかない。潰す理由が必要だ。40年間無敗を誇る我が帝国と試合をして、勝てなければ廃部。そのような条件を付けて、サッカー部に試合を受けさせる、大方、そのような筋書きになるだろう」
影山の言葉は、予想というよりも決定事項を告げる時のそれ、だった。鬼道は、黙って次の言葉を待つ。
「豪炎寺がサッカー部に所属していようといまいと、関係はない。奴を、引きずり出せ。奴のデータが欲しい。木戸川から離れてからの空白期間に、どのような変化が起きているのか。それを知りたい。あれだけの力を、そのままにしておくには、惜しい」
有望な選手やチームを、その圧倒的な力の元に捻じ伏せる。そこから、影山が必要だと判断した選手を、帝国へ連れて来る。よく、ある事だ。連れて来られた選手が、帝国のやり方についていけずに、そのまま潰れていく事も。次は、豪炎寺がその標的になった。そういう、事だろう。
帝国サッカー部に必要な人材であるか否か。必要であるならば、どのようにして使うか。不要であるならば、どのように潰すか。判断の全ては影山によるもので、鬼道を初め、部員が口出しする事ではない。ただ、影山の指示に従い、帝国のサッカーをする。帝国サッカー部は、そうして無敗を重ねて来た。疑問を挟む余地など、ない。
「解りました」
鬼道は了解の意を伝え、学園長室を後にした。
いつも通りに練習を済ませ帰宅した鬼道は、自室で手元にある豪炎寺のデータに目を通していた。
強い選手、強いチームと、戦うのは好きだ。負ける可能性など、考えた事などなかった。
一昨年の木戸川清修との試合に関しても、帝国が勝つ事は当然だと思っていた。確かに、豪炎寺は強かった。しかし、チーム全体としては帝国の敵では、ない。そう、判断していた。ひとりの選手が突出している為に、その選手の力に頼る部分が大きすぎる。ならば、そのひとり、を潰せば、全体はあっさりと崩せるだろう。それは、帝国にとっては、そう難しい事ではなかった。事実、豪炎寺の居ない木戸川清修は、そのひとりを潰す労力をかける事もないままに、帝国に敗れ去った。
戦ってみたい、興味深い相手。
そう、思っていたのは事実だ。しかし、豪炎寺が木戸川から去った後まで、鬼道がその感情を引きずる事などなかった。影山が豪炎寺の消息を掴み、引きずり出してでもデータを取れ、と言った事が意外だと思う程度に、この1年で鬼道にとって豪炎寺に対する感情は薄れていた。
「豪炎寺、か…」
1年前まで見せていたあのプレイに、変わりはないのだろうか。手元のデータは、当時のものだ。この1年、何故、表舞台に出て来る事がなかったのか。事情は、解らない。変わっていない、あるいは、もっと強くなっていたなら?…だとすれば、面白い事になるかも、しれない。
雷門のサッカー部の話は、噂程度にも聞いた事がない。鬼道が聞いた事がない、という事は、たいしたものではない、という事だ。そこに、豪炎寺が現れた。今まで姿を見せなかった理由など、どうでも良い。勝てる可能性など、殆どない相手…この場合、自分の指揮する帝国…に対して、雷門が見せるサッカーにも、正直なところ興味は、ない。しかし、豪炎寺に対して自分が総帥と慕う影山が、執着と呼んで良いような興味を示している。奴が、雷門のメンバーとして、どんなサッカーをするのか。薄れていた感情が、蘇ってくる。
「…退屈しなくて済みそうだな。楽しませてくれよ、豪炎寺」
手元のデータがどのように書き換えられるのか。それを考えた時、鬼道は無意識のうちに、口元を笑みの形にしていた。
試合当日。いつものように帝国専用の巨大な車両で雷門へ乗り付ける。フィールドに集まっている雷門のメンバーの中に豪炎寺の姿はなかったが、校舎に近い木陰に、その姿を捕らえた。
…なる程。未だサッカー部には所属してはいないようだ。だが、帝国との試合が気にはなっている。そんなところか。
…待っていろ。必ず、引きずり出してやる。
影山の命令とは別のところで、楽しみにしている自分が居る事に、鬼道はまだ、気付いていなかった。
鬼道の後ろに勢揃いした帝国レギュラーが、初めて来た雷門のフィールドやメンバーを見渡している。何故、急に無名のサッカー部と試合をする事になったのか。総帥である影山には問う事をしなかったメンバーも、疑問は抑えられないのだろう。辺見が、鬼道に声をかけた。
「鬼道さん、何でこんなチームと試合を?うちのスキルが上がるとは思えませんけど」
確かに、帝国のスキルが上がる事など、ないだろう。まだ、チームの連中に影山の意向の詳細を、伝えてはいない。豪炎寺を引きずり出す、などと伝えるよりも先に、そういう状況を作る事が先決だ。
「面白いものが、見られる」
「面白いもの?」
ゴーグルに覆われた視線を、豪炎寺に向ける。
「まあ、楽しみにしている事だ」
そう、一言だけ告げた。
雷門のキャプテンだと名乗る円堂が挨拶と共に握手を求めて来たのを無視し、ウォーミングアップを始める。自分達の様子を見ていた雷門メンバーのひとりが、トイレへ行くと言ってその場を離れた。見たところ、雷門のメンバーは、まだ、数が揃っていない。
「どうするんだ。アイツを入れても、10人しか居ないようだが。あとひとり、居るのかな…?」
あと、ひとりが足りないこの場面で、やむを得ず豪炎寺が出て来る。そうであれば、話は早い。そう思い、豪炎寺の立っている場所を見る。それでも、豪炎寺が動く様子は、なかった。
その後、雷門のマネージャーらしき女子が連れて来た奴が11人目として、出場する事になったようだ。鬼道は、試合をしながら豪炎寺を引きずり出す方法を考えなくては、ならなくなった。面倒だな…と考えていた鬼道の背後で、相変わらず疑問がくすぶったままの辺見が、寺門に話しかけていた。
「おい寺門。どうして俺達が、こんな弱小と試合しなきゃいけないんだ?」
寺門は、どういう形でか、影山の意向を伝えられていたらしい。
「総帥は、ここに転校して来た選手を気にしておられる。そいつの実力を、しっかりと見極めて来い、と」
それ以上の事は、寺門も聞いてはいないのだろう。
「ほーう。一体、誰の事だ?」
そう言いながら、辺見が視線を巡らす。まさかその選手が、フィールドに居ないとは、思わないだろう。
「まだ、居ない」
答えた鬼道に、辺見が声を荒げる。
「居ない?居ないってのは、どういう事ですか?!面白いものが見られるといったのは、鬼道さんでしょう!」
「まだ、と言ったんだ。…慌てるな」
鬼道の態度に、その選手がこの場に現れるのを待つ事、待って現れないのであれば引きずり出す必要のある事を、そして、鬼道にそのような指示を出す、総帥・影山の狙いをも、辺見は理解した。
「へぇ。それじゃそいつは、ウチに呼んでも使えそうな奴なんですか?」
「それは総帥が決める事だ。俺達は、命令通りに動くだけだ」
鬼道は、ゴーグル越しの視線を再び豪炎寺に向けながら、自分に言い聞かせるかのように呟く。
「失敗は、許されない」
鬼道がコイントスを放棄し、雷門のキックオフで試合が始まった。
雷門の力がどの程度のものか、見極める為に自分達が適当に流している事にも気付かず、帝国と渡り合っていると活気付く雷門を見ていると可笑しくなる。フォワードの奴が放ったシュートを、軽々と源田が止めた。
「鬼道、俺の仕事は、ここまでだ!」
源田の言葉と共に、ボールが鬼道の足元へ届く。
いよいよ、だ。奴を、豪炎寺を、フィールド上に引きずり出す為に。
「さあ…始めようか。帝国の、サッカーを」
10対0で前半を終えた。まともに走る必要もない程、あっさりと10点差を付けての折り返しだ。鬼道が雷門ベンチに目をやると、もう殆ど体力が残っていないらしく、座り込んだり寝転がったりしたまま、ロクに喋れもしないようだった。キャプテンである円堂だけが、立ち上がって皆に声をかけている様子が見える。
鬼道が、雷門とは対照的に、息を乱すことすらしていない自分のチームの連中に、影山の意向を伝えているところに、専用車両の上から試合を眺めていた当の影山からの通信が入った。
「鬼道。奴は、まだ動かないか」
学校全体を俯瞰する位置から観戦している影山には、豪炎寺が居る位置も把握出来ているのだろう。何かのきっかけさえあれば、すぐにでもフィールドへ降りて来る事のできる場所に、豪炎寺が居る。
豪炎寺にとって帝国は、戦う前に戦う事を、自分の意思とは関係のないところで、放棄しなければいけなくなった相手だ。その相手と雷門サッカー部が廃部を賭けて戦っているのを、開始前から見続けている。サッカーに、帝国と戦う事に、あるいは木戸川に、何に対してか解らないが、サッカーに対する全てを絶ち切れては、いないのだろうと推測する。
未練なのか、後悔なのか、サッカーに対して豪炎寺が何をどのように持っているのか知らないが、全てを手放してしまったわけでなければ、どうにかして引きずり出せるだろう。
「ご安心を。後半戦には、必ず」
確信を持って、影山に答える。
前半終了時点でここまで点差を広げても、まだ、豪炎寺が出て来る様子はない。引きずり出すには、他の連中を潰していくのが手っ取り早いだろう。何人まで潰せば、出て来るのか。そこまでは、知るよしもない。雷門のレベルであれば、”ごく普通に帝国のサッカーをする”だけで、大方は潰れていくだろう。
後半戦開始の合図と共に、鬼道が指示を出す。
「デス・ゾーン開始!そして奴を!引きずり出す…!」
早々に、帝国11点目となるゴールが決まる。
「続けろ。奴を引きずり出すまで」
帝国の攻撃に雷門イレブンが次々と倒れて行き、帝国が18点目のゴールを決めた時には、円堂ひとりが、倒れずに残っている状態だった。
それでもまだ、豪炎寺は出て来ない。このまま出て来なければ、雷門へ試合をしに来た意味などない。
鬼道はもう、なりふりを構っては、いられなかった。帝国にとって影山の命令は、絶対だ。
フィールドの外に居る豪炎寺に聞えるように、声を上げる。
「出て来い…出て来い。さもなければ、あの最後のひとりを…あいつを…」
「叩きのめす…!」
叫びと共に、寺門がシュートを放つ。捕らえる事が出来ずにボールごとゴールに押し込められた円堂の身体で弾かれたボールが、戻ってくる。間を置かずに、連続してシュートを放つが、その度に先程と同じように円堂の身体でボールが弾かれ、帝国イレブンの足元へと戻ってくる。シュートを決めるのが目的ではなく、円堂を潰すのが目的だと気付いた雷門の連中のひとりが、ふらふらになりながら飛び込んで来た。円堂へ向かう筈の衝撃を、その身に受けて倒れた奴に肩を貸して起こしてやりながら、円堂が叫んだ。
「風丸…お前の気持ち、受け取めたぜ…絶対、このゴールは守ってみせる!」
「フン。一度として守れては、いない」
鬼道が笑い、衝撃が円堂へ向かって放たれた。瞬間、止められたかに見えたものの、結果は帝国の19点目が決まっただけだった。雷門のキックオフだが、円堂以外にフィールドに立っているのは、ひとりしか居ない。エースナンバー10番、11人目として加入した奴だった。だが彼は、あろう事か泣き言を言いながらフィールド外へ走り出し、ユニフォームを脱ぎ捨て、そのまま去ってしまった。
これで、フィールド上には10人しか、残っていない。その10人が10人とも、立ち上がる事が、出来ない状態だ。
「無様だな」
鬼道が、倒れたままの円堂に向かって吐き捨てる。
「無理だ」
「お前らには、俺達から1点を取る事すらな!」
寺門や辺見が言葉を重ね、嘲笑する。
試合を見ていた雷門の生徒にも、諦めのムードが漂っている。絶望、と言っても良いかもしれない。
しかし、まだ、豪炎寺は動かない。
このまま試合を終らせるつもりは、鬼道には、なかった。
ここまで来ても動かない奴をどうやって、引きずり出すのか。鬼道が、次の策を考えていると目の前の円堂が、立ち上がった。
「…まだだ!終ってない…まだ、終ってねぇぞ…!」
「まだ、やるっていうのか!」
寺門がそのままシュートを放つ。円堂は、立ち上がったもののシュートを止める事は出来ず、帝国に20点目が入った。
その時、だった。
雷門の生徒の囁き声が聞えた。
「あんな奴、うちのチームに居たか…?」
奴、だ…。
試合放棄した10番が脱ぎ捨てていったのであろう、雷門の10番をその身に纏い、フィールドへ降りて来る豪炎寺の姿が、視界に入る。
雷門の解説をしている生徒の声が、間違いなくそれが豪炎寺である事を告げていた。
待ち望んだ状況に、鬼道は、声を出さずに笑った。
フィールドへ降りて来た豪炎寺は、無言のまま鬼道と向き合う。そこへ、雷門サッカー部の顧問らしき教師が慌てた様子で近付いて来た。
「待ちなさい。君はうちのサッカー部では…」
「…いいですよ。俺達は」
やっと、引きずり出した相手だ。くだらない邪魔をされては、たまったものではない。
「豪炎寺!やっぱり、来てくれたか!」
豪炎寺に縋りつくように倒れこんできた円堂を受け止め、抱き起こしながら会話をしている様子を眺めながら、鬼道は隣に居る辺見に教える。
「我々の目的は、これだ」
「なーるほど。奴が狙いか」
1年前のフットボールフロンティア決勝戦の相手、木戸川清修のエースストライカーであった豪炎寺の事は、チームの全員が知っている。その豪炎寺が雷門に転校した事を知っていたのは影山と、影山から話を聞いた鬼道だけだったが、ここへ来てようやく、他のメンバーにも影山が気にしている”雷門の転校生”に納得がいったようだった。
試合が再開された。雷門ボールを辺見がカットしたのを見て、鬼道がデス・ゾーンの指示を出す。それと同時に、豪炎寺が走り出した。ひとり、帝国ゴールへ向かっている。振り返る事も、しない。
「…何?!」
豪炎寺の行動は、鬼道を驚かせるのに十分だった。
雷門の解説の生徒が、先ほどの10番と同じように試合放棄するのか?!と驚いている。周囲の困惑や驚きを余所に、豪炎寺は真っ直ぐに、帝国ゴールへ向かう足を止めない。帝国の放ったデス・ゾーンは、雷門ゴールに突き刺さろうとしていた。
鬼道を驚かせたのは、豪炎寺の行動だけではなかった。
円堂が、デス・ゾーンを止めたのだ。そのまま、ボールが豪炎寺に向かって投げられる。円堂からのパスを当然のように受け止めた豪炎寺が放ったシュートを、源田は止める事が出来なかった。雷門に、1点が入る。
雷門から、歓声が上がる。それぞれに立ち上がっていた雷門イレブンに、活気が戻りつつあった。
そこに、影山からの指示が届く。
「ここで終わりだ。データ収集は完了した。スーパーストライカー豪炎寺のシュート。少しも錆び付いては、いない」
「たった今!帝国学園から試合放棄の申し出があり、ゲームはここで、終了!」
審判の声を聞きながら、帝国ゴール前から戻って来た豪炎寺と、鬼道がすれ違う。豪炎寺は、視線を合わせる事なく、鬼道を通り過ぎた。鬼道も、振り返る事もなく帝国のメンバーの元へと向かう。
確かに自分の言葉通り、面白いものが見られた。
1年前と比べて威力が落ちたとは思えない、豪炎寺のシュート。予想外の収穫であった、円堂の技。データの書き換えと、新たなデータ収集が必要だ。
次は何時、戦う事が出来るだろうか。データ収集の為などではなく、戦ってみたい。
影山が、豪炎寺を帝国へ呼ぶと決めたなら、同じチームで戦う事になるだろう。しかし、それを望んではいない自分を、鬼道は自覚した。
「せっかく、ここまで引きずり出したんだからな。これからも、楽しませて欲しいものだ。…豪炎寺修也」
鬼道は、高揚する気持ちを抑えるかのように、静かに笑った。
「名詞30題」より『01.挨拶』です。今更の2話でございます。お題の『挨拶』が、まあ、出会いか別れに丁度良いかしら、と。まずは出会いから書こうかと。鬼道×豪炎寺っぽいものを書こうとすると、やはり直接の出会いであろう2話は外せないわ、という事で。まあ何だ、エロスは欠片もございませんけれども特に今、スイッチも入っておりませんのでこのようなノリで。(笑)次は13話あたりで恋になり、17話で愛になり、みたいな?<三兄弟風味で。TVシリーズ中の台詞に関しては、聞き取る努力はしているつもりですが、ソラミミが多いものですから、自信はございません。間違いがございましたら教えて下さると有り難く存じます。