好きで、大好きで、どうしようもない。伝える言葉を他には知らなかったから、それだけをひたすら伝えて、最初は笑っていた人が、いい加減にしろ、と、キレるぐらいに僕はしつこくて、キレられたところで何せ幼い僕との印象がどうにかすると変わらないぐらいの顔立ちの人だから、恋に狂った(という自覚ぐらいは、当時から持っていた)僕には怒った顔も可愛いな、ぐらいのもので、繰り返し繰り返し言い続けて、根負けしたというか諦めたというか、そんな感じで『で、好きなのはもう、嫌だ、っつーぐれぇ解ったんだけどよ…ど、したいんだか解らねンだわ…俺ァ…』『そりゃ、恋人になって欲しい、っていうか、ならせて欲しい、っていうか、そういう好き、だから、そういうお付き合いをしたい、っていう、そのまんま、ですよ?身体を満足させられるかどうか、っていうのは、まだ経験ないんで、解んないですけど』『…ハ〜ヤぁ〜ト〜ぉ…』うなだれた加賀さん(ハナから僕が抱く側でいる事にもショックを受けたみたいだった)の顔が、僕にはちょうど良い高さだったから、ちょっと背伸びしてキスしてみた。ら、そのまま、脱力して膝をついた加賀さん。そういうのじゃなくて、そのうち、キスで膝が立たなくなるようにしてあげる。とか、不埒な決意をしてみたりした。そのまま僕を引き剥がす方が疲れると思ったのか何なのか、なし崩しにお付き合いを始めた僕たちの…と、いっても、デートしたり、最初と変わらない程度のキス…この程度なら、加賀さんも逃げないというか諦めているというか、なのは解った…っていう、可愛いもんだけど…初めての、ヴァレンタインはもう、過ぎてしまった。
たかがチョコ、俗っぽいと言われても何でも、欲しいものは欲しい。ねだったら、きっと、くれたんだろうと思う。けど、それは加賀さんが僕にしたくてしたんじゃなくて、僕がねだるから、仕様がないな、っていう、それだけのものでしょ。そんなのは、嫌だ。だから、黙ってたんだけど、やっぱり何もなかった。当日気付いて、1日遅れになるのかな?っていう文字通り甘い期待なんかもしてみたりしたけれど、昨日も何もなかった。連絡すら。僕がぶんむくれるとたちが悪い(これも自覚しろ、と修兄さんやあすかによく言われる)のを知らない筈はないから、たぶん、今日あたり何かあるかな?と思っている僕の前に、紙袋を手にした加賀さんが現れた。ほーら、やっぱり、来てくれたんだ。
「ぃよォ!ハーヤトっ!」
いつもの挨拶と、いつもの笑顔と、いつもの声。それだけで、嬉しい。我ながら、安上がりだと思う。
「加賀さん!」
嬉しくて、飛びついてしまう。
「おお。俺様が来たのが、んな、嬉しいか」
「当たり前でしょ!待ってたんだから。時期が時期だし、忘れられると寂しいですもん」
「ほーかほーか。いい子だなー、ハヤトは。んーじゃ、邪魔するわ」
「どうぞっ。今、皆出かけてて、僕だけですけど」
チョコだけ貰えただけでもラッキー、と思っていたけど、これはチャンス。なし崩しにキスの先に進んでも、いい、って事だよね。…どうすればいいとか、あんまり解んないけど。
勝手知ったる、といった風情で僕の部屋へ上がりこんだ加賀さんを見て、自然と頬が緩むのが、自分でも解る。
紙袋…チョコレートショップのそれ…を手にしたまま、加賀さんが落ち着かない様子で座っている。何か言いにくそうにしてるけど、もしかして、加賀さんからの愛の告白、ってやつとか、聞けちゃったり、するのかな。
「どうしたんです?加賀さん?」
「…や、あの、よ…コレ、なんだけどよ…」
いつもの調子で、『おめぇが欲しがるかと思ったんでな。やるよ』程度の事だと思っていたのに、妙に大人しい。
「遅れる訳には、いかねぇし」
って、ひとりで呟いてるけど、聞えてますってば。そんな、少し遅れたぐらいで、気にしなくていいのに。
「加賀さん?それ、どうかしたんですか?もしかして、僕に、とか…?」
もしかしなくても僕に、なんだろうけど、こう言えば言いやすいかな?と思って言ってみる。
「や、おめぇに、って訳じゃねぇんだけどよ…欲しい、ってもんでもねぇと思うしな」
…もしかして加賀さん、照れてる?
「そんな…加賀さんがくれる、って言うんなら、何だって嬉しいですよ?」
「ほんとか?」
こころもち、上目遣いになってる顔が、妙にアブナイ風情だ、って解ってやってるのかな、この人…他は知らないけど、少なくとも僕にとっては。
「嘘なんか言いません、ってば」
「そうか」
そう言った加賀さんが、にま、っと笑った。
「んじゃ、今から手伝え、ハヤト!」
「手伝う、って何をですか」
紙袋を手にしたまま、うりゃ、っと首に腕を回してわしゃわしゃしてくる加賀さんに聞く。手伝う、って…チョコ、渡してくれるんじゃないの?
「これだ!」
手渡された紙袋の中を覗くと、箱が入っている。やっぱり、チョコ、だよ。ラッピングも何もなくて、箱のまんまだけど…。
「チョコですよね?これ。手伝う、って何を?食べる、とか…?」
「チョコぉ?何だ、そりゃあ…ああ、箱の事か。手近にあったのに適当に入れて来たかんなー。ま、開けてみ?」
チョコじゃないなら、何だろう…?そう思いながらも、開けてみる。
「…領収書…?これも…これも…もしかして…」
「おうよ、ぜぇーんぶ、領収書!」
「何でそんなの…」
「何でも何も、今日から来月15日まで、確定申告だろーが。加賀さんは、副業も色々あるもんで、あれこれ領収書が溜まっちまってなー。加賀さんは毎年きーっちり青色申告な上、模範的な納税者なのよ、これが。これから最終日まで、申告書作りをしなきゃならねぇのよ。書類自体は毎年やってっから慣れっこたぁいえ、領収書各種の仕訳が、手間かかるもんでなー」
「手伝う、って、ソレですか…」
「おうよ!きーっちりやっておかねぇと、税務署と闘うにも不利だかんな。俺ァ、この見てくれだからしえ、胡散臭がられて終わっちまうし」
だったら、その見てくれを何とかした方が良くないですか、とは、言えなかった。
甘かった…加賀さんは、何より小銭が好きなんだ、って事を忘れてた…ヴァレンタインより仏教行事より確定申告でどれだけ小銭を浮かす事が出来るか、に夢中になる人だったんだ…。
「だからって何もチョコの箱と袋に入れてこなくても…」
「あ?何だってさっきから、んな、チョコに拘ってんだ?ハヤト」
脱力感のあまり、心の中で言った筈の言葉は、しっかり表に出ていたらしく、加賀さんが心底不思議そうな顔をして僕の顔を覗き込む。
「…加賀さん、2月の行事、知ってます?」
「まずは節分だよな。恵方に向かって金運UPの恵方巻き!だろ、やっぱ。なあ?何ハヤト、おめ、やんねぇの?俺ァ、毎年食うぜ?食ってる間、しゃべっちゃなんねぇ、ってのがあんだろー、だから、食ってる奴の側でどうにかしゃべらせよう、ってちょっかい出したり出されたりで、バトルだな。ま、楽しいから、いいけどよ」
…この人は本当に小銭を愛してるよね…。もしかしたら、僕よりも愛してんじゃないの…?ってぐらい。愛されてる、って自信が…少なくとも、まあ、恋人扱いを嫌がられない程度にはあった、なけなしの自信が、崩れる音が聞えそうだよ。
「んーで、昨日はお釈迦様が死んだ、っつー日だろ。じーさんが、そらまー熱心な仏教徒だったかんなー。ちっさい時は、15日、つったら寺で過ごしたもんだぜ。おかげでお経も読めるぞ、無駄に」
加賀さんはひとりで話を続けている。…いいですよ、もう…っ…!
「…ハーヤト?どした?何か、機嫌悪くねぇかぁ?このへんがこう…むー、っと。ほれ」
加賀さんに、ほっぺたを引っ張って伸ばされる。
「そんな事ないですっ!」
「ほーかぁ?」
「ほら、さっさと始めましょう。小銭が大好きな加賀さんの為に、加賀さんの大好きな小銭が少しでもたくさん加賀さんのもとに残るように、するんでしょっ」
「そーゆーコトv」
ほっぺたを引っ張っている加賀さんの手を外して、そっぽ向いたまま、半ばヤケで言った僕の横顔に、加賀さんが不意にキスなんてするから、固まってしまう。
「…加賀、さん…?」
ここまで小銭で振っておいて、いきなりコレ、って何か企んでるんじゃあ…と、疑ってしまう。おそるおそる、加賀さんの顔を伺う。
「14日、はヴァレンタイン。2月の行事。だろ?忘れちゃあ、いなかったんだけどよ。俺ァ、甘いモンが苦手でなー、おめーの好きそーなモンとかが、解んねぇのよ。で、まあ、今んとこ、おめーが喜ぶもん、つったら、こんぐらいしか、思いつかなくてなー…幸い、元手もかかんねぇコトだし、面倒な申告、手伝わせんなら、ま、サーヴィス?」
けたけたと笑ってるけど、ちょっと照れてるんじゃないのかな…?顔が、ほの赤く見える、よ?加賀さん。
「加賀さん」
「…おう」
改まって向き合うと、妙に恥ずかしい。
「大好きです。加賀さんも、僕の事、好きでいて下さいね…たとえ、小銭の次でもいいですからっ!」
途端に、加賀さんが文字通り、腹を抱えて笑い出す。
風見ハヤト15歳。恋人(もちろん加賀さん)との甘い甘い時間を過ごせるようになるまでは、遠い気がしてならない。
「形容詞30題」より『 17.おさない』です。2006年2月16日の覚書に、つらつら書いていたものを、ほぼそのままの形で今更のUP。いや、もうUPしてると思い込んでいたもので、2007年ヴァレンタイン更新し損ねた分をどのお題にしようかと、お題を見返していて気付いたという…。<間抜けにも程が…。放映当時はそれはもう鬼畜な風見様が大好きで、ハヤ加賀ならあまあまよりも鬼畜に翻弄される、或いは意図的に翻弄されたい、という受様な加賀(爆)を好んで読んでおりましたけれども(いや、もう加賀ならば何でも良い、という状態ではあり、今もそれにあまり変わりはないのですけれどもね…性格改変だとかこれは加賀じゃないとかもうそんなのはいいんです、それはもう人それぞれですから、読めるだけで御の字でございます。)オノレで書くにはお笑いばかりで、その上、近頃枯れ風味で風見様よりもこう、ハヤトな感じばかり書いてしまいます。<風見様、とハヤト、の違いを感じ取って頂ければ幸いでございます。小銭スキーで守銭奴な加賀ネタは他の方々もよく書いていらしたのでスルーしておりましたが、ヴァレンタインと確定申告開始が1日違いなもので、それでひとつ書いてみようと思ったのでした。オノレの好きになるキャラとか人とか、守銭奴と申しましょうか小銭スキー、多いようです…いや、でも小銭は愛しいよ!塵も積もらないと山にならないよ!