TVシリーズ10〜11話 中心

「 その気持ちを彼は知らない・2 」

 雷門との練習試合の後、鬼道の胸の内には何か形のつかないものが広がっていた。それが何なのか、自分でも把握出来ずにもやもやとした気分のまま行っていた練習の合間に、辺見が声をかけて来た。
「鬼道さん。雷門の事、聞いてますか?」
 雷門に転校した豪炎寺のデータ収集の為に練習試合をしろ、という影山の指示に従ったのが先日の事だった。20対1という圧倒的な点差をつけていたものの、総帥である影山の指示により、帝国は試合放棄をした。結果的に、雷門の勝利という形になって終ったが、自分達は任務を果たしたのだ。あれから豪炎寺が、この帝国に連れて来られないところを見ると、影山の手の者がまだコンタクトを取っていないのか、他に見るべき点がある為に時間を置いているのか、不要と判断したかの、どれかだろう。
 豪炎寺の他には、思わぬ収穫だった円堂の技。雷門というチームで見るべき点はその程度で、チームとしては特に鬼道が気にかけるレベルではなかった筈だ。その雷門の事を、わざわざ鬼道の耳に入れる方が良いのではないか、と判断した帝国メンバーが居る、という事は、何かしらあったのだろう。
「奴らが、どうした」
「ウチとやってから、実はかなり凄いチームなんじゃないか、って噂が広まってますよ。酷い所になると”帝国が1点に泣いた”なんて話まで」
 試合を申し込まれる事に事欠かない帝国から、試合を申し込まれるだけでも話題には、なる。帝国学園サッカー部とは、そういう存在だ。無名の弱小チーム、としか見られていなかった雷門サッカー部の名前が広まるのも、当然だった。帝国から1点とはいえ、点を奪ったとなれば、尚更。
 豪炎寺のデータを収集する為に試合をした結果、雷門の名が広まる。影山にとっては、そこまでが想定内の事だったのだろう。現時点で、影山から鬼道に何ら指示は出されていない。ならば、放置しておけ、という事だ。
「言わせておけ。俺達は任務を果たした。それだけだ」
「そうですね。ただ、あれから雷門には、練習試合の申し込みが、後を絶たないそうで」
「ほう…」
「探りを入れた方が、いいですかね?」
「必要ない。既にネズミは潜り込ませてある」
 実際、自分達が試合を申し込むよりも先に、影山の手によって、そのネズミは入り込んでいたのだ。鬼道はそう、聞かされていた。それが、豪炎寺を引きずり出した時に慌てて出て来た、雷門サッカー部の顧問だという事も。自分も、スパイとして潜り込ませる輩に目星をつけている。影山からの指示があり次第、すぐにでも雷門へ送り込む用意は、出来ていた。
 数日後、雷門が帝国との練習試合以来、殺到している練習試合の申し込みの中から尾刈斗中を選び、近々対戦すると聞いた。鬼道は、帝国サッカー部の参謀的な役割を担う佐久間、ゴールキーパーである源田を伴って偵察に赴き、影山に報告するのが常だった。しかし、この時に限り、源田に代わって土門を連れて行く事にした。土門は、帝国のレギュラーメンバーでは、ない。2軍、3軍、そしてその下と、全国から集められた、或いは自ら志願して来た選手ですら、帝国学園に於いてはレギュラーの座を射止めるのが困難な程度に、選手層は厚い。反面、潰れていく選手も後を絶たない為、実際の人数自体はそう、多くはなかった。
 表舞台に立つのは、余程の事がない限り、レギュラーメンバーのみ、だ。控えの選手は、ベンチにすら、入らない事が多い。だから、他校に顔を知られる事がない。今回、鬼道に随行するメンバーに土門が選ばれたのは、周囲に溶け込み易い性格と、帝国部員として顔を知られていない事、鬼道や影山に対する忠実さ故だった。
 つまり、雷門に、帝国のスパイとして入り込むに適当である、という鬼道の評価によって。
 雷門へ到着し、正門付近からフィールドに目をやる。そこには、雷門のユニフォームを着た豪炎寺の姿が、あった。
「へーえ。豪炎寺は、正式に入部したようだな」
 影山づてに、妹である春奈が雷門のマネージャーとして入部した事は聞いていたが、豪炎寺に関してはまだ、鬼道も聞いては、いなかった。佐久間の言葉に、知らず、頬が緩み、口元がつり上がる。
 尾刈斗との試合は、雷門が先取点を取ったものの、逆転されて2対3で前半が終了した。前半戦に於いて、豪炎寺に目立った動きは、なかった。何かを、考えているのだろうか。後半戦開始直後、いつもならゴールを狙って積極的に動くであろう豪炎寺が動かず、もうひとりのフォワードが豪炎寺のキープしているボールを奪ってゴールを狙う場面もあった。仲間割れしているようにも、見える。どうするかと思い見ていれば、豪炎寺が、もうひとりのフォワードに何かを伝えているのが、見て取れた。直後、もうひとりと豪炎寺のコンビネーションで1点を取り、雷門が同点に追いついた。それを見て、鬼道はフィールドに背を向ける。
「いいのか?最後まで見なくても」
「ハ…ッ。結果は、見えた」
 答えた鬼道の後を佐久間が追う。
「へー。面白い奴らじゃないか」
 木に凭れ掛かって試合を眺めていた土門も、そう言って雷門を後にした。



 尾刈斗中との練習試合に勝った事により、学校側の計らいで雷門はフットボールフロンティアに出場出来る事になった、という事だった。
 影山が豪炎寺を帝国へと欲しがっているならば、この時点で鬼道に何か指示があっても良さそうなものだったが、何もなかった。雷門サッカー部顧問である冬海は、直接指導出来るだけの技術や力を持たない。鬼道は、選手達と同じ立場で動き、部内の細かい所まで探り出す必要がある、と判断し、土門を送り込む事に影山の了承を得た。冬海には、影山から直接、連絡を取るという事だった。
 雷門と帝国は、予選ブロックが別になった。雷門が決勝まで残らなければ、帝国の敵にはならない。帝国と、尾刈斗。実際に雷門が試合を行ったのは、この2回だけだ。全国大会どころか、予選大会ですら、出場経験がない。全国大会を肌で知る者は、豪炎寺と、今頃雷門のメンバーになっているであろう、土門だけだろう。その雷門が、どこまで勝ち上がってくるのか。未知数であるが故に、読めないチーム。面白い、と鬼道は思った。
 雷門の予選1回戦の相手は、野生中だ。対策として、豪炎寺が新しい技を練習している、と土門からの報告で知った。円堂の祖父の秘伝書が見つかった事は聞いていたが、円堂以外には読めないものだという事だった。その秘伝書に記されていた技は、豪炎寺と他のメンバーの連携技として完成し、野生中を破って雷門が2回戦へと駒を進めた。野生中戦に於いて、負傷したもうひとりのフォワードの変わりに土門が出場したと聞いた。帝国の技である、キラースライドを使っていた事は、後になって知った。
 雷門の予選2回戦の相手は、御影専農だ。計り知れない人脈を持つ影山は、この学校の背後にも存在していた。鬼道は影山に連れられ、御影の監督室で試合を観戦していた。
 御影専農の監督は、影山の傀儡と言ってよかった。後半戦に入り、キャプテンである杉森が、監督からのラフプレイによる雷門潰しという指示がが実行不可能である事を告げたあたりから、常に冷静でコンピュータのように正確で乱れがないプレイスタイルからサッカーサイボーグとの異名を取る、御影専農のプレイスタイルが乱れ始めた。御影専農のフォワードが放ったシュートを、そのまま円堂と豪炎寺のふたりでシュートして1点返し、フォワードふたりの連携技で雷門が2点目を決めた時点で、御影専農に対する影山の期待は失望に変わり、監督室を後にした。
 影山に見捨てられた事で、絶望に陥った御影専農の監督は、そのまま何処かへ姿を消した。だが、それが杉森を初めとする御影専農には良い方向に作用したようだった。雷門勝利で終った試合には、会場からの惜しみない拍手と歓声が続いているのが、スタジアムを後にする鬼道の耳にも、届いていた。
 この展開に影山は失望していたが、鬼道は違った。
 むしろ、雷門が勝ち上がって来る度に、気持ちが高揚していくのを止められないで、いた。
 雷門の予選準決勝の相手は、秋葉名戸だ。御影専農戦のあと、豪炎寺にドクターストップがかかったと、土門から連絡があった。帝国との練習試合で、敵前逃亡とも言える行動をした奴が予想外の活躍を見せ、そのおかげで勝てた、との事だった。ただ、この試合に関しては、土門も多くを語りたがらないので詳細は謎だ。曰く、『解らない専門用語が多すぎて、どう報告して良いのか…すみません、鬼道さん』…らしい。
 ともかく、これで雷門が予選決勝戦まで駒を進め、帝国と戦う事になったのだ。
 これでようやく、豪炎寺と真正面から対峙し、戦う事が出来る。
 豪炎寺だけではない。雷門キャプテンであり、ゴールキーパーでもある円堂の事も、自分なりに調べていた。円堂の祖父が、伝説と呼ばれる存在である事を知り、円堂はじめ、雷門全員が予選の数試合という短期間で目に見えて力を付けてきている事に、喜びに似たものを感じている。帝国は、何としても、勝たなければいけない。自分達に、負けは許されない。だからと言って、手応えのなさ過ぎる相手はもう、うんざりだった。負ければ、妹である春奈を引き取り、鬼道家で一緒に暮らす事が出来なくなる。影山を失望させ、見捨てられるかも、しれない。それでも、じわじわと湧き上がってくる気持ちは、抑える事が出来なかった。
 土門に要請していたデータが届かず不審に思っている所へ、当の土門に雷門まで呼び出され、雷門を決勝戦に出さない為に、裏から…サッカー以外の所…で影山が手を回していたことを聞かされたのは、その数日後だった。



「ひとつ、教えてやろう。優れた司令塔が居るチームは、試合の前に勝っている、という事だ。君は私の言う通りに、動いていればいい。何も、考えずにな」
 今まで、自分が総帥と慕う影山の指示に意見する事も、批判を口にする事もなかった鬼道が、初めて影山にぶつけた疑問への答えが、それだった。
 鬼道を初めとする部員達に影山が与える指示は、全てサッカーの試合に関する事だったからこそ、ここまで従って来たのだ。影山の指示に従い、プレイを組み立て、実行する。その結果が、40年間無敗の帝国学園を作り上げて来たのだと。そう、思っていた。部員達も、そう思っている筈だ。多少の疑問も、影山に何か考えがあってのことだろうと納得して来たし、それで問題など、なかった。
…問題がなかったわけではない。知らなかっただけ、だ。
 鬼道は、自嘲する。
 影山が、雷門サッカー部にそこまでの事をする理由が、鬼道には解らない。
 影山の持つ、サッカーそのものに対する復讐心を、鬼道はまだ、知らなかった。
 帝国の勝利を100%、絶対に勝てると言い切れる確実なものにする為に、正当な手段で試合に関するあらゆる策を立てる、というのであれば喜んで従ったものを、何故。
 手に入れたいと思ったものは、どんなに汚い手段を使ってでも手に入れる。手に入らなければ、相手の命を奪う可能性がある事でさえ躊躇せず、容赦なく潰す。影山が、今までそうやって現在の帝国学園を作り上げて来たのだとしたら、ここまでの手段を講じる雷門に影山の狙いとするものが、まだ、存在している、という事なのではないのか。思えば今まで、影山は雷門など歯牙にもかけなかったではないか。

 影山が目的とするもの。

 影山が欲しがっていたものは、何だ。

 影山が必要としながら、未だその手にしていないものは。



 …豪炎寺……?



 大会が始まる前…豪炎寺が雷門に転入した時点で、影山が執着を見せた名前を思い出す。
 鬼道の背中に、冷たいものが、走った。





 鬼道が影山に対して疑問を持ち始めた時と前後して、土門との連絡が取れなくなった。
 日を置かず、鬼道は土門が冬海のスパイ行為を雷門の理事長宛に告発したと同時に、自分も帝国のスパイである事を冬海に暴露されたと、影山から聞かされた。影山が、土門をそれ以上気を留めていない事が幸いだった。土門は帝国に戻らず、雷門に残る事にしたようだった。
 一度影山に対して抱いた疑問は、鬼道の内から消える事はなかった。
 練習をしていても、無意識のうちに考え込んでしまう。
 土門に告発された冬海が、雷門の教職を解雇された事を聞いた。決勝戦を数日後に控え、新監督がまだ決まっていない事も、聞かされた。大会規約により、監督不在のチームは出場出来ない事になっている。冬海にとっては皮肉な事に、自身の罷免が雷門を決勝戦へ出場出来ない状況を作り上げた事になる。
 …それすらも、影山にとっては計算済みの事だったのか。
 圧倒的な権力の行使により、恐怖を与え、傀儡を作り上げる。作り上げたそれが、自身のどういう言葉でどういう行動を取るのか、影山のやり方を知った今となっては、全てを見通しているように思えてならない。
 俺達の事すら、も…?
 信望していた総帥に、裏切られたように感じる。自分の、自分達の努力や勝利が、全て影山の策略によるものかもしれないと思うと、何を信じて良いのか解らなくなる。
 執拗に雷門を陥れようとする影山の狙いは、本当に豪炎寺なのだろうか。
 考えれば考える程、考えたくはない深みへ入り込んでしまい、やりきれない気持ちで身体が重くなっていく。
 雷門の連中は、どうしているだろうか。
 決勝戦に、出られないかもしれない状況で、何を思っているのだろう。帝国を恨んでいるだろうか。外から見れば、影山がやっている事も、影山の指示で鬼道達がやっている事も、同じように見えるだろう。
 気付けば、雷門が練習をしている河川敷に足を運んでいた。
 自分が詫びたところで、どうにか出来るものではない。解ってはいても、冬海と土門の事を謝りたかった。
 橋の上に立つ自分の姿に、最初に気付いたのは土門だった。隣に居た豪炎寺が土門の視線につられて鬼道を見る。ふたりの様子に、他の部員も一斉に視線を動かし、鬼道の姿を認めた。その視線が、表情が、厳しいものに変わる。ここまで来たものの、どうして良いものかと考えながら橋を渡り終えると、円堂が堤防の上まで駆け上がって来た。
 自分がここまで来たわけを円堂に伝えると、あっさりと『あ、その事はもう、いいんだ』の一言で済まされてしまった。堤防の上で話すふたりを、河川敷から揃って見上げている雷門の部員の中、土門へ視線を移すと、鬼道に向かって軽く頭を下げるのが見えた。その表情は穏やかだった。スパイ行為をしている、という後ろ暗さから解放された所為もあるだろう。だが、鬼道にはもっと別の理由がるように思えた。
「…羨ましいよ。お前達が」
 鬼道が口にした言葉に、円堂が驚いていた。
「それに比べて、俺達は」
 この数日間抱え続けているものを少しでも口にしてしまえば、後はもう、吐き出してしまわずには、いられなかった。
「帝国が全国の頂点に立ち続けているのは、総帥の策略のおかげだ。…俺達の、実力じゃない」
「そんな事ないよ」
「常に頂点に立つ為に、俺は人一倍、努力してきたつもりだ。だが、今までやってきた事は、全部ニセモノの勝利だった…!」
「んな事ないって」
 自分が吐き出す度に、ありきたりな慰めにしか聞えない言葉を返す円堂に、鬼道は苛立ちを覚えて叫んだ。
「お前に何が解る!」
「解るよ!俺、お前からいっぱいシュート食らってるんだぞ!帝国の強さは、俺の体が知ってるぜ!」
 即座に返された円堂の答えに不意を衝かれた鬼道は、泣き笑いのような表情を浮かべる事しか、出来なかった。
 決勝戦に出られるのかと問う鬼道に、新監督は何とかする、何なら一緒に練習をしないかと誘う円堂に『そのうち、な』と言葉を返して、鬼道は自宅へと足を向けた。
 戻る道すがら、吐き出したはずの考えや気持ちに再び囚われていくのを、どうする事も出来なかった。
 影山の、雷門への執着が豪炎寺を目的としているものだったとしても、今頃になって手に入れようとするのは何故なのか。
 今までも、影山には自分達には伝えられていない目的があり、その為に自分達が利用されていただけでは、ないのだろうか。
 今まで影山を盲目的に信望していただけに、疑問を抱いたからと即座に否定する事が、鬼道には出来なかった。自分も、自分と共に影山について来た仲間も、全てを否定する事になってしまう事に、抵抗と恐怖が、捨て切れない。。だからと言って、今までのように影山に従う事も出来ない。
 浮かんでは消え、消えたかと思えば浮かび上がってくる、影山に対する疑問と抵抗、恐怖。様々な感情と思考が身体に渦巻き、動く事が出来ずにいる。養父にも、仲間にも、相談する事など出来ない。
 独りになりたいとも思わなかったが、独りで居るしかないようにも思えた。
 帰宅するなり自室に篭ったまま、出て来ない鬼道を心配した養父が呼んだのだろう、車が止まる音がしてしばらくすると、養父と影山の声が廊下から聞え、少し遅れて足音が自室に近付いて来た。
 部屋に入って来た影山に、鬼道は問う。
「俺は一体、何です?」
 我ながら抽象的な言葉だとは思ったが、他に、言葉が見つからなかった。
「考えるな。私やお前の父を失望させるなよ」
 考えるな、と言われるのは、これで何度目だろう。自ら考える事などせず、ただひたすら影山に忠実な下僕(しもべ)である事を、それだけを、望まれていたのか、自分は。それ以外は何も、望まれてはいなかったのか。
 影山が続ける話を聞けば聞く程、抱えていた疑問が、確信へと変わっていく。
「総帥の言う勝利は、実力の上に成り立つものじゃない。あなたは、俺だけじゃなく、チームの皆を否定している…!」
「敗者は醜いぞ。…お前も、ああなりたいのか」
 鬼道が初めて見せる、あからさまな批判の言葉は、影山の一言で切り捨てられた。その言葉に、過去、影山の指示に従って敗北を与えて来た者達の様子を思い出した鬼道は、唇を噛み締める事しか出来なかった。
 そんな鬼道の傍らに置かれていた、色褪せた表紙のサッカー雑誌に影山の手が伸びた瞬間、鬼道は反射的に『触るな!』と叫びながらそれを手に取り、ソファから…影山の傍から、離れた。
 呼吸を乱し、雑誌を両手で胸に抱え込むようにした鬼道は、手にしたそれに視線を落とし、安心したように小さく微笑んだ。そんな鬼道の姿を見た影山が、無表情な顔と声で言う。
「思い出にしがみついていては、弱くなる。捨てろ」
 その言葉を聞いていなかったかのように、鬼道は先程の影山に対する答えを口にする。
「たとえ敗者になろうとも、全力を出し尽くした勝負ならば、悔いはありません!」
 影山は、数拍の間を置いた。小さく息を吐くのを隠すように色のついた眼鏡に手をやり、鬼道に向かい合う。
「…最初の質問に、まだ、答えていなかったな。俺は一体何です、と問いかけていたが…」
 影山の声の調子が、変わる。
「お前は鬼道有人だ!解るだろう…?」
 強い口調でそう告げると、影山は鬼道の部屋を出て行った。
 養父や影山を失望させる事なく期待に応え続け、逆らう事のない忠実な下僕。自分に求められているのは、自らそう在り、同じように作り上げられた者達を影山の思惑通りに動かすこと。鬼道が影山に疑問をぶつけた事によって得られた答えは、そういう事だった。
 影山に見捨てられる事への恐怖よりも、自分を否定された感覚が、強く残った。
 正々堂々と試合に臨む。その結果、勝敗が決まる。
 自分がやりたいのは、ただ、それだけの事だ。
 影山の思惑が豪炎寺だけではなく、影山自身の中にある何かの為にしろ、自分達には解らない政治的な駆け引きというものや、大人の事情と呼ばれるものが絡んでいるにしろ、その為にだけ、自分達が利用されているのだとしたら、やり切れない。
 今まで影山の命令に逆らう事なく任務をこなし、自分と共に影山を総帥と仰いで来たチームの連中に、今になって影山の所業…自分の知りえた範囲と言えば、冬海の事程度だというのに…を伝えて、何かが変わるだろうか。
 …変わらないまでも、伝える必要がある。
 自分が今、影山に抱いている思いを。自らの意思で行動を起こそうとしている自分は、影山にとっては邪魔者でしか、ない。突然の自分の行動に反発して、或いは影山の報復を恐れて、離れていく奴も居るだろう。それでも、自分に賛同して付いて来てくれる奴が、たとえひとりでも居るのなら。そこから何かを、変えて行く事が可能では、ないだろうか。その可能性に、賭けてみたい。
「どうした?部室じゃダメなのか?」
 練習に向かうレギュラーメンバーを呼び止め、通路の片隅に集めた鬼道に、源田が尋ねた。
「どこで聞かれているか、解らないからな」
 少なくとも、グラウンドや部室は影山の監視下にある。影山に聞かれては拙い話である事を、鬼道の言葉で察したメンバーは鬼道を取り囲む距離を縮め、鬼道の次の言葉を待った。
 伝える順番を間違えては、いけない。鬼道は、慎重に言葉を選ぶ。
「…俺は総帥のやり方を否定する。皆、俺達のサッカーを、やりたくはないのか?」
 雷門との決勝戦は、明日に迫っていた。

END 2010.04.03

「名詞30題」より『02.決意』です。「名詞30題」の『01.挨拶』の続き…の、ような内容にな…ってしまいますよねぇ…アニメの流れを追うのであれば。ですからまあ、単純に同タイトルで『2』になっております。1話だけでも、読める状態になっていると嬉しいのですけれども、無理っぽいですかね…。鬼×豪というよりは、影×豪で影×鬼と申しましょうか、総帥ハーレムで鬼→豪と申しましょうか…おかしいな…そんなつもりは…。影山スキーなのが、こんなところに出て来てしまったという事で、恐れ入りますすみません。アニメ版の鬼道さんも修也さんもワタクシ的にはどちらも受と申しましょうか、むしろ百合にしか見えないのに鬼×豪チャレンジ!がいけなかったような気がしないでもありません。漫画版だとどちらも攻に見えてしまう。漫画版×アニメ版で全て解決☆という事ですか。