出会いはとんでもなくて、その後の唐突な誘いも、わけわかんないまま引き摺られた感じだった。だけどすぐにこの人の事が好きになって、でもそれは恋愛ってものじゃないはずだった。
極彩色に染め分けた髪にとどめの三つ編み、大きなピアス。言葉も行動も乱暴で、だけどいつも大切な事に気付かせてくれた。成り行きでサイバーフォーミュラのレーサーなんてものになった僕は、いろんなしがらみや意地でなんとか戦ってはいたけど、自信なんてあるわけなかった。だけど周りのやみくもな期待に応える形で、それを続けていて。負けず嫌いな性格もあるから、途中で辞めるのも嫌だった。走る事が楽しい、と思ったのは、この人に誘われた、滅茶苦茶な公道レースが最初だったのを覚えている。
再会したのは賭けレースの会場だった。いくら僕を優勝させるって約束をしたからと言って、優勝賞金以上に金をかけてあるだろうマシンを大破させてまで、走ってくれるなんて思わなかった。額から流れる血もそのままに、他は無傷でマシンを降りたあの人は、おどけた風情で笑って見せた。そして、そのまま僕の前から姿を消した。
会いたい、と思っても、連絡先も知らない。たぶん、本名すらも。
ふとした時に、あの人の顔が、言葉が、僕の身体を駆け巡って、そればかり考えていた。一人っ子の僕には修兄さんやあすかがいたから、最初はもうひとり、お兄さんが増えた…程度の気持ちでいたのに、思い出すとどきどきして、やたらと顔が見たくなって、もう、どうしようもなかった。額から流れたままの血で、舐め取った舌を赤く染めた時の姿を思い出して身体が反応した時は、まさか、と思った。今まで15年しか生きてないけど、女の子を好きになる事はあっても男の人なんて……恋愛感情の意味で…好きにはなった事ないし、でも身体は反応してるしで、混乱したまま恐る恐る自分で処理した衝動は、とんでもなく気持ち良かった。そんなので自覚するのもどうかなあ…なんて思ってもみたけど、どうしろって言うんだよ。
つり上がった大きな猫目。いつだって強引で、自信に満ち溢れていて、格好いい。けど、にしゃり、と笑う顔は思った以上に幼くて、髪を降ろすとがらりと変わる印象、細っこいのに力強い身体、何もかもが意外で、でも、綺麗…だと、思った。
僕は、加賀さんが好きなんだ。
「んーな思いつめた顔して、どしたよ?ん?ハァヤト?」
場所はZIPのモーターホーム。どうにかして会えないかなあ、なんて思って、それでも方法がわからなくて、欲求不満もいいとこに来てた僕の前に、加賀さんは現れた。ライバルチームのひとつであるアオイがZIPを買収して作った、新しいチームのドライバーとして、いきなり第7戦アフリカグランプリを走って前半優勝、総合2位、なんていう、とんでもなさを見せつけてくれた。裏の世界でしか走ってこなかった人なのに、なんだってこんな中途半端な時期から表舞台に出てきたのか、とか、賭けレースで大破したマシンの行方、とか、気になる事はあったけど、とにかく僕の目の前に加賀さんがいる、って事の方が大事だった。どうしようもない気持ちを、伝えずにはいられなくて、モーターホームに押しかけた。僕の事を弟みたいに思ってくれてるのは、知ってる。だから、嫌な顔するはずがなくて、でも僕の気持ちには気付いていないから、加賀さんはくるくる変わる表情を少し心配そうに歪めてくれて、どうしていいのか、わからない。
独特のイントネーションで呼ぶ僕の名前が耳に心地良くて、余韻に浸っていたりしたから、気付けば加賀さんの顔が目の前にあって、びっくりした。
「なんか、悪ィもんでも食ったか?いつもの元気な子犬さんみてぇなおめぇは、どした?」
そう言う加賀さんは猫そのまんま、な印象の顔をしていて、至近距離からその大きな目で僕の事を覗き込んでいた。これから告白しよう、って心臓ばくばくいわしてる時に、それは、ないよっ。心臓に、悪いっ。
「俺の表彰台、祝いに来てくれたんじゃあ、ねぇのか?それとも宣戦布告ってヤツ?それならそれで、受けて立ってやるから、遠慮せんでもいんだぞ?まっ、負けてもやんねぇけど」
いつもの飄々とした口調で、加賀さんが言う。もおっ!そんなんじゃ、ないってば!
固まったままの僕をどう思ったのか、ため息ひとつを大きく吐いて、加賀さんが僕から離れた。
「俺ぁ、シャワー浴びてくっから、そこで待ってろ。その間に落ち着いとけ。なァんか、思いつめてるみてぇだし、話なら聞いてやっから。烏の行水だもんで、すぐに終わる。な?そこいらにあるもん…つっても、水と茶ぁぐれぇしかねーけど、それでよけりゃ、勝手にしてろや」
言いながら、加賀さんがレーシングスーツを脱ぎ出した。だからっ。心臓に、悪いんだってば!
「加賀さん…っ」
思わず声を出してしまって、思いのほかそれが大きかったもんだから、加賀さんが驚いて目を見開いている。瞬間、きょとん、とした顔が、なんでそんなに可愛いんだよっ。僕より4つも年上のくせにっ。
「ハヤト?」
「なんで、そこで脱ぐの!」
「脱がなきゃシャワー、浴びらんねぇだろが。なんせ初出場で表彰台かっさらっちまって、シャンパンたっぷり浴びたもんだからして、流さねぇとべたべたしたまんまで気持ち悪ィし?ってのは嫌味だぁな。ま、久々に気持ちいいレースだったもんでな、ぼけぼけしてシャワーしそこねちまってるとこに、おめぇが来た、ってぇ訳だ。んーじゃ、ま、ちょっくら待っとけや、ハヤト」
「待てないよっ」
もう、わけわかんない。好きな人に告白しに来て、どうしようかなんて思ってるうちに、目の前で服を脱がれたら、どうしたらいいんだよ。加賀さんは男で、僕も男で、だけど加賀さんは僕の好きな人だから、そんなの見て落ち着いてる方が、どうかしてる。
そりゃ加賀さんにしてみたら、僕がそんな感情持ってる事なんて知らないんだから、仕方ないけど。でも、ものは、加賀さんだよ?べたべたしたレーシングスーツを半端に脱いで、素肌に貼り付いたシャツに浮き出る身体のラインとか、濃い紫のスーツと対比をなしてる白い肌とか、くたり、と降りてきてる立てた髪とか、そんなの見せつけられて、平気でいられる訳、ない。
「ハァヤトぉ…おめ、本気で変だぞ?」
呆れたような口調で、戸惑った表情。だからっ、そういうのは、ダメなんだってばっ。今の僕には、キツい…っ。
「ああ、もうっ。変だよっ。わかってるよ、そんなの!だって、加賀さんが悪いんだからね!」
もう、自分で何言ってるかも、知らない。堪え性がない、ってのは、いつも修兄さんやあすかに言われてる事だよ、わかってる。でも、加賀さんが悪い。なんで警戒心がないの?僕が年下で、弟だから?こんなに不審きわまりない(って自覚ぐらい、ある。あるだけ、だけど)僕に、本気で心配してるのかなあっ、もお…っ。
「僕は、加賀さんの事が好きなんだからっ!」
「おお。俺も好きだぜ?ハヤト」
なし崩しの告白に、返って来た答え。
「可愛いし、根性あるし、見所あるし、面白いわ。もー、ほんっと、加賀さんのお気に入りよ?おめぇも俺が好きなら、両思いで目出たいこったな」
いつもの口調と表情は、情けないけど本気だか嘘だか、わからない。はぐらかしてるの?本気にしていいの?
「加賀さん、僕の好き、って意味、わかってんなら、からかわないでよね」
「おめぇこそ、俺の事が好き、って意味がわかってんのかよ?あ?ハヤト」
わかってるから、困ってるんじゃないかあっ。
「俺ぁ男で、おめぇも男。で、おめぇの言う好き、ってのがレンアイだってんなら、ホモ決定。簡単に言や、そーゆーこったろ?」
「違うよっ。僕は、ホモなんかじゃ、ない。だって、男の人好きになんて、なった事ないし…っ。気持ち悪いよ、そんなのっ。だけど、加賀さんだけは、別なんだ。男の人だけど、好きだし、欲しいと思うし、もう性別なんて関係ない。好きなんだもん。加賀さんだけ、だよ。特別なんだ。加賀さんだから、好きなんだよ。セックスとかしたことないし、そんなのわかんないけど、加賀さんが、欲しいんだ。だから…っ。僕のものに、なって下さい…っ」
なし崩しも、いいとこだよ。だけど、僕の正直な気持ちだ。嘘は、言ってない。
喚き散らすような告白でみっともないけど、どうしようも、ない。
大きく息を吐く音がして、加賀さんがため息をついたのが、俯いた格好の僕にもわかる。
「そーゆー事なら、無理だな」
何、が…?
「なあ、ハヤト。おめぇが俺の事を、レンアイとして好きだってのは、わかった。でもな、ホモなんかじゃない、とか、気持ち悪い、とか言われっとなあ…」
「…加賀さんて、ホモなの?」
純粋に、疑問を口にした俺に、加賀さんが、がくり、とうなだれる。
「あのな…。性別なんか関係ねぇ、ってんなら、ホモが気持ち悪いの、てめぇがそうじゃねぇだの、てめぇがいわゆるノーマルだって事、わざわざ力一杯言う事じゃねぇだろが。ノーマルなてめぇが、俺にだけはレンアイ感情持ちました、それはあなたが特別だからです、って言われて、俺が喜ぶとでも思ったのかよ。そらまー、好かれんのあ、嫌われるよりゃ、嬉しいがな。俺の事、わかってねぇよ、おめぇは」
「わかるわけ、ない…っ。だって加賀さんはどこに居るのかもわかんなくて、いつも加賀さんが僕のとこに来てくれるまで一緒にいることなんてなかったんだし。でも、好きになったんだから。でもって今、近くにいるんだし、平気なまま見てるだけ、なんて出来ないしっ。どうしろって言うの?!僕がホモで、男の人に欲情するような変態ならいいって言うの?!」
こんなの、言いたいわけじゃないのに、もう、滅茶苦茶だよっ。
「そらー、おめぇ…俺にも、世の同性愛者の皆様にも、失礼ってもんだな」
「何がだよっ。だって僕は男の人を好きになったの、加賀さんが初めてなんだし、他なんて、知るもんかっ。僕が加賀さん以外に欲情するなんて、気持ち悪くて考えられない。それの何が、悪いって言うんだよっ」
喚きすぎで、酸欠になりそうだよ。なんか、も、すごい息が切れてるし。
ぜぇぜぇ言ってる僕に、加賀さんが向き直って、近づいて来て、まっすぐに視線を合わせてくる。
「俺ぁ、おめぇが悪いたぁ、言わねぇよ。同性愛者が気持ち悪いとか、好きになれねぇ、ってのは、そいつの好みの問題なんだしな。だがな、そーゆーのを軽々しく口にするもんじゃねぇんじゃねーかぁ?ここで、俺がおめぇにそう言って断ったら、どうする気なんだ?笑って、無かった事にするつもりでいたか?それとも代わりに女の子を好きにでも、なんのかよ」
「あ…」
そんなに簡単に、変われるわけ、ない。
なし崩しの告白だったけど、僕なりに必死なんだ。それを、そんな風に断られたら、すごく嫌だ。そうやって断られたって、不思議じゃないのに。それで傷つく自分は想像して悲しくなる事はあっても、加賀さんなら僕を傷付けるような断り方なんてしない、って、やみくもに思ってた。
「そらまー、何の疑問も持たずに女の子好きになんのが普通、だって思う奴のが、多いわな。おんなじ男好きんなって、悩まねぇ方が珍しいとも思うし。んーでも、自分が間違ってねぇって思いたいばっかりに、嗜好の違う他人を下に見て言い訳に使うのは、感心しねぇな。おめぇの告白に応える、ってこたぁ、同性に欲情する変態さんとやらに、俺にもなれ、つーことか?」
「そんなんじゃ、ない…っ」
僕だって、それなりに悩んだりはしたけど、加賀さんをそういう風に見る事になるだなんて、考えてなかった。こんなに好きなんだから、性別なんか関係ない、って思って、加賀さん以外には身体も反応しないから、それだけ特別な人で、本物の恋とかいうやつなのかも…とか思って。
「おめぇが世間さまで言うところのノーマルだとして、だ。どんな女の子にでも、欲情するか?」
「そんなわけ、ない…っ。だって、好き、っていうのは特別なんだから。ひとりだけ、だよ。誰彼かまわず欲しい、なんて思うわけ、ない」
「だろ?おめぇ言うところの変態さん達だって、おんなじ、ってこった。なんでか知らねぇけど、そいつだけが好きで、欲しくて、それに理由なんてもんは必要ねぇ。自分の中から、自然に湧き上がってくるみてぇな、そーゆーもんだろが。なんも、おかしい事なんてねぇと思うぜ?ま、他の奴のこた、知らねーが、少なくとも俺ぁ、そうだな」
そう言いながらにぱり、と笑った加賀さんの手が、僕の髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「おめぇの告白は受け取った。応えてやるこた、できねぇけど、な」
「加賀さん…」
髪を掻き回す手はこんな時だけ優しくて、みっともなくえぐえぐ泣くしか、できない。いちお、失恋だよね、これ。『お友達でいましょう』ってやつなのかな。
「俺ぁ、おめぇの事は好きだぜ?けど、男同士でレンアイすんなら、そーゆー言い訳を自分に使う奴は女以上に面倒でヤなんだよ。てめぇで引きずり込んどいて、勝手に盛り上って、都合悪くなりゃあ、すぐに逃げる。てめぇだけが間違ってねぇ、って顔して、こちとら悪者にされたまーんま、挙句に変態だの好きモノ扱いされたりしがちだし」
はふ、と小さく息を吐き出しながら言った加賀さんの言葉には、いやに実感がこもっているようだったから、えぐえぐ泣いたままだったけど、かまわずに聞いた。だって、気になるじゃないかっ。男同士でレンアイすんなら、って、加賀さん、さっき聞いた時はホモじゃないって言ってたよ?
「…それって、実体験…なの?加賀さん…。さっき、僕が聞いた時は、ホモじゃない、って言ったじゃない」
「俺ぁ男だろーが女だろーが、そん時にならねぇと、どっちがどう好きになってるかもわかんねぇし、ホモが男限定だとすんなら、ホモじゃねぇのは確かだな。まー、なんだ…おめぇ言うところの変態さん、なもんでなー。どっちでも、O Kだったりするんだわ、加賀さんは。んだから、おめぇみたいな告白は、それなりにされとってな。でもってまあ、毎回おんなじよーなパターンで終わる、つーか、な。だから、おめぇじゃ無理。おわかり?」
あっさりとそんな事を言った加賀さんは、髪を掻き回していた手でぽんぽん、と僕の背中を叩きながら、しょうがないな、って顔で笑ってくれている。
「でも、僕は加賀さんが好きだよ。無理だって言われたって、どうしていいのか、わかんない」
たぶん、加賀さんの言う事の全部なんて、わかっちゃいないんだろうけど。それでも、好きだって気持ちが、すぐに消せるもんでもない。嫌われたわけじゃ、なさそうだけど、だからってどうすればいいか、なんての、わからない。
「選ぶのは、てめぇだ。ハヤト」
「何を、選ぶの?僕は加賀さんが好きで、加賀さんも僕の事好きで、でもレンアイは無理なんでしょ?どうしろって言うんだよっ」
わかんない。好きだって気持ちは抑えられなくて、でも、好きだって返してくれた人は自分のものにはなってくれなくて。このまま好きでいるのも辛いけど、嫌いになんて、なれるわけもなくて。こんなの、初めてだから、も、全然わかんない。
「今のおめぇじゃ、俺とそーゆー関係…身体込み、での話なんだがな、この場合…に、なんのは、無理だ。んでもよ、先の事なんざ、わかりゃしねぇだろ?」
「先…?」
「おめぇが俺の事を、そーゆー意味で好きだ、ってんのを続けんのも、止めんのも、そりゃあ、てめぇの勝手で、俺の知ったこっちゃねぇ。俺はそーゆー意味ナシでも、おめぇのこた、気に入ってるし、これまで通りでいんなら、なんも問題ねぇよ。それが耐えられねぇ、ってんなら、離れるなり何なりすりゃあいい。てめぇの事はてめぇでカタつけんだな。俺ぁ、そこまで面倒見良くは、ねぇもんだからよ」
「僕が…このまま加賀さんの事が好きでも、いいの?」
「いいも何も、そいつぁ、おめぇの考えるこった」
「迷惑じゃ、ない?」
「思うぶんには、どうこう言う気もねぇし。俺が、今はおめぇにそーゆー感情を持てねぇ、ってだけの話だしな」
今は。って、事は。今は駄目でも、この先に可能性がある、って事だとしたら。この際、そんな可能性なんて無くても気持ちに変わりないんだけど、少しでも希望があるなら、嬉しいじゃない。
加賀さんが僕を突き放す事もなく、こうして居てくれてるんだから、甘えてるばっかりじゃ、駄目だよね。チャンスが残っているのなら、手を伸ばさないと、何も、捕まえられない。
だらだら流れてた涙を一息に拭って、加賀さんを見る。
「僕、加賀さんの事が好きなの、止めません。止めないし、それに、諦める気も、ありませんから。もっと、ちゃんと大人になって、もう一度、告白します。だから、待っててくださいね、僕の事」
僕の思いを誇れるように、加賀さんの事を思い続ける。きちんと大人になって、今度こそ加賀さんに応えてもらうんだ。レンアイなんて始めよう、なんて言って始めるもんじゃないけど、レンアイの対象にすらなれないんじゃ、お話にもなんない。まずは、そこから、だよね。
「んーじゃま、せいぜい頑張るこったな。俺ぁ、気の長い方じゃねぇから、いつまで待てるかはわかんねぇけど」
にぱり、と笑って加賀さんが言ってくれた。ああ、もう。大好き。絶対、手に入れる。待ってた事、後悔させない男になって、もう一度、加賀さんに告げるからね。
「大好き、加賀さん」
「おお、サンキュな」
泣き笑いになってる僕の目元に、加賀さんの舌が伸びて、残っていた涙をすくい取った。そのまま身体を抱え込まれて、頭を撫でられる。加賀さんがスキンシップ過剰なのは知ってるけどさ。今、するかなあ、そーゆー事っ。抱え込まれた状態だから、中途半端にスーツを脱いだアンダーシャツごしに、シャンパンの残り香と加賀さんの匂いがしてるし、目じりを伝う舌の感触がまだ残ってるし、意外と高い体温なんかも感じちゃってるし、なんか、色々危ない…っ。
「なにするんですかあっ、加賀さんっ」
「ま、お気に入りさんを泣かしたもんで、ちょっとした詫びとお慰め、ってやつ?」
「もぉっ。加賀さんにレンアイ感情持ってる僕に、今、それをする事ないでしょうっ」
「何おめぇ、反応してんの?」
「しそうで、困ってるの!くっつけるのは嬉しいけど、今、は、駄目っ。堪え性ないんだから…っ」
「若い、ねぇ…」
とっさに加賀さんの腕から抜け出た僕を、大きな猫目が綺麗な三日月のカーブを描いて見るから、急に恥ずかしくなってくる。わかってて、やってんじゃないの、この人ーっ。遊んでるよ、絶対。15歳の純情、(十分、不純なものがあるけどっ。言われたか、ない)踏みにじらないでよっ。
「そりゃ、若いよ。加賀さんよりはねっ。でも、すぐに追い付きますからね。僕の事、欲しがってもらえるぐらいに」
年の差は、どうやったって埋まらないけど。でも、すぐに追い付く。追い付いてみせる。加賀さんが、誇れるぐらいの男に、なる。
「ほーかよ。まっ、せいぜい楽しみにさせてもらわぁ」
けたけたと笑ってるけど、それでもバカにしたようには感じなくて、嬉しいのと恥ずかしいのと、なんか色々ごっちゃになって、一緒になって笑うしか、ない。
「そんじゃま、おめぇの話とやらも終わった事だし、帰れよ、ハヤト」
「ええっ。なんでですか?」
「俺ぁ、こんままシャワー直行。まー、俺の裸なんざ見た所で、どってこたぁねぇだろうが、その程度でサカってるおめぇが、湯上りほかほかな加賀さんに耐えられるたぁ、思えねぇしなあ。俺ぁ、無理やり突っ込まれる趣味は、持ち合わせてねぇかんな」
加賀さんの言葉に、そのまま裸とか湯上りの様子とか、その先の未知の世界とか、想像が勝手に先走って、思わず前かがみになりかける。
「おーおー、若い若い。先は長そうだなあ、ハァヤト?」
からかうような口調と、人の悪い笑み。こういう人だって、知ってる、けど…っ。
「加賀さんの、いじわるーっ!」
半泣きになりながらモーターホームを飛び出そうとしたけど、反応しかかった身体じゃそうもいかなくて、妙な姿勢でのたくたと靴を履く。加賀さんの大爆笑に見送られながら扉を出て、スゴウのモーターホームへ向かった。色んな意味で若いって、辛くて切ない…早く、大人になりたい。加賀さんに笑われるばかりじゃなくて、僕が加賀さんを幸せな気分で笑わせる事ができるように。それを隣で見る事ができるように。先は長そうだし、どうなるかなんてわかんないけど、絶対あの人に釣り合う大人になる。
無様に失った恋だけど、諦めない。奇跡は、これからだっ!って決意だけは強いものの、情けない姿勢と身体の状態には変わりなくて、やっぱり、若いって、辛い…なんて思う風見ハヤト、15歳。僕の恋は、これから。もう一度、あの人に告げられる日が遠くても、負けない。
「形容詞30題」より『14.あおい』です。タイトルはまんま、「ガンバレワカゾー」って事で。青い=15歳の風見でないと、書けない内容です。シリーズが進むごとに「風見さま」っぷり(笑)を全開にしてくださるので、可愛げ、というものがこの頃にしか見つけられない。(爆)あとはまあ、加賀の所属が「アオイ」だから。<単純にもほどがある。