2010年 映画「最強軍団オーガ襲来」

「未来のあなたを知っている」

「……それは雷門の豪炎寺さんと、一緒にプレイできる、ってこと?」
 小さく呟く虎丸の目の前には、サングラスをした怪しげ、としか形容しようのないスーツ姿の男が立っている。
 男は、キーラードと名乗った。
 キーラードから告げられた内容は、到底、すぐに信じられるものでは、なかった。
 曰く、「過去のフットボールフロンティア決勝戦において、本来は世宇子VS雷門となる筈の試合が王牙学園という未来から来たチームとの試合になりそうだ。80年後の未来では、サッカーが危険思想だとされており、サッカーを世に広めた元凶である円堂守を葬る為に作り上げられた戦闘集団が王牙学園を名乗り、フットボールフロンティアに参戦している。雷門の危機を救う為、サッカーの素晴らしさを未来へ伝えた円堂守を、そしてその仲間を救う為、雷門のメンバーとして試合に出て欲しい」
 80年後、なんてものは、虎丸には想像出来なかった。自分が生きていれば92歳だ。生きているかどうかも、怪しい未来の想像なんて、した事がない。
 想像も出来ない未来ならば、タイムスリップとかいうものがあって、歴史を変えるの変えないのといった争いがあるのかもしれないけれども、現在はそんな技術はないのだし、そもそも未来から来た人間にも会った事なんてなかったし、色々と胡散臭い、としか思えなかった。
 その、筈だった。
 虎丸が気になったのは、ただひとつ。
 もし、この男の話が本当だとしたら。
 自分が日本代表の選考対象になって召集場所で初めて出会う"憧れの豪炎寺さん"と、雷門の同じユニフォームを着て、同じチームで戦う事が出来るんじゃないか?
 それだけ、だった。
まだ小学生の自分が、仮に雷門中学へ入学したとしても1年しか一緒に学生生活を送ることが出来ない。代表チームで一緒に過ごしていても、試合が終ってしまえば同じ日常を過ごす事が出来ない。虎丸にとっての豪炎寺は、そういう存在だ。大人になれば気にならない程度の年の差が、とてつもなく大きく感じる。そういう環境に、虎丸は居る。
 それに、もし、目の前の男が言う通り、過去の雷門の試合…自分が憧れた全てが変わってしまえば、今、ここでこうして過ごしている事も、ないのかも、しれないのだ。
 今もまだ、居場所を探して、自分の力を抑えて、チームメイトにパスを送る事に専念して、もやもやした気持ちを抱えたまま、サッカーをしているのかも、しれない。本当の、楽しさを知らないまま。
 本気を出す事を教えてくれた。その、楽しさや嬉しさを。
 本気のプレイを、受け止めてくれる人達が居る事を、チームの皆が教えてくれた。
 今の自分の居場所を、失いたく、ない。
 それに、それに。
 自分が憧れてやまない、けれど、どうやったって出来ない、過去の、雷門の、決勝戦のフィールドに立てる。しかも同じ、雷門のユニフォームを纏って。その中に、立てる。
 虎丸にとって、何よりも抗い難い魅力は、それだった。
 遠くから見ているしかなかった頃の憧れの人と、憧れのフィールドに、立つ。
 しかも、自分の力が、必要とされているのだ。この男の話を信じるのならば。
 こんな事はきっと、二度と、ない。
 疑って、断って、結果、騙されたとしても。もしも本当だったら?と不安を抱えたままで居るよりは、ずっと、いい。
「解りました。俺、行きます。宜しくお願いします!」
元気良く応えた虎丸に、笑顔で頷いた目の前の男は、あと数人に依頼をしなければならないから、と言葉を残して去って行った。
 我に返った虎丸がこの事をイナズマジャパンの監督に何て言えばいいのかな…と考えながら監督室へ向かえば、その前には同じような顔をした飛鷹が来ていたのだった。
 久遠監督は、ふたりの突拍子もないを黙って聞いていた。
(やっぱり、無理かな…)
 世界と戦う為にここに居て、その真っ只中だというのに、未来の雷門中が危機に陥っていて援けを求めているから行かせて欲しい、なんて事を易々と了承するようでは、監督としてどうか、と思う。
 確認しようにも、虎丸と飛鷹のふたりでは、それを証明する術がない。自分達が未来から来たという人物にそう言われたのだ、という甚だ心もとないものしか。
「用意は出来ましたか、ふたりとも!時間がありません!」
 監督室に唐突に現れたタイムホールとでも呼ぶのか、時空の穴のような空間から声がした。
「待って下さい、まだ話が…!」
「ああもう、試合が始まってしまったようです!早く!」
「でも!」
 虎丸と飛鷹がどうしたものかと迷っていると、久遠が口を開いた。
「…行くといい、ふたりとも」
「いいんですか?!」
「これを見て、嘘と言うのも無理があるだろう…うちの選手を、お願いします」
「了解です!必ず無事にお届けしますから!」
 時空の穴に向けられた久遠の言葉に応えが返されたかと思うと、ふたりの姿がそこに吸い込まれた。
 虎丸と飛鷹が吸い込まれた空間に居たのは、吹雪、ヒロト、フォディオ、カノンだった。
 キャプテンと似ている…と思っていたら、円堂のひ孫だと名乗ったカノンに驚いている暇もなく、虎丸が見たことのないユニフォームに身を包んでいる吹雪と、海外の選手に名前のみの簡単な自己紹介をしているうちに、試合会場らしきスタジアムの上空に着いていた。
 フィールドには、ただひとり立っている円堂と、そんな円堂を守ろうと、ぼろぼろになりながらも立ち上がろうとしている雷門のメンバーが見える。
 その円堂目がけて放たれたシュートを光が包み、消えたかと思った直後、カノンの姿がフィールド上にあった。
 自分達を呼ぶから、その時に出て来て欲しいとカノンは言っていた。まずは、円堂達に自分が円堂のひ孫である事を信じてもらわなければいけないから、らしい。
(……すぐには信じられないと思うんだけどなあ…)
 虎丸は、そんな事を思ったけれども、すぐに大丈夫だろうと考え直した。
(……だって俺も、信じちゃったんだし。未来から来た、って人の事)
 突然の出来事に試合は一時中断し、ベンチへ戻った雷門イレブンにカノンが何やら話している。
 円堂がいつも持っていたノートを取り出して懸命に話すカノンの姿と、頷く雷門イレブンの姿が見えた。
 戦っている相手は王牙学園というらしい。王牙のキャプテンマークをつけた人物とのやりとりが聞こえる。キラードと名乗る博士が自分に言っていた通り、王牙学園は未来から来てサッカーの歴史を変えようとしているらしい。自分達は、それを阻止する為の戦力なのだ。
「一人じゃないさ!俺が遅れたのは、最強の仲間達を集めてきたからなんだ!みんな!出てきてくれ!」
 カノンの声が自分達を呼んだ。
 虎丸は吹雪に続いて、フィールドへ降りた。飛鷹、ヒロト、フィディオがそれに続く。
(……豪炎寺さんだ…!)
 まだ、イナズマジャパンで自分と出会う前。憧れの、雷門中の豪炎寺が目の前に居る。
(ここで過去が変わっちゃったら、一緒に世界へ行く事も出来ないんだ…絶対に、負けるもんか!)
 難しい事はよく解らないけれど、この先の出会いが、自分がサッカーの楽しさを知る事の出来た未来が、なくなってしまうなんて事は嫌だという、それだけは、確かだった。
 試合が再開された。残り、10分。
 試合再開と同時に先行していたエスカバに、バタップからのボールが渡る。虎丸は鬼道が抜かれたと見るや、そこに走り込む。かわされたけれど、すぐに反転出来た。ついていけない動きでは、ない。
 エスカバの後方から回り込み、スライディングを仕掛け、ボールを奪う。雷門陣営からの声援が届く。今度は自分が、届ける番だ。豪炎寺の位置を確認し、必殺技であるタイガードライブを放つ。
「豪炎寺さん!こいつを打って下さい!」
 虎丸は無意識だったけれども、未来から来た自分は未来の豪炎寺を知っている。憧れだけではない感情を、持っている。ここが過去である事など意識する事も忘れて、いつものように豪炎寺に声を掛けていた虎丸だったが、豪炎寺にしてみれば、ここで初めて会ったというのに、しきりと意識して声を掛けられているように感じるものだった。
 それでも、虎丸が必殺シュートに込めた全てを、豪炎寺は受け止めようと跳躍した。
 たとえ未来の事を知らなくても、今ここで負けたくないという思いは同じだ。
 豪炎寺の脚から放たれたマキシマムファイアが、王牙ゴールへと突き刺さる。雷門が1点を返した。
「虎丸!いいボールだったぞ」
 ポジションに戻る豪炎寺から掛けられた声が、何よりも嬉しかった。
(だって俺があの時タイガードライブを打てたのは、豪炎寺さんのおかげだから)
「豪炎寺さんこそ、最高のシュートでした!」
 こんな、嘘みたいな出来事がなければ、雷門のユニフォームを着て、同じフィールドで見る事なんて、叶わなかった。
 嘘みたいな出来事の中で、嘘みたいに決まったシュートチェインが、とてつもなく、嬉しかった。
 虎丸に続いたのは、吹雪だ。ミストレから奪ったボールを、吹雪の必殺技であるウルフレジェンドで豪炎寺へ送る。豪炎寺が、再びマキシマムファイアを放つが、ザゴメルの必殺技で防がれた。しかし、その後のフィディオとヒロトのコンビネーションからカノンへと渡ったボールをカノンが必殺技で決め、雷門が同点へ追い付いた。
 王牙も、黙ってはいない。風丸が捨て身で止めたボールをフィディオが受ける。フィディオから再び風丸へ、そしてまたフィディオへ。フィディオの脚が必殺技を放ち、それはカノンへ向かう。当たり前のように行われる、連続したシュートチェインは分身技としか呼べないようなザゴメルの必殺技によって止められ、その様子を見ていた虎丸は地団太を踏んだ。そんな事はお構いなしに王牙の猛攻が雷門を襲い、虎丸も吹っ飛ばされた。
 バタップが、受けたボールから必殺シュートを放つ。飛鷹がセーブしたボールは、雷門陣営に回る。ヒロトが、豪炎寺と鬼道に向けて必殺技を放った。ヒロトから送られたボールにふたりの新たな力が加わる。虎丸が今までに見た事のないシュートは、プライムレジェンド。新たなシュートチェインだった。
 それが3点目となり、雷門が逆転。バタップ、エスカバ、ミストレの三人が放ったシュートを円堂が止め、試合終了のホイッスルが響いた。
 円堂と話していたバタップ達が、空からの赤い光に包まれ、そのまま消えていった。
 どうやら過去は変わる事なく、虎丸の知る未来へと続くようだった。
(…面白い、って言ったら、怒られちゃうかもしれないけど…でも、面白かったなあ)
 埋める事の出来ない、自分ではどうしようもない、歳の差。
 それなのに、自分は今の豪炎寺の知らない、未来の豪炎寺を知っている事の優越感のようなもの。
 叶わないと思っていた、フィールドに同じ時に立てた事。
 そして、勝つ事が出来た。
 その勝利に、自分の力が少しでも、役に立った。
 それを、認めて貰えた。
 虎丸にとってはどれもこれも夢のようで、試合後の高揚感も夢の所為なのかもしれない、と思う。
「ありがとな、カノン!吹雪!飛鷹!ヒロト!フィディオ!」
 別れが近い事を告げるカノンに振り返った円堂が、笑顔で礼を言った。
「こういう試合もいいですね。また会いましょう!」
(これが夢でもいいや。だって、会えるんだ、近い未来に。そして、一緒に世界へ行くんだ!)
   そして帰った未来、虎丸にとっての現実の世界には、いつもと変わらないイナズマジャパンのメンバーが居て、これからの未来を共に作るのだ。
 憧れだけで終わらない、未来がある事を知っている。
 今度は同じフィールドで、一緒に、まだ誰も知らない未来を作り出して行く事が出来る。
 それを確信出来た事が、虎丸は何よりも嬉しかった。

END 初出2010.12.23.覚書 加筆修正2012.03.04.

「動詞30題」より『04.たつ』です。立つ・経つ・発つ・断つあたりを使おうと思っておりましたので、同じフィールドに「立つ」という事で。竜、にすれば2011年映画ネタになりそうです。<白竜と剣城、聖帝様あたりで。映画で何に驚いたって虎丸が「円堂さん!豪炎寺さん!よろしくお願いします!」と円堂を一番に呼んだ事ですよ。豪炎寺豪炎寺言ってるイメージしかなかったものですから。(同じ理由でTVシリーズの卒業式の話も驚いたという…)虎丸メインですので、かなり端折っておりますけれども、そのあたりはご容赦下さいませ。