「 Petit fool 」

4月1日、ブログを開設し、更新に励んでいたプロイセンの元に届いた、ひとつのリクエスト。

”こんにちは、プロイセンさん。今日はお願いがあります。是非、イギリスさんの家でランチを食べて来て欲しいんです。”

異国の料理を食す。ただ、それだけのリクエストだ。
世界的に悪名をとどろかす料理を作り出す国であろうとも、皆が皆、そういう物を作るわけでも食べているわけでもない。かの国の食事情とて、このご時勢で良い方向への変化も見せている、と聞く。
しかしそれは一般人が観光等で訪れたり、居住するに当たっては、という事であり、この場合のプロイセンへのリクエストに限って言えば、それは当てはまらないのだった。
何せ、”国”を体現している彼・彼女達であるからして、多少の変化があった程度では長年培われて来た国民性やら習慣やら味覚やらといった、自分を形成している諸々が、おいそれと変わりはしないのだ。
良くも悪くも、その国の特徴とされる部分が強く、表に出る。
イギリスの作る料理は料理と呼んで良いものかどうか疑問であり、それを”普通に食べる”という事が拷問に等しく、拒否出来る・逃げられる・避けられる状況であればそうしたい代物であり、どれだけ文句を連ねていても食べきる事が出来る(そして実際、食べ切ってしまう)のは彼の弟である大国のみである、という、国を体現する彼・彼女達が共通して持つ一般常識とも言える事を認識していなかった事が、プロイセンの悲劇だった。



訪問を告げた後に自分を迎え入れた時の、やけに嬉しそうなイギリスに疑問を持つべきだった。
そうだ、あの”ほんとに来てくれたのか”の言葉で、気付くべきだった…。あれは、ランチを食べに来いと言っても、来る奴がいないからじゃねぇのか。

不思議な色合いをした料理を目の前にしても、異国の料理故に疑問を持たずにいたプロイセンが、しみじみとそう 思うに至ったのは、それを口にした後の記憶を失くし、目覚めた後だった。
目覚めて最初に見えたのは、泣きそうなイギリスの顔だった。



プロイセンが国として在った頃に、イギリスが泣き顔を見せる事などなかった。(少なくとも、プロイセンに対しては。)
自分がより強大な国になる為に必死に戦っていた頃のイギリスは既に大国であったし、外見に釣り合わない老獪さに翻弄される事が見えていてもなお、自国の利害を考えれば、援けを求めて頭を垂れねばならない相手だった。
正直、良い感情はなかったが、特に悪い感情もなかった。
人型を取り、人と同じように感情を持ち、痛みも快楽も知る身であっても、国であるならば、人型としての自分と国である自分との感情はまた別であり、身の内に割り切れないものがあったとしても、国である自分を形成するものが何であるかを考えれば、何を優先させるべきなのかは明らかだった。そしてそれは、どの国にとっても同じだ、という共通した認識があったのだ。
そしてそれは、現在においても変わる事はない。
自ら上司を選ぶ事は出来ない。国だからと言って、己の意思で全ての行動を決定する事は出来ない。自分を形成している”人間”よりも、不安定な存在でしか、ないのかもしれない。
それなのに、人と同じ形、同じ感情、同じ感覚を持っている。
やっかいと言えばやっかいだが、自分達は”そういう存在”なのだ。
今更、他になりようがない。
確かに、個人的な好悪の感情は持っている。
出来れば近付きたくない、だとか、理解したくない相手だとか、そういった相手もいれば、安心できたり好きだったり、出来れば一緒にいたい、という相手だっている。
そしてプロイセンのイギリスに対する感情と言えば、好きでも嫌いでも、突出した感情は持っていないという、ただそれだけの事だった。
まして現在のプロイセンは己の名を冠した国もなく、表に出る事もない。
暇にあかせて作ってみたブログに来たリクエストに、警戒を抱く事など、なかったのだ。



「あ…よ、良かった…目、覚めたんだな、プロイセン」
「…んあ…?イギリ、ス…?」
…確か俺、こいつん家(ち)にランチ食いに来て…あー…食った後の記憶がさっぱりねぇわ…あー…俺が来た時の、やけに嬉しそうなイギリスに疑問を持つべきだった。
そうだ、あの”ほんとに来てくれたのか”の言葉で、気付くべきだった…。あれは、ランチを食べに来いと言っても、来る奴がいないからじゃねぇのか。誰だ、このリクエストした奴!知ってやがったんだな?!こいつの料理の破壊力を…!…この俺様を嵌めるとは、恐ろしい奴だぜ…!
一般常識として認識されている事実を自分が知らなかっただけ、という事に気付いていないプロイセンが、ぼんやりしたままの頭の中で、あれこれと思い浮かべている間もイギリスは相変わらず、泣きそうな顔でおろおろとプロイセンの顔を覗き込んでいた。
こいつでも、んな顔すんだな…。
そんなイギリスを見るともなしに見ながらプロイセンが思ったのは、そんな程度の事だった。
「な、なあ…ほんとに大丈夫なのか、プロイセン…?」
目を覚ましたものの、ぼんやりとしたままのプロイセンを不安に思ったのか、おたおたとしたままのイギリスが声をかける。
「…あ?…あ、ああ…大丈夫、だと、思う、ぜ…?」
目覚めたばかりの、少し掠れた声でプロイセンが答えると、安心したのか、イギリスが力の抜けた顔をした。
「…俺、どうなってたんだ…?」
自分の置かれた状況を、薄々解ってはいても把握したいプロイセンがイギリスに声を掛けると、イギリスの身体が大きく跳ねた。
「そ、その…俺の…ランチを食った後に…急に、倒れ、て………だな…その…」
イギリスが、気まずそうに言いよどむ。
…確かに、お世辞にも美味いとは言えない…むしろ、不味い、と言い切っても許されると思うし、出来ればもう、わざわざ遠出してまで食べに来ようとは思わない料理(と言っていいのなら)だった。
まあでも、こいつが食った後、と言うからには、食い切ってから倒れた、って事だよな?流石は俺様!…2度目は遠慮したいが。
今回は自分が急に押しかけた形になったんだし、昨日の残り物、って割りにはキッチンの様子がただごとではなかったし、きっと張り切って作ったんだろうなあ、こいつ。一所懸命なのは良いけど、これは料理が下手とかそういうレベルじゃねぇぜ。
まあ、それはそれとして、よ…。
見た事のない様子のイギリスを目にしつつも未だ味覚からのダメージが抜け切らないプロイセンだったが、倒れる前から気がかりだった事を解消しておこうと、イギリスに声をかけた。
「…おい、イギリス」
「な、何だ?!」
必要以上にびくついているように見えるイギリスの反応が、幼い頃の弟に重なった。
叱られる事に怯えている、子供。
プロイセンの目には、今のイギリスは、それ以外の何者にも見えなかった。
国として対峙した事しかなかったイギリスの印象からは考えられる事ではなかったが、今はそうとしか見えないのだから仕方がない。
そんな様子を見せられたところで今の自分には、からかう気力も残っていない、というのが正直なところだった。
…仕様がねぇなあ…。
イギリスに聞えないように小さく溜め息をつきつつ寝かされていたソファから上体を起こし、言葉を続けた。
「救急箱、あるか?あるなら持って来い。」
「あ、ああ…」
ばたばたとイギリスが部屋を出て行き、少しの間を置いて戻って来たかと思うとキッチンへ向かい、グラスを手にして戻ってくると、プロイセンに差し出した。
「…薬は一通り揃ってるから…その…胃薬も症状ごと、に…」
料理が嫌いではなく、むしろ好きなぐらいで人にも食べさせるものの、その度に苦痛を訴える相手が多すぎて、その度に傷付きながらも自分の所為で大事を引き起こしたとあっては困る、と薬を取り揃えているうちに充実しすぎて泣きたくなっている(意地とプライドで泣かない事にしている)イギリスだったが、近頃はもう、何かの罰ゲーム以外に自分の料理をわざわざ食べに来る相手などいない中、来てくれた相手が倒れた事実を前に、(自覚はしていないだろうとは思うが)しおらしくなっている。
「じゃ、なくて!てめぇの手だ。見せてみろ」
「え?あ…、お、俺の…?」
「他に誰がいんだよ。ほら、早くしろ」
「なん、で…」
「リス10匹に寄ってたかって噛まれるなんざ、何やってたんだか知らねぇけどよ。動物に噛まれたんだったら、しっかり手当しておかねぇと後々やっかいだろうが。んな、傷だらけの手で料理しよう、ってのが、そもそも無理なんだ、っての。でなけりゃ、キッチンもてめぇの手も、んな惨状にならねぇだろ?」
「え?あ…え、と…そう、だな…」
明らかに、嘘だと解るイギリスの言い訳を逆に利用したようなプロイセンに逆らいきれず、言われるままに手を差し出したイギリスの手を取ったプロイセンは、イギリス曰く”リス10匹に噛まれた”傷に的確な処置を施していく。



こいつの生まれって…病院、だったんだよな…。
自分の手を手際よく手当をするプロイセンを見ながら、イギリスは思い出していた。
そういえば、こいつを迎え入れた時に、一番に手の傷に気付かれた。
もしかして…ずっと、気にしてくれていたのか…?
自分の料理が自分以外に美味しいとは思えないもので、文句を言いつつ食べきるのが弟である大国だけだと自分も周囲も思っていたのに、食後に倒れたものの食べ切っただけではなく、どうでも良い事(少なくともイギリスにとっては指の怪我などいつもの事だったので)まで気にするような相手は、初めてだった。
プロイセンの見た目や表に強く現れる言動、性格を考えると考えられない行為であっても、生まれ育ちを考えてみれば、傷や病気といった事に何より先に目が行く事自体は、不思議ではない。しかしそれは、プロイセンが軍国であった頃の印象の強さのあまり、普段は忘れられていると言ってよかった。
だいたいが今回の突然の訪問まで、個人的な付き合いなど碌になかったのだ、イギリスとは。
文化や習慣、制度が違う事によって、他民族の軍が受けられた看護を受ける事が出来ずにいた、あるいは受ける事が不便だった状況で作られた施設から紆余曲折を経て軍国に、そして今では亡国に等しい(事実上、国の名前も国土も国民も残ってはいない)にも関わらず、存在しているプロイセン。普段、深く考える事もせず…実際、表立っての関わりもない…相手の存在の不思議、あるいは不安定さ、というものに思い当たったものの、それ以上に想像をめぐらせる事もなく、黙って手当を受けていたイギリスだった。



「…よし、出来た!これで、ちょっとはマシだろ。ま、しばらく大人しくしてろ。料理にしろ何にしろ、どんなに優れた道具があったって、扱う身体に傷がついてりゃ、どうにもならねぇだろ?」
傷の手当を終えたプロイセンが己の施した処置に満足したのか、邪気のない笑顔をイギリスに向ける。
「あ、え、と…あの…すまなかった、プロイセン…その…ありがとう」
昔に多少の接点があったとはいえ現在プロイセン自身とのそれもなく、今日の突然の訪問も自分の料理を食べて貰える、という事を喜んでいただけのイギリスにとって、プロイセンの言動も邪気のない笑顔も、意外としか言いようがなかった。
意外すぎた所為か、考えるよりも先に謝罪の言葉を口にしている自分に、何よりイギリス自身が驚いていた。
プロイセンにしても、あのイギリスが、”国”同志の儀式でもないのに自分に対して礼を述べた事実は、意外としか言いようのないものだった。簡単に、謝罪の言葉を口にはしない。そういう文化圏だった筈だ、お互いに。
「俺はもう平気だし、まだ行くところもあるし、帰るな。今日はイキナリ来て悪かったな。んじゃ、な!」
お互いに相手の意外な面を見た形になった所為か、どことなく落ち着かない雰囲気の中、慌しく去るプロイセンに何と返したかも覚えていないイギリスは、落ち着いてからプロイセンのブログでこの件に関する各国のコメントを見て激高したまま書き込み、勢いでドイツの家に電話をかけたのだった。
プロイセンが電話を取ったから良いものの、ドイツだったらどうするつもりでいたのか、イギリス自身にも解らなかった。



”俺とメシ食えるとか、幸せにもほどがあるぜ!”



確かに、プロイセンが言っていた事は本当だと思う。特定の相手しか食べ切ってくれない(殆どは口にする事すら拒否される)自分の料理を、食べ切ってくれただけで、イギリスにとっては幸せ以外の何者でもなかったのだから。
しかし、自分の料理を食べ切った(後に倒れた)プロイセンが、自分の指の傷やキッチンの惨状に対しての言葉を口にして手当をしても、去る時に突然の訪問に対する侘びを述べても、決して料理自体を褒める言葉を口にしなかった事に、幸か不幸かイギリスは気が付いていた。
あいつが美味い、と言うものを、自分の手で作って食べさせたい。
いや、次は絶対、美味いと言わせるものを、食わせてやる。
その一念で後先を考えていなかった。



イギリスの家を辞去したプロイセンは、移動時間をブログのリクエストを消化の記事更新に充てようと作業をし、リクエストに関する各国のコメントを目して思わず出た叫びを、そのまま書き込んだ。



”てめぇら勝手に殺すな!俺は生きてる、っつーの!”



…全員グルかよ!何で知ってて教えてくれねぇんだ!
「だってその方が面白そうでしょ?」(教えたって、止めない癖に)
「だってその方が面白そうやん?」(止めたって、聞かへん癖に)
書き込んだ途端に力が抜けつつも律儀に更新を行い、それでも納まりが着かずに心の中で悪態をつくプロイセンの脳裏に、無責任にハモる悪友の顔が浮かぶ。(悪友の心の声は、プロイセンの脳裏に届いていない)
イギリスの家からの帰り道、海を渡ったらそのうちのひとりが居て、美食の国を体現している事を思い出したプロイセンは、口直しさせて貰う事に決めたのだった。
食にかけては神の手を持つ、悪友のひとりのデザートを満喫して幸せな気分で帰宅したところに鳴った電話を取ってみればイギリスで、かの国のランチに招待再び、の宣言を重い気分で受け取ったプロイセンだった。
重い気分になったのが、次は少しマシになっているかもしれない…と、儚い希望を持っているあたり、何だかんだ言いつつそれに付き合う羽目に陥る未来の自分が、薄っすらと見えた所為なのは、認めたくなかった。

END 2009.12.24

「形容詞30題」より『04.こうごうしい』です。そんな描写は欠片もございませんが。…英には普が神々しく見えたのかもしれない、というあたりで手を打ってくれまいか、各々方。俺様CDを聞いて、「何このいちゃくら百合ップルは?!ツン×ツンが実は百合って!」と、ひとりで神羅並にごろごろ悶え続けていたわけですが、あれだけ俺様と一緒で嬉しいのは当然だよな、なノリの普が一番に英様(様づけはニュアンスとして解って下さい。つけずにいられないのですよ英様と露っさまは。)の指の傷に気付きやがるのが悪いと思います!あんな目にあっても邪険にしないし、英様がやたらと何か…乙女でしたし。特に受け攻め固定はしておりませんし雑食ですけれども、これは英普にしか聞えませんでし、た………嘘です仏普に聞えたりもして両方で滾りましたすみません。