「 ヒル魔さん昔話・アメフトの神様、もしくはドナドナ 」

 ヒル魔さんは、知っていた。『本物のアイシールド』を。知ってなきゃ、ハッタリにならないって言ってた。夏休み、アメリカでデス・マーチをする、って言った時。どぶろく先生が『…死ぬぞ』なんて事まで言ったのに、『死なねェよ。クリスマス・ボウルに行くまではな!!』なんて、答えてた。結局、全員でデス・マーチ強行、って形になって、脱落者が出る事なく、帰国出来たんだけど。『絶対クリスマスボウル!』の誓いは知っていたけど、何がそこまでヒル魔さんを動かすのか、解らなかった。クリスマスボウルにだけ、全て…高校生活とかじゃなくて、命っていうのかな…を、賭けてるっていうか、それしかない、っていうか、そういうヒル魔さんの勢いとか迫力とか脅迫とかに圧されるままにアメフトやってたメンバーが大半だったデビルバッツも、秋大会を前にして、まとまったみたいになって、大会が始まってからは、同じ目標…もちろん、全国大会決勝であるクリスマスボウル…に向かって、進んでいるけど。ヒル魔さんと栗田さん、そして、今はチームにいないけど、武蔵さんの3人が、ずっとずっと夢?目標?にしてた、クリスマスボウル。だけど、そんな3人の中でもヒル魔さんだけの温度が、少し…そう、たぶん、少し、違う気がしていた。


 イキナリ投げられたボール。ボール投げられたらキャッチ、ってのはもー何、アレだ、パブロフとかいう犬のなんたら…ああ、なんかよく解んねーけど、条件反射?…教えてまもりさーん…いやいや、教えてもらうなら別のコトの方が…何だっけ?あ、そうそう、ヒル魔先輩に投げられたボール、キャッチしたら拉致られて、それでも俺は野球命!だったし、そのまま部に残ってたんだ。セナとはおんなじチビどうしで親近感とかっての?それ、あったけど。ま、色々あったけど、野球に関しちゃキャッチだけじゃヒーローになれねぇ、ってのは解ったし…薄々解っちゃいたけど…、そんな偏った特技でも、アメフトならヒーローになれる、っての、教えてくれたのはヒル魔先輩…だよな。実際、賊学戦を見た野球部の先輩とか、俺をバカにしてた一軍の奴とか、クラスの奴とか…の、俺に対する態度も変わったしなあ、あれから。期待される、なんてのは、初めてだったし、気持ち良かったな、うん。今では立派にアメフト部員よ。アメフトでヒーローになる、って決めたから、デス・マーチ参加も何も問題なかったし。だって、それでヒーローになれんだろ?野球じゃダメだったけど、アメフトの世界で、世界中の後衛(バックス)に競り勝ってやる!って思うぐらいに、何か夢中になってたし、今なら一番好きなスポーツはアメフトだ、って言える。まもりさんが居るのも嬉しいし、いや、うん、いいとこ見せたい、ってのもあるけど、でも、やっぱりアメフト楽しい。俺らがバテバテだったデス・マーチでも、ヒル魔先輩がバテてっとこなんて見たことないし、何だかんだ言ってヒル魔先輩は怖いけど、でも、野球部に居た時みたいに陰湿なもんはなかったし、なんかすげーな、って。ま、まもりさんと仲いい…っていうか、ふたりとも頭いーから、俺が入れない、ってのは悔しいけど。でも何か、絶対クリスマスボウル!って、ヒル魔先輩が言うと、行ける気がするぐらいに、いつだってそればっか言ってる。もちろん、俺だって目標にしてるぜ。そーいや、デス・マーチの話した時のベン牧場にいた馬って、皆、誰かに似てたよなあ。


 僕、ですか?ええと…こんな事言うと、ヒル魔さんに叱られると思うんですけど…実際、叱られ…怒られ、かな?したんですよ。最初は思い出作り、っていうか、そう、賊学との試合を見て、アイシールドさん…セナくん、ですね…に憧れての、入部でした。ヒル魔さん…同級生なのにさん付けは、おかしいですか?でも、僕は誰にでもそうですから…ええと、うん、ヒル魔さんの事は、噂程度には、知っていました。だけど、僕はずっと勉強しかしてこなかったし、特に良い事も悪い事も、何も目立つ事はありませんでしたし、学校と塾で精一杯というか、それしかしてませんでしたから、怖いと言われている人がいる、っていうのは知ってはいたけど、僕とは関わりがないと思ってましたし、実際、関わりなんて欠片もありませんでしたし…入部の面接の時にも、ヒル魔さんの情報網のどこにも引っ掛かってはいませんでした。僕は僕の為に、部活を続けています。希望はないに等しいけれど、この部に居るとね、何か出来そうな気になってしまうんです。こんな僕でも。努力してる、っていうだけでは、試合になんて出られません。僕は詳しい事は知りませんけど、ずっと、中学の時から、クリスマスボウルが誓いだったヒル魔さんと、栗田さん、武蔵さんですし、それに向かっているんですから、僕より使えるメンバーがいたなら、使うのが当然ですよね。…そりゃあ、僕も、試合をしてみたいと思います。デス・マーチがどんなものかは知りませんでしたが、あれで、僕にも出来るかもしれない、っていう希望は持ちました。夢は、破れましたけど、でも、まだ、諦めてはいません。僕にしか出来ない方法を、見つけたいと思っています。無理なら、得意の勉強で役に立ちたい。部員は皆、凄いと思います。ヒル魔さんはもちろん凄いと思います。何故あれほど、クリスマスボウルに執着するんだろう、と思いますが、僕が聞く事ではないでしょう。今では、僕にとっても夢であり、目標です。デビルバッツで、クリスマスボウルに行きたいです。


 ハァ?!ヒル魔ぁ?!気にいらねぇな。いらねぇよ。…こっから、オフレコな…でも、仕方なしに始めたアメフトで、俺…俺らか…は、初めてクズ扱いされなくなったとこは、あるしな。きっかけが何か、って言えばセナに絡んだ事と、そっからヒル魔に目ぇ付けられた、って事になんだろーな。いいよーに煽られてんのは解ってるけど、どーにもならねぇよ。クズだパシリだってバカにしてたセナが、アイシールドだ、ってのもムカついたし。デス・マーチは意地だな、あれは。黒木と戸叶は脱走しようとしてたけど、俺はセナとか禿とか、バカにしてた奴らに負けるのは嫌だし、親父との事でもむしゃくしゃしてたし…気にいらねぇし、うぜぇけど、ヒル魔は。まあ、でもやる、つったんだからやってやる。クリスマスボウルだか何だか、とにかく行けばいいんだろ、行けば。間違ってもヒル魔達の夢を叶える為、とかじゃねぇぞ。何だって、そこまで拘るのかは知らねーし、知りたくもねぇ。


 ハアァア?!ヒル魔…サン?!…ネガさえ、なけりゃなー。十文字も、やたら熱くなってっし。ま、いーかな、って。すげぇ勢いで絶対クリスマスボウル!とか言われると、どーにも。でも、あれだ…こう、どぶろくセンセの話聞いて、後悔っていうの?しちゃったりとか。ヒル魔…サン相手に、どーこーしよーって気は、ないないない。でも、誰にでも大事なもん、ってのはあって、それの為に命張るっていうか、必死になんのは、解る。ヒル魔サンの場合は、クリスマスボウルで、俺は…十文字とか、トガとか…正直、アメフトも楽しいっていうか…俺らでも、なんか、ここまで出来んだな、ってのは意外だけど。頭悪いから、よくわかんね。来年はともかく、今年はとりあえず、クリスマスボウル。って、とこ?


 ハ?!ヒル魔さん、スか。…まあ、あれはあれで。ノリやすい十文字を挑発すれば黒木は引き摺られる形になるし。ふたりがツルむなら、俺もついてくし。見透かされてんでしょうね。なーんか、必死、になりますよね、クリスマスボウル、になると。怖いっていうか…ネガ、盾に取られてるから、仕方なく、って振りぐらいは、しておきたいかな?見るとこ見てくれてる、ってのは、解るし。引退するまでは、踊らされてもいいかな。…いや、まあ、楽しい…っていうには違う気がするけど、嫌いじゃないですよ、アメフト。


 フゴッ!


 ヒル魔くん?もうねぇ、セナをいじめないで!って、あれほど言ってるのに!ほんとに、もぉっ!…でも、何だか必死なのよね。無理ばかりしてる気がする。自分がアメフト部を引っ張らないといけない、っていうのもあるんだろうけど。…大丈夫なのかな…あっ、何もね、ヒル魔くんがどう、とかいうんじゃないのよ?!いつも無茶な事ばっかりするし、セナとか後輩の子だけじゃなくて、皆をいじめるしっ!す、好きとかそういうんじゃないのよ?!けど、心配にも、なるわ。マネージャーになる前よりも、そんなに悪い人じゃないかも、とか…いや、悪魔よ?悪魔だとは思うの!でも…。


 アハーハー!ヒル魔さんの事かい?マドモアゼ〜ル?そうだねー、僕の才能を見抜いた人だから、只者じゃないのは確かだねッ!僕がクリスマスボウルに連れて行くよ、皆!おや、どうしたのかな、マイシスター?浮かない顔だネッ?!


 ヒル魔先輩?まも姉とアヤしい〜vって、思うんだけど、どうかしら?え?怖くないか、て?何で?ちっとも怖くないよ?なんたって、『あの』兄さんの事、認めてくれてるんだし、チアの事とかもアドバイスくれるし、話合うもん。何で泥門の人は、ヒル魔先輩の事怖がってるの?すごいアメフト好きだし、見ていて気持ちいいよ?


 ヒル魔?うん、ずっとね、一緒にアメフトやってきたから、とても大事だよ。大好きだよ。ヒル魔と、ムサシと。僕はほら、こうだから。あまり、人に嫌われたりしないと思うけど、でも友達、っていうのはあのふたりしか、いないかな?寂しいとか、思う暇もないよ。(笑)だって、ヒル魔とムサシだよ?今年は部員も揃ったし、どぶろく先生も帰って来たし、絶対絶対、皆で行こうね!クリスマスボウル!


 …ヒル魔か。…俺は、もうアメフト辞めたはずだ、ってぇのに、な。未練があるらしい。(苦笑)戻れるのか戻れないのか、戻りたいのか…自分でも、解らねぇな。ただ、ずっと、そこに立つ、って誓った場所なんだ。行かせてやりたいと思う。俺が、ここでこんな事を言わなくても、行くんだろうよ。そういう、奴だ。ヒル魔、ってのは。


 ああ、あのバカな。短期間でのデス・マーチ。奴がやる、っていうのを止めようとはしたさ。ヒル魔、栗田、ムサシ。奴らは、俺の大事な教え子だ。こんなとこで、選手生命を潰すようなマネ、したくなんかねぇ。だから、言ったんだ。『…死ぬぞ』ってな。『死なねェよ。クリスマスボウルに行くまではな!!』…そう言われたら、止める術はねぇ。…奴が、何故そこまでクリスマスボウルに拘るのか、俺は知ってるからな。そして、『本物のアイシールド』も。


 『本物のアイシールド』知っていなけりゃ、隠し玉…まあ今となっちゃ、隠すも何もねぇけど…の、コードネームなんかに、しやしねぇ。俺にとっては羨望やら焦燥やら嫉妬の種で、でも、誰よりも憧れで、自慢の、存在だった。

 俺の、アニキ。

「…こんなとこに、居たとはな…来てみるもんだぜ…」
 どぶろくから聞いていた、デス・マーチ。それに賭けよう、と思って、まんまとタダで来る事が出来た、アメリカ。エイリアンズ戦の後、どぶろくの行方は掴んでいたから、あとは捕獲するだけで良かったし、強制連行した部員がデス・マーチを選ぼうと選ぶまいと、自分にやれるだけの事はやっておきたかったから、いずれ話すつもりでは、いた。狂った事のねぇ俺のプランに、狂いが出たのは計算外だった。まあ、計算外だからこそ、狂った、ってんだが。
 ベン牧場。ガンマンズと組んだビーチフットの後、宿の宛てのないデビルバッツを、ガンマンズの監督が世話してくれた、だだっ広い牧場だ。食事を終え、どぶろくがコーチしながらのインディアン・ランニングを見ての解説じみたもんを、馬小屋で聞いていた。けど、俺はどこか上の空だった。どぶろくの解説なんざ、聞くまでもねぇ。俺らのレベルや、関東チームのレベルは、俺自身、嫌という程解っている。ただ、何もわかってねぇ素人な部員に聞かせる為と、デス・マーチを仕掛ける為には、付き合っておかねぇと。面倒だと、思う。だが、打てる手は全て打っておく必要がある。ここまで煽って、連れて来たんだ、心底嫌なら、んなとこまで来やしねぇだろう。こいつらは、やるだろう。そうは思っても、選ぶのはこいつら自身で、俺じゃねぇ。俺は、俺のやりたい事の為に、やれる事とやらなきゃなんねぇ事を選ぶだけだ。だが、その程度の事で上の空になるもんかよ。

 アニキが、目の前にいる。

 その事実が、俺をどこか上の空に、させていた。どぶろくは、気付かねぇフリをしている。…酔いがマワって、本気で気付いてねぇかもしれねぇけどな。
 アメフトは、好きだ。いや、アメフトが、好きだ。
それは、嘘じゃねぇ。ちまかった俺の目の前で繰り広げられた、試合。アニキは、間違いなくヒーローだった。格好良かった。憧れた。その、速さに。技術に。…その存在、全てに。
 アニキみたいに、なりたい。単純に、そう、思った。
 日本で暮らす事になって驚いたのは、アメフトがとてつもなくマイナーなスポーツだ、という事実だった。サッカーに人気のある国ではクラシックが人気で、ジャズが人気の国ではベースボールが人気、ってのは聞きかじりで知ってはいたし、実際、その通りだな、なんて思った。けど、ベースボールなんざ目じゃねぇぐらいに人気のあるアメフトが。ここまでマイナーだなんて、予想外だった。
 それでも、栗田が俺がアメフト好きなのを知って、話し掛けて来たのが、デビルバッツの始まりだった。神龍寺から転入して来た栗田は、人当たりは良かったけど、ただそれだけにしか見えなかった。ムサシは見てくれがああだし、何につけ親父くせぇから、何となく距離を置かれていたし、俺は俺で今とさして変わらなかったし、浮いたもんどうしで何となくツルんで。どぶろくも教師としちゃあ、浮いてたし、ま、そんなのが集まった形だった。それでも、楽しかった。
 俺は、正直、こいつらを利用してやろうと思っていた。アニキを、取り戻す為に。
 俺にとって、どんなヒーローよりも格好良かった、アニキ。『本物のアイシールド』
 この事は、栗田やムサシも知らない。
 どぶろくは、知っている。俺の、異常なまでの…まだ先の、クリスマスボウルへの執着を、栗田やムサシは3人きりでも、いつかは…という夢…目標か…だと思っていたようだが、どぶろくには、俺だけが異常に執着しているのを見抜かれた形で、アニキの事を話すハメになった。
 信じてもらえるなんざ、思っていなかった。真顔で信じる、と言ったどぶろくを、オカシイんじゃねぇの、コイツ。と思ったね、正直。誰が信じるよ、普通。

 俺のアニキはアメフトの神様の呪いで、馬にされてしまいました。クリスマスボウルに行かないと、その呪いは解けないのです。

 …ありえねぇだろ、普通。

 アメフトの神様がいるのなら、それに愛された人間だ、と評されたアニキが、調子コイたのか何なのか、ちまかった俺には解らねぇ。が、目の前で、馬にされちまったアニキを見たんだから、信じるしかねぇ。自慢の息子が馬になった、なんて信じる親が、どこに居る?俺が見たままを言ったところで、俺がおかしくなった、としか、思っては貰えなかった。突然姿を消したアニキの捜索願いを出したところで、見つかる筈がない。…見つけたところで馬だぜ?つか、んな話、俺だって目の前で見てなけりゃ、鼻で笑ってオシマイだな。けど、見たんだ。
 誰よりも、何よりも、大好きで、大事で、自慢のアニキ。元に戻す方法なんて、ちまい俺に…つっても、それなりに知恵はあったが…解るわけもない。誰にも信じてもらえなくて、突如庭に現れた…オカネモチだったんだよ、俺んちは…武器関係の仕事してて、政府だ軍だ、やたらと繋がりがあったおかげで…馬に縋って泣きじゃくってパニくってるばかりだった俺に、神の声が聞こえた。…ああ、精神病院に行くのは、クリスマスボウルが終わってからでいいからな。

曰く、『おまえが自分で作ったチームで、クリスマスボウルまで行く事が出来たなら、兄の呪いを解いてやろう。それを忘れぬ為に、お前の耳にも呪いをかけよう』

 なんだってアメリカの、アメフトの神様が、日本の高校の全国大会決勝を条件にしたのか知らねぇ。が、オカシクなっちまった(と、思われてる)俺…ま、こん時にありえねぇぐらいデカくて尖った耳になっちまって、どうせ目立つなら、ってんで、だかだかピアスしてみたんだが…と、突如現れた馬を体よく隠す為に、親は馬を売り、俺を日本へ送った。留学、って言えば聞こえはいいけどな。こっちじゃ身内はいねぇし、俺はひとりだし、好きに出来る。神様の言葉に縋る俺には、都合が良かった。向こうじゃいちお、それなりに名門、って言われてた学校に行っていたし、家には家でカテキョもいたし、後継ぎなアニキと一緒に帝王学だの社交術だの(こっちじゃ役に立てる気もねぇけどな、社交界自体が、ねぇんだし、元々うぜぇし)何だの、叩き込まれていた。自分で作ったチームでクリスマスボウル、ってのが神様言うところの条件だったから、適当な学校に行けば、アメフト部自体がねぇんだし、そっから作れば良いだけの話だった。武器だの金だの、俺が好き勝手に使う程度のもんは、とにかく俺が『まともに社会復帰できるまで』こっちに追い遣っておこう、ってハラの家の方から、こっちの俺付きのエージェントに送られて来るから、不自由はしない。ソツなく家の望み通りの生活なんざしてたら、アニキが見つからねぇまま(…馬だし)の今、連れ戻されるのは目に見えてっから、適当にやさぐれて…地だろーけど、大概…みたりしてる、ってワケだ。
 アニキを元に戻す為に、自分で作ったチームでクリスマスボウル。そこで勝つか負けるかまでは、条件のうちじゃねぇ。が、どうせやるなら、勝たねぇとな。
 アニキを元に戻した後、どうしよう、なんて、どうでも良いぐらいに、アメフトが楽しい。こいつらと、クリスマスボウルに行きてぇ。が、やっぱり、『本物のアイシールド』を、もう一度。まあ、馬になってる間に鈍ってたりすんだろーけど、アニキだし…何たって、アメフトの神様に愛された天才、だぜ…の、プレイを、見たい。俺の見つけた『アイシールド』と、闘うとことか、想像すると、ゾクゾクする。だから。デス・マーチがどれだけ拷問じみたもんでも、その先に何があろうと、負けないし、死なない。アメフトで…フィールドで力尽きて死ぬ、なんざ、んなの似合うのはアニキだけだ。死んで欲しいわけじゃねぇけど。けど、それぐらい…すげぇ、から。
 クリスマスボウルに行って、アニキの呪いが解けたとしよう。それでも俺がアメフトを続けるか、ってぇと、断言はできない。アメフトは、好きだ。けど、アニキアニキばっかりで、それだけで突っ走ってきた部分も、否定出来ない。こんな俺は、ここまで…アメフトが好きになって来ている奴らや、同じ夢を追って来た、と信じてる栗田や、その為にごちゃごちゃうぜぇ事言ってるムサシには、言えねぇ。

俺は俺の為に、クリスマスボウルに行く。
だから。

 てめぇらは、てめぇらの…てめぇら自身の為に、行け。
 間違っても、俺や、俺達…俺と栗田とムサシの…為、だなんて言って欲しくはない。純粋に、アメフトを楽しんで、頂点を目指して行け。
 俺は、アメフトが好きだ。それは、本当だ。だけど、アニキも大切で、大好きで、守りたいんだ。もう一度、『本物のアイシールド』が、見てぇんだ、この目で。俺は、どこまでも勝手だ。今更部員に好かれようとは思わない。けど、アメフトが楽しい、って事は、こうすれば、もっと楽しくなるんだ、って事は、この秋大会で勝ち続ける事で、教えてやる。そして、いつか。『本物のアイシールド』の凄さを、見せてやりたい。もう、鈍らになっているかもしれないアニキだけど。それでも、その凄さが解る程度には、なってんだろ。まだ、東京大会が始まったばかりだ。それでも、楽しいだろ?面白いだろ?強くなって、勝ち続ければ、もっと手強くて面白い相手が、バカみたいに居るんだぜ?日本だけじゃねぇ。世界中に、強くて、面白い奴らが。クリスマスボウルに行く。そこで、見せたいのは。高校の中じゃ、最強。だけど、まだ先にいくらでも可能性がある、面白い世界、だ。アニキを見て来たから、知っている。知ってはいるが、俺自身がそれを体験したワケじゃない。そこに立てば、見えるものがあるような気がしている。何かを、知る事が出来るかもしれない、という期待が、ある。まず、そこに立たなければ、話にならない。悪魔呼ばわりされてたって、所詮コーコーセーだ。留年してでもクリスマスボウル!なんて、ダサい事は、したくねぇし。んな手口で行ったら、余計に呪われそうだしな。これ以上の面倒は、ゴメンだ。
 誰もが、自分の為に。それが夢でも目標でも何かの見返りでも構やしねぇ。俺を理由にしても、言い訳にして欲しくはねぇ。クリスマスボウルまでの、俺に残された時間は、僅かなものだ。トーナメント戦だから、油断すりゃ、そこで終わりだ。油断しなくても、終わる時には、終わる。勝負ってもんは、そんなもんだろ。だが、負けねぇ。負けてやらねぇ。誓いは、3人で始まりを刻んだ時から、変わる事はない。俺は俺の為に行く。
『絶対クリスマスボウル!!』
 叶えて、みせる。

END 2004.10.22.

「形容詞30題」より『23.よわい』です。…いや、だって凄いあたまよわいやん作者が。本物のアイシールド、が、ヒル魔さんの兄だと良いな、と思ったり、それがキッドでも良くてよ、とか、いっそ新キャラでも良いけど、ヒル魔さんの身内だったり劣等感を刺激しつつ憧れずにはいられないような存在だと良いな、とか、思ったり。「ヒル馬×ヒル魔でもいいよ」と、電話の相手に言ったところ、予想外に盛り上がってしまい、<ワタクシが…。書くなら今!今しかなくてよ!まだヒル魔さんの身辺が謎で、本物くんの正体も謎な今しか、できないわ…っ!と、思い詰めてみました。んな事ゆーたら、あの馬どもは皆、どこぞの誰かの身内が呪われた姿になるやんか!とゆー、『ツッコミはいらねぇよ。所詮同人腐女子SSなんだからな!!』と、ヒル魔さん気取りでほざいておく事に致します。このお題は、『生★湯毛にく』のユケさまに請け出して頂く事になりました。フライングお誕生日、ってことで、良いですか?(笑)…ワタクシに、馬×ヒル魔本番は、無理ですので、ここまでですが。…ぶっちゃけヒル魔さんの膝の故障やら無駄にアメリカンなところやらが伏線で、奴が本物アイシかもしれん、とは思うんですが、まあそれはそれです。妄想なくして腐女子萌えなし。うぬ。