「 Sweetness 」

何にも見えてなくて、ただ、夢中で、好きだった。バカにした目で見られて、訳解らないまま一方的な、別れとも言えないような別れに終わった、恋だった。
「他に好きな人ができたの」
なら、まだいい。
「他に付き合ってる人?いるよ?三宅の他に、んー…19人?何マジんなってんの?もしかして、気付いてなかった?」
笑うには冗談キツい、ぐらいにしか思えなくて、だけどほんとに居たから、ヤケになった。それからだ。何でものめりこまないように、適当に。深みに嵌らないように。
そうしているうちに、何もかもが適当になった。適当でも、それなりのレベル、目立たず落ちこぼれず、で何でもこなせたから適当に受けた高校でも、適当なまま過ごしてきた。
運動部かけもちが適当レベルでできる程度には、運動神経が良かったりしたし、それこそ適当な話ぐらいは誰とでも出来たから、それなりに寄って来る女はいる。特に好きじゃなくても、デートぐらいするし、セックスだってする。本気じゃないから、何がどうでも良かったし、実際後腐れなく別れられる相手として、遊ぶなら三宅、ってな事を言われている事ぐらいは知ってる。ま、本気になるような奴もいないでしょ。俺に、でも、俺が、でも。
泥門を仕切ってというか、掌握している、というのか、とりあえず表向きこの人に逆らう相手なんていない、ってのがヒル魔妖一って先輩で、その先輩がアメフト部だから、おこぼれのひとつもないもんかなー、なんて入部希望した。まさか、ヒル魔さんが熱血な人だなんて、思わなかったし。
適当なつもりで受けた、アメフト部の入部テストは落ちて、美味い汁吸える、っていうんで、サッカー部に入った。スポーツに力を入れてるような学校じゃないし、進学に力を入れてるかといえばそうでもなく、ごく普通の泥門は、過ごし易かった。
アメフト自体にさして興味もなければ、執着もない。そのまま、何事もなく過ごすはず、だった。
身近にいるのは似たような適当な奴ばかりだし、熱血なんてやってられない。たかが3年間を過ごすのに、賭けるほどの何があるって?いつ死ぬかもわかんなくて、だらだら生きていくんだから、適当に流さないとやってられない。
相変わらず適当にこなしていた部活。グラウンドの片隅でのアメフト部は、見るともなしに、目に入る。入部テストに受かった奴らといるヒル魔さんは、変わった様子はなかったけれども、キッカーがどうの、っての?俺の居るサッカー部にチビふたりが勝負とやらを仕掛けてきたりして、接点があると言えばあるような、ないような。アメフトの何が、そこまでさせるんだか理解に苦しむね。なんて思って、それから何かと目が行くようになったのかな。部を率いるヒル魔さんの存在が大きい、ってのは、見ていてすぐに解った。面倒な事に関わるのはゴメンだし、部員に直接何かするわけでもない。だいたい、部員に何かしようもんなら、ヒル魔さんが報復してくんだろーし。対抗できる手段も根性も、持ち合わせがない俺としては、最初から関わらないのが利口、ってもんでしょ。
けど、気になるもんは、仕方ないよねー。好奇心が身を滅ぼす、とか何とかってゆーの、あったっけ。どーでもいいけど。滅ぶほどの何が、俺にあるわけでもないしね。
でもまあ、アメフトしか目に入ってないようなヒル魔さんに、テスト以来何の接触もない俺が何をどうしたらお近づきになれるか、なんてのは、昼休み、アメフト部の部室じゃカジノやってるから、そこで遊ばせてもらおーかなー、程度の事しか思いつかなかった。で、ま、サッカー部から流して貰った部費を持って遊びに行った。きっかけ、っていうなら、そんなもんかな?



「20股かけられて、それでも好きだった、マヌケながらも健気な俺、とか、ストーカーじみてきもい俺、とか、まあ相手によって、いくらでもネタには使えますからね。脅迫に怯えるほどのネタじゃ、ないんスよね、ソレ。ザンネンでしたね?ヒル魔センパイ」
賭博なんて、最終的に客が損するよーにできてんだから、勝った時点で手堅く換金して去らないとね。で、そこそこに手持ちを増やしたら換金、その金で適当に遊んで、残った分をまた、カジノで増やす。それを繰り返しているうちに、ヒル魔さんが苛立ったみたいで、もう来るな、ってな事を言ってきた。何せ、カジノとはいえ客は泥門生徒。小遣いだのバイト代だのつぎ込んだところで、たかが知れてる。俺はサッカー部から流してもらってる金だから、懐は痛まないし、それなりの額もつぎ込むものの、損するまで賭けたりしないし、損するような賭け方もしない。部費を増やそうとしてるらしいヒル魔さんにしてみれば、面白くないんだろうなあ。だからって、来るな、って言われてもねぇ?遊びたくて来てんだし、イカサマしたってたぶん、この人にはバレるだろーからしてないし、損した事がない、ってだけで、イイお客さんだと思うんだけですけどね、俺?ってな事を言ったら、泥門生徒なら誰もが知っていて怯えている脅迫手帳を取り出してきた。部費についてはヒル魔さんの方が何か言われるとヤバいんじゃないかと思ってるから、少しぐらいのおこぼれを貰っている程度の事ぐらいで、あれこれ言うようなら適当に流せばいいし、他にヤバい事なんてしてないし…ウリがどーのヤクがどーの…そんときゃオイシイかもしんないけど、後が怖いしね…何を言ってくれんのかと思ったら、中学時代の彼女の20股。…本気でそれが、脅迫材料になるとでも?…かーわいーいーなー、見掛けによらず。つか、その程度で引いてくれるよーなお人よししか、相手にした事ないんスかね、この人。なんて、思って。で、思ったままを返した。
「…理不尽だろーが何だろーが、とにかく俺はてめぇが気に入らねぇ。で、ここでは俺が法律、だ。俺が来んな、つってんだから、もう来んな。糞ゲロ」
そういう覚え方してるんスか。入部テストで禿センパイの吐いたゲロ、たまたま下に居た俺にかかっただけ、なんスけど。
「…ゲロは被ったけど、吐いたの俺じゃないスよー。まあ、いいですけど」
「んな事は、どーでもいい。とにかく、来んな」
小学生みたいな理屈。嫌なもんは嫌だからどっか行け、っていう…何か、もっとこう、理詰めで来るタイプかと思ってたんだけどなー。単にワガママなお子様だったりしませんか、ソレ。
「そう言われても、ね。遊びたくて来てるだけですからねぇ…ま、ヒル魔センパイが遊んでくれるんなら、カジノじゃなくてもイイかなー、なんて、ね?」
「てめぇと遊んでる暇なんざ、ねぇんだよ。だいたい何して遊ぶ、ってんだ。てめぇと俺が」
そりゃまあ、俺だってヒル魔さんと仲良くお手々繋いでデート、だとか、友達面してツルんで夜遊び、なんて、考えられませんけどねぇ。泥門の生徒全員が、あんたを本気で怖れているだけ、だとでも思ってんですかー?結構、ヤバい趣味の方々に人気あんの、知らないのかなー?って、ま、俺もそれに入るのか、この場合。意外とかわいー、とか思っちゃってるあたりで。思いついでに、言うだけ言っておこうかなー。言うのはタダだし、ねぇ。
「ヒル魔センパイがどう思ってよーと、その手帳に書かれるよーなヤバい事、してませんよ、俺。未だ20股掛けられて立ち直れないカワイソーな俺を、慰めてくれたり、しません?センパイ?」
「あァ?てめぇ、そこここに女いんだろーがよ。そいつらに慰めてもらえ。俺は、んな趣味はねぇよ」
言いながら、携帯している銃口を向けてくる。物騒な人だなー。つか、絶えずそんなもんで武装してないと、持たない程脆かったり、して?…な、ワケ、ない…とは、言いきれないんだよねー、このテのタイプって。弱い犬やら下っ端ほど、よく吠えるんだし、あからさまに威嚇してくる方が、黙って背後取られるより、解り易くてむしろ親切だと思うし。かわいー上に、親切。我ながら、凄い跳躍変換してるなあ…次はどんな顔、見せてくれるんスかね、この人。
「怖いなあ…センパイってば。それ、降ろしてくれませんか。謂れのない事で、命落すの、趣味じゃないんで」
怖い、なんて欠片も思っていない口調で言う俺に苛立ったらしいけど、撃たれる事はないでしょ。ここで撃って追い出したところで、カジノに来ればただの客だし、いいカモな一般生徒がいるところで、あからさまに俺だけ…手堅く稼いでいるだけで、ヤバい事なんてしていない…を、どうこうできるとも、思えないし。
「…それは、取引のつもりか?」
ノってきた、のかな、これは。銃口は相変わらず俺に向けたままだけど。
「そう、なるんスかね?ヒル魔センパイは俺をカジノから追い出したい、俺は遊びに来たいだけだから、それを差し止められるんなら、センパイと遊んでみたい」
まあ、ここで追い払われたところで、飽きるまで遊び…カジノの方に…来るだけの事なんだけど。ヒル魔さんて結構、面白い人だなー、と思い始めているから、側で面白がっていたかったりするんだよね。飽きなさそーだし。
そのまま突き放す事も、追い払う事も出来た筈の、取引になんてならないお粗末な返答だったけど、ヒル魔さんはそれに応じる事にしたらしい。
「…じゃあ、とっとと終わらせようぜ。ここで、いいだろ」
俺の方を見向きもせずに言いながら、制服の釦に手を掛けている。
「今、するんスか。ここで?」
あまりにあっさりとしているのが、気持ち悪い、ってゆーのはシツレイかな。媚が見え見えの恥じらいを見せる女より、面倒な手間掛けないで済むのは、有難いけど。
「てめぇの慰めとやらの相手をすりゃあ、うぜぇのがもう来ねぇ、つってんだし。だったら、とっとと終わらせるに限る。んな真っ昼間から制服の男ふたりでホテル行く趣味もなけりゃ、んなもんに無駄金使う趣味もねぇんだよ」
途惑いもなく釦が外されていくシャツの隙間から、肌が見え隠れする。んー…男の裸、なんて、まじまじ見た事ないけど、意識するとそれなり、に見えてくるもんなのかな。それだけで反応しちゃってターイヘン、なんて状態には、とてもならないけど、ちょっとこう、意外と綺麗なもんだな、とか思いながら見てしまう、っていうか。いつも、遊び相手の身体なんて、そうまじまじ見ずに適当な事言ってるだけだし、自分の感覚が新鮮、なのかもしれない。
「で、このまま脱いでいけばいいのか?どうすりゃいいんだ?」
シャツの釦を全部外したところで、思い出したかのように俺に顔を向けて聞く。
「どう、って言われても」
「俺は、んな趣味の持ち合わせはねぇし、何をどーすりゃ、てめぇの言う『慰め』とやらになるのかなんざ、見当つかねぇし。俺と遊びたい、ってんなら、したい事があったんじゃねぇのか?」
「俺にだって、こんな趣味はないはず、だったんスよねー。だから、知識はあっても経験はないスよ。あー、でも突っ込まれるのは遠慮したいかなあ…俺がヒル魔さんに突っ込むにしたって、萎えたまんまじゃ、どーにもなんないし。いきなりセンパイの手やら口やらで、ヌイてもらう、ってんでもいいスけど、その後素面なまんまでそれ突っ込まれるの、センパイだって辛いと思うんスよねー。想像だけど。まあ、とりあえず…キスでもしてみます?」
ムードも何もあったもんじゃないけど、そんなの作ってどーすんの、って状況なもんで、たらたら考え付くままに喋った。
「…20股かけたれた彼女に、どんな風にしてたんだ?してみろよ、俺に」
シャツをはだけさせたまま、無表情に俺の方を見ているヒル魔さんが動く様子もないから、俺から近付く。ヒル魔さんの腰に手を掛けて、抱き寄せる。…細いとは思ってたけど、やっぱりこう、細い、なー。でも、きちんと鍛えてるよね、流石に。女の柔らかさとは無縁だし、スポーツしてる人特有の弾力、ってのか…こういうのを引き締まってる、っていうんスかね。
不思議な色を持つヒル魔さんの目が開いたままだから、頬を辿らせた片手で顔が近付くように引き寄せ、瞼にキスしてそれを閉ざす。ああ、そういえば、俺は彼女が初めてだったから、夢中になってて彼女が目を閉じているのかどうかも、確かめた事もなかったなあ…なんて事を思い出す。俺がうっとり目を閉じて彼女にキスしてる間、すげー醒めた目でマヌケな面、晒してる俺を見てたのかもしれないワケだ。うっわ、ダサ…っ。…ヒル魔さんは、どう、かなー?少し気になって、薄く目を開けて見ると、ヒル魔さんはしっかり目を閉じたまま、俺と唇を重ねていた。何の反応もなく、されるがまま、っていうのは、諦めてて何もしない、とかじゃなくて…もしかしてこの人、こういうの、経験…ない、とかじゃ…ない、の、か、な…。な、んか…なん、だろう…すげぇ、柔ら、か、い…この人、の、唇。この奥、とか…この、先、とか…どんな、なのか、な…。
「…っ、…ァア・は、んぅ…」
「えーと…平気ス、か、センパイ…?」
何か…ワケわかんなくなったまま、口ん中嬲り倒してたらしくて、ヒル魔さんの漏らした声で、我に返った。何か声が聞こえた気がしてたけど、この人の声だ、なんて思わなくて、反応が遅れたみたいだった。想像した事なかったからなー、悪魔、とか言われてる人が、こんな状況でどんな声出す、とか、どんな反応する、とか。驚きもします、って。まさかここで、必死で息継ぎしてます、っていうヒル魔さんを見るとは思わなかったし。
ヒル魔さんが何も答えないから、もう一度唇を塞いでみる。整いきらない息のせいで、半端に開いていた唇から舌を差し入れると、ヒル魔さんの舌が、逃げるのが解った。さっきも、こう、だったのかな。覚えていない。遊ぶだけ、のつもりが、そんなのも忘れてキスしてた、って事になるのかなあ…ああ、これ、あの牙みたいな歯だ…噛まないで下さいね、っと…。ああ、そんなに逃げてばかりいないで、応えてくれませんか…慣れてない、とは言っても一度や二度、経験あるでしょ?キスくらい。
逃げて、丸くなろうとする舌を引き摺り出すように舌を搦めようとすると、嫌だ、とでもいうように押し返してくる。目を開けると眉間に皺寄せて、きつく目を閉じたヒル魔さんが、必死な顔をしているから、本気で嫌がってるのかな、と思った。嫌なら、その牙みたいな歯で、噛めばいいのに。早いとこ追い出したい俺との、取引…一応、そういう事になっているんだろう…だから我慢してるのかも、しれない。逃げ回って、逃げられなくなると押し返してきて、を繰り返すうちに呼吸も乱れて、力をなくした舌が離れるのが、まるで俺を誘っているような動きにしか感じられない。ひとしきり、追いかけっこを繰り返して、解放する。
「…俺に言った事、そのまま、返しますよ、ヒル魔センパイ…」
唇から溢れ出して顎、首筋を伝う唾液がゆっくりと、はだけたシャツに見え隠れする肌へ、流れ落ちていくのにも気付かないのか、気付いていても余裕がないのか、呼吸を乱したまま視線がブレてるヒル魔さんに囁く。
「な、に…」
「センパイが、好きな人とか…恋人とかに、したみたいに、してみて、下さいよ。俺、に」
「…諦めろ。無理、だ」
「いや、別に俺が突っ込まれたいわけじゃないんで、そこんとこは誤解しないで欲しいんスけどね。キスぐらい、応えてくれてもいーじゃないスか」
「そういう奴なんか、いねぇし…いた事も、ねぇし…興味も、ねぇよ」
それって、いた事もなくて興味もないから、キスすらした事がない…つまりコレが、初めて、って事だったり…するんスか、ね?…まさか。興味あろうがなかろうが、そこいらに溢れている無駄に豊富な情報は遮断しきれるもんじゃないから、イマドキお子様でも相手が異性・同性問わずに身体を繋ぐ方法を知っていたりする。好きだとか、愛だとか、そんなん抜きで、ちょっとした好奇心とか興味とか悪ふざけで、軽めのものからキワドイとこまで、それは個人差があるとはいえ、試したりするでしょ?今、俺らがしてる事だって、そういう流れなんだと思うんスけど。ためらいもなく、服を脱ごうとしたから、てっきりこういう場面…ヤるのヤられるの、じゃなくて、迫られたりとか、まあ、悪ふざけに、なるかな…には、慣れてるのかと思ったんスけど。
「…全く初めて…だったり、するんスか、もしか、しなくても」
「だったら、どう…ん、ぅ…っふ…ァ」
最後まで聞くまでもないよねー、もういいや。と思って、その口を塞ぐ。追いかけっこばっかりすんのも、飽きてきたかなー…ほら、捕まえた。逃げるのが下手なヒル魔さんの舌は、簡単に捕まえられる。捕らえられたまま、逃げようと足掻く舌が蠢く度に、くちゅくちゅした音と、ヒル魔さんの短い声が、漏れる。赤味を増した顔、きつく閉じられたままの目、緩く開かされたままの形になってる、唇。そんな顔を、俺に見られているのにも気付かずに、逃れようと蠢く舌先。なのに、俺の制服の裾を掴んだ指は、服ごと固く握り締められていく。…そんなので、カラダ、支えられないスよ。
「…ぅあ・ン…っ、…ッ」
握り締められた手を片方解いて、舌を指先に遊ばせる。ヒル魔さんが解放された唇から漏らした声は、すぐに呑み込む音になって消えていく。慣れない刺激と、呑みこみきれない声とに、戸惑っているんだろうヒル魔さんの、腰に回していた手に少しだけ力を入れると、倒れ込むようにぐらつきながら、倒れまいとしてるんだろう、俺の腕に縋るような仕草を見せる片手を引き寄せて、肩へと導く。けれど、もう片方の指へのイタズラは、止めない。
処女なんて、こっちが気を使うばっかりで、楽しいよりも疲れる事が多いし、遊び相手は大抵慣れてる奴ばかりだ。こんなに丁寧に、大切な、壊れものを扱うように誰かを抱くなんて、彼女以来かもしれなかった。この人相手に、そんな扱いする事になるなんて、思わなかったなー。酷い扱いをしても、されるままになっていたのかな、この人。酷い扱いをされたなら、恨んだり憎んだり仕返ししたり、しやすい。…そういう意味でも、慣れてないのかな。こういうの見たり、そういう事思ったりすると、何で皆がこの人を怖がるのかが、解らなくなってくる。
壊さないように、壊れないように。怖がらせないように。大事に、労わるように。大切に、護るように。指先で、唇で、舌で、カラダ全部使って、キモチが伝わるように祈るようにして、触れていく。
そんな気持ちで誰かに触れる事なんて、忘れていたのに。
よりにもよって、この人相手に思っちゃってるらしい自分が信じられない。
何でものめりこまないように、適当に。深みに嵌らないように。そうやって、卒業まで適当に過ごすだけの、高校生活だと思っていたんスけどね。何か、適当に誤魔化せないようなカンジのする、もやもやとしたものが、胸に広がってきている。やばいねー、俺。まーた、ダッサい事、しでかすんですかね。まあ、今、そんな事考えても、仕方ないし。明日でも間に合う事なら、今日しない。延ばせるものは、延ばせるだけ延ばしてなし崩し。今の、この妙な気分も、それで流されてしまうだけのものかも、しれないし。
とりあえず、今は。
今更ここで、この人を怒らす気にも、からかうような気にもなれないし、ヒル魔さんのお望み通り、彼女にしてたように、しました、って事に、しておくかなー。ヒル魔さんにしたって、まさか俺が自分相手に、マジになりかけてる、なんて知っても、きもいだけだろーし、ねぇ…。
誰も見た事のないこの人を、もっと、見てみたい。けど、全部を背負うのはゴメンだ。面倒な事には、関わりたくない。適当に。何でも。この人が、俺相手に本気でどうこう、惚れただの何だの、って状態になるなんて、思えないし。飽きっぽい俺の事だから、これで終わり、になるだろーと思いたいけど、そうじゃないのも薄々解ってるのが終わってるなー。
考えるのも、ばかばかしい。適当で、いーかげんな俺と、そーゆー俺を追い出したいヒル魔さんとの、取引、とは名ばかりの遊び、なんスから。だから、あんたも何も考えずに、感じてくれればいいんスけどね、ヒル魔センパイ。もすこし、ヒル魔さんの事、見てみたいなー、と思ってるから、これ一度で大人しく追い出されるつもりもないけど。遊んでみたいのは一度きり、だなんて、言ってないスよ、俺。今のヒル魔さんは、そんなの気付きもしないだろーけど。
俺はヒル魔さんのどんな姿を見たって、それをネタに脅迫するよーな事はしないし、されるつもりも、ないですから。皆が皆、あんたを怖れているわけでもないし、あんたを恨んでるわけでもない。何をそんなに頑なに威嚇しながら護ってるのか、知らないし、知りたいとも思わない。だいたい、あんたの大事なアメフト関係だ、って事ぐらいの想像、つくしね。でも、こんな時ぐらい、全部俺のせいにして、晒してくれるといいなー、とか。言ったところで、拒絶されるだけだろーから、言わないけど。
バレバレの演技でも何でも、しますよ、俺は。あんたを傷つける理由なんて持ってないし、あったとしても、後の報復のが、怖いしね。
壊さないように、壊れないように。怖がらせないように。大事に、労わるように。大切に、護るように。俺のそういう行動が、嘘くさい、って言われてるのは、知ってる。その方が、都合良いでしょ、この場合。俺にとっても、ヒル魔さんにとっても。
「あ・あ・っく、ア・ぅア…っ、あ…」
キスだけで、信じられない反応を見せたヒル魔さんのカラダに、指とか舌とか、這わせていく。気持ちイイ顔、見せて欲しいなー。そんな、堪えてないでいースよ。って、俺相手に、そんな顔晒すのに、抵抗あんだろーけど。何をどう言ったところで、この人の気が紛れるわけでもないけど。
「センパイ。何も、我慢しなくていいんスよ?こんな事ぐらいで、壊れる人じゃないでしょ?俺も、こんなのでセンパイをどうこうできるとか、思ってないスから。今は、俺みたいなの欲しがっても、ヘーキなんスよ?俺に付き合ってるだけ、なんだし、ね?」
「んんん・あ・あ・っふ、は、ァ…み、や…ア、っ、は・ア」
…クるなー、この人に、こーゆー状況で名前、呼ばれてると。初めての行為で、声、抑えきれずに漏らし続けているから、半ば掠れた、高い、普段のこの人からは、想像もできない声。あんたが好きになって、本気で欲しがる人って、どんなんですかねー。ま、その人よりも先に、こゆ事しちゃってスミマセンねー、ってカンジですけど。
何にも見えてなくて、ただ、夢中で、好きだった。
そんなのは、いらない。
今だけ、感じてる事が俺にとっての本当で、過ぎてしまえばどうだっていい事だ。今が終わってしまえば、あんたはいつも通りの日常を送るんだろうし、俺は俺でそうなるんだろう、っていうのが怪しいんスけど、まあ、今はあんたが俺にいいようにされてくれてるんだし、それに溺れていたいんスよ。笑えるなー、自分でも。でも、何でも必死な分だけ、傍から見たら笑えるもんだし、今更だ。開き直りは、十八番ですからねー。
そんな事をぐたぐた考えながら、腕の中の人を、抱き締めた。

END 2004.09.24.

「形容詞30題」より『01.ういういしい』です。「うさぎや本舗」櫻みつき様、5月15日お誕生日おめでとうございました。リクエストはミヤヒルか十ヒルで甘々、でございましたが。いちゃくラバーズにしようにも、カラダ繋いだ後のミヤヒルは甘くなりそうもなく、一輝は他力本願もいいとこなもので、このようなものに。18らば、21セナ、でお題を使ったので、1はヒル魔さんで!と思っていたのですが、まさかミヤヒルで書くとは思いませんでした。長らくお待たせ致しましたので、気に入らない、とか、もう少し甘く、とか、できちゃってるふたりがいい、とかいう場合は教えて下さい、とお願いしておりましたら、ここからの続きを、というご要望を頂きました。正直な貴女が好もしくてよ。ワタクシの中での三宅は、単なる小心者です。オイシイとこ取りはしたい、リスクは負いたくない、責任も取りたくない。限りなく薄いグレーゾーンに身を置いて、ヤバそうな事には手を出さない。声に出して読みたいミヤヒル(読めません)は、こう、鬼畜だったり卑劣だったりする三宅に弄ばれるヒル魔さん(笑)というようなものが多いのですけれども、そしてそれはとても好きですけれども、オノレで書くと、こういうカンジです。何にも捕らわれていたくない時なんかは、ラクな相手だと思いますね。続きなり、別の出来あがってるバカップルなりを書いたあかつきには、送りつけてみようかと思います。<もちろん、みつきさまに。でも、どちらかと言えば読者でいたいです。