「 豪炎寺さんといっしょ 」

  <一緒に遊んでみる>

 車が河川敷に差し掛かる。今ではもう見慣れたユニフォームに身を包んだ、特徴的な姿が視界に入った。
 どうやら同じチームのメンバーはいないらしく、ひとりでベンチに座っている。
 豪炎寺は車を停めて、声を掛けた。
「どうした剣城、特訓か?」
「豪炎寺さん!これを!」
 姿を認めるなり、放り投げられたそれをキャッチする。
カードゲームだった。
 自分に手渡されたそれは、自分が居た頃の雷門中のメンバーのカードで、剣城の持っているものはどうやら今の雷門中のメンバーのカードらしい。
「…やるか」
 ベンチに腰掛け、カードバトルの開始だ。
 自分も、憧れの選手のカードを集めて、友人達とバトルに興じた事があった。懐かしさを感じながら、剣城を相手にバトルを続ける。
 相手が子供だから、といって本気にならない、というのはナシだ。
 勝負事にも色々あるが、こういった類のものは手加減されて嬉しい、というものではない事は自分がその時の年齢だった時を思い出せば解る。
 年甲斐もなく、という事も忘れて熱中してしまう程、久しぶりのバトルは楽しかった。
 何より、フィフスで接していた頃とは違う、子供らしい剣城の表情が見られた事に豪炎寺は安心したし、嬉しかった。
 自分が彼からこういった表情を奪うような指示を出してきた事を、思い知らされるのは苦かった。
 罪滅ぼし、というわけではないが、こういったふとした日常に、関われる機会が持てた事は喜びだった。剣城だけではなく、他の子供達にもこんなふうに接する事が出来るなら良いが、あいにく豪炎寺はひとりで、全てに関われるわけではない。
「…勝負あった!」
「まだ、だ…!」
「流石ですね、豪炎寺さん…!」
「お飾りとはいえ、監督もしていたからな」
「…本気で言ってますか、それ」
 バトルの最中に何の気なしに口にした豪炎寺の言葉に、剣城の声が尖った。
(…失言、だな)
 フィフスセクターの聖帝と兼任していた聖堂山のチームのメンバーは、ただのお飾り監督としてではなく、自分を慕い、戦ってきたのだ。ドラゴンリンクとの交代劇、そして雷門の優勝でホーリーロードを終えた後も、恨み言を言うでもなく、感謝の言葉や自分を気遣う言葉を掛けてくれたような子供達だった。
 フィフス内部に関わり、シードとして様々な選手やチームを見てきた剣城には、軽口とは受け止められなかったのだろう。まるで自分の事のように、怒っている事がその声音で解った。
「…すまない。俺が考えなしだった」
「いえ…俺こそ、なんか…生意気なこと言って、すみませんでした」
 律儀に謝罪を返す剣城に、思わず微笑んでしまう。
「剣城が謝る必要は、ない。明らかに俺の失言だった。…優しいな、剣城は」
「…そんな、こと、は…っ」
 照れているのか、目元が薄く染まった剣城が豪炎寺の言葉を否定しようとするが、言葉が続かない。
「…隙あり」
「…え?…あ!」
 剣城がうろたえている隙を狙って、次の手を打つ。剣城の負け、だった。
「…卑怯ですよ…!」
「じゃあ、もう一度最初から勝負しよう」
「望むところです!」
 一進一退の勝負はなかなかつかず、ついたらついたで次が始まり、ふたりのバトルは日が暮れるまで続いたのだった。



<出演してみる>

「はい、3・2・1…」
 カチンコが鳴る。
「どうした剣城、特訓か?」
「豪炎寺さん…!これを!」
 剣城の投げたパッケージはカードバトル用のセットだ。
 そのままふたりで河川敷のベンチでカードバトルに興じる。
「はい、カットー!お疲れ様でしたー!」
 再びカチンコが鳴り、撮影は終了した。
「疲れただろう、剣城?大丈夫か?」
 用意された椅子に座って休んでいた剣城の隣に腰を下ろしながら、豪炎寺が声を掛けた。
「…あ、はい…いえ…その、あれで良かったんですか?」
「良かったから、終わったんだろう?」
 そう言って笑う豪炎寺を見て、剣城は場数の違いを実感した。
 新作カードゲームで新旧雷門メンバーのカードが発売される事が決まり、新旧雷門のストライカーにCM出演のオファーが来たのだ。
 もちろん剣城は初めての事で、共演者が憧れ続けた豪炎寺だったから、断る理由よりも嬉しさが先に立ち、出演を承諾したのだった。
 豪炎寺はプロ入りしてからスポンサーのCM出演も何度かこなしてきている。スポーツ飲料だったり、スパイクだったり、それは幼い剣城が兄と共に両親にねだって買ってもらった思い出と重なる。
 中学・高校時代もサッカー雑誌なんかの取材は受けていたし、それなりに取材や出演慣れしている、と言っても良い。
 フィフスの聖帝に至っては、広告塔を全面的に引き受けていたようなものだ。
 自分もメディアに出たい、というような欲は剣城にはなかったけれども、憧れだった人に少しでも近付きたい、という程度の気持ちは、あった。サッカー自体はもちろんのこと、物理的にもそれがない、と言えば嘘になる。
 フィフスに居た頃は、あくまで聖帝としての立場を崩す事なく接してきた豪炎寺と、こんなふうに…たとえCMといえども、普通に遊ぶ、なんて事はこの先ないだろうと思う。
 聖帝としての事後処理を終えた豪炎寺はプロとして復帰する事になっているという話だったから、こんな機会でもなかったら、こんなに近くで言葉を交わす事もないだろうと思う。
 選手としての憧れと、人生を賭けてサッカーを取り戻そうとした聖帝としての姿への敬慕。真の目的を知ってから今では恨みなどという感情は遠いものになっていて、フィフスに所属しシードとなっていなければ、ここまで自分を覚えていてくれていたかどうかも解らない、憧れの存在。剣城にとっての豪炎寺は、そういったものだった。
「…いつまで経っても、慣れないもんだけどな、こういう現場は…剣城は、初めてなのに堂々としていて、良かったと思うぞ?」
「…え…?あ…その…俺、そんな風に見えてましたか」
「ああ。TV慣れしているというか…凄いな、と思った」
 だとしたらそれは、きっと設定のおかげだ。剣城はそう、思った。
 憧れの人と共演。そんなもの、緊張しか、しない。
 けれども、カードバトルをしている時は、そんな事を忘れていた。
 ただただ、楽しかった。
 現実ではまだ、同じフィールドで戦う事は出来ない。けれど、カードバトルの世界なら、同じフィールドで戦う事が出来る。そして豪炎寺は、撮影中で遊ぶ振りさえすれば良いようなところを、本気でバトルしてくれた。それが嬉しくて、バトル中は撮影だという事すら、忘れていた。
「豪炎寺さんに迷惑をかけてなかったなら、嬉しい、です」
「…迷惑をかけた、というなら俺の方だろう…すまなかった」
「え?」
 …思い返してみても、撮影中に迷惑をかけられた覚えはない。フィフスの事を言っているのだろうか。
「……台詞…俺はその…噛んでしまう、から…」
「…あ……ク…ッ」
 そういえば、何度かNGを出したのは、CM初出演の剣城ではなく豪炎寺だった。
 緊張と、集中と、他諸々で剣城は忘れていたけれども、台詞を噛んでいた事を思い出す。
「…ッ…」
「……俺としては笑うのを我慢される方が、いたたまれない」
「…すみませ…っ…は…あはは…っ…」
 憮然とした顔を隠しもせずに言う豪炎寺に、謝罪しながらも笑ってしまうのを止められない。
 迷惑なんて、思いもしなかった。
 面食らっていて、そんなふうに思う暇もなかった、というのが正しい。
「……今頃、思い出したのか…?言わない方が、良かったか…」
「あは…ははは…っ…すみま…はは…」
 初っ端から、やらかしてくれたのだ、この人は。

「どうしたちゅるぎ、特訓か?」

 剣城は固まってしまい、その後を覚えていない。
 豪炎寺は自分が噛みやすいのを自覚していても、初っ端からやらかすとは思っていなかった。落ち込んでいても撮影は進まないからシラを切り通そうかと思ったものの、このままオン・エアされてそれに気付かれる方が嫌だった。早々に休憩を取らせて貰い、2〜3度練習してから再開したのだ。
 そんな事を、溜め息と共に呟かれては笑いが止まらない。
 剣城の知る豪炎寺は、選手としてフィールドで戦っている時と、聖帝として対した時がほとんどで、普段の豪炎寺をさほど知っているわけではない。
 淡々として見えるが、どうやらむくれてしまっているような、困った表情の豪炎寺は、剣城の知っている豪炎寺の印象を幼く見せるのに充分だった。
 そしてそんな豪炎寺を、可愛い、と思ってしまったのがいけなかった。
「…はは…っ……豪炎寺さんって…その、意外と子供っぽいところが、あるんですね」
 つい、そんな言葉を口走った後で、10歳も年上の(しかも尊敬する)人に向かって失礼な事を言ってしまったのではないか、と気付いた。
「すみません…!その、俺…子供っぽいっていうか、何か、俺なんかよりずっと大人なのに可愛いな、って思って、その」
 慌てて続けた言葉が余計に失礼かもしれない、と思った時には、もう遅かった。
(調子に乗って、俺は何てことを…)
 真顔で見つめてくる豪炎寺を、まともに見られない。
 せっかく楽しい時間を過ごしていたのに、自分の発言の所為で気まずい思いをして終わるのかと思うと、動けなかった。
「そんな顔を、するな」
 そう言った豪炎寺の顔に、柔らかな笑みが浮かんでいるのを剣城は見た。
「怒っているわけではないし、剣城に悪気がないのもわかっている。ただ、その…剣城に可愛い、と言われたのが意外だったから、驚いただけだ」
 俺には、剣城の方が可愛いと思うけどな?と言いながら綺麗に笑う豪炎寺の顔は、子供を見る親のそれに似ていて、何となく悔しいような嬉しいような気持ちになる自分は、やはり子供で、豪炎寺は大人なのだと、剣城に思わせた。
 剣城は憧れの人を、可愛いと思ってもいいんだな…なんて事を思いながら、同じように豪炎寺に憧れ尊敬している兄、優一に、この事を話すのが楽しみなような、秘密にしておきたいような、そんな気持ちになっている自分を、持て余す事になった。

END  初出2012.06.08覚書 加筆修正2013.05.10

「形容詞30題」より『08.おいしい』です。おいしい、と言えばまあ「美味しくいただく」という事で、食事ネタか腐れ的には受をいただく、というところだと思うのですが、ワタクシ的に「おいしい」ふたりのCMだったもので、このお題に。タイトルが思いつかず、ありがち直球になってしまいました…。年下攻が好きなもので、ワタクシ的百合ップルなふたりはどちらも受なのですが、このふたりなら京介が攻だな、ってあたりをラストに込めてみたりしました。虎×豪だとイキオイで進みがちなのですが、京×豪だともだもだしてくれそうで、そのあたりがツボでございます。