「……俺は、いい」
「何でだよ。あ、俺、何か怒らせちゃったか?お前の必殺技と芋を一緒みたいに言っちゃったから?ごめんな、そんなつもりじゃ…」
難しい顔をした豪炎寺に、心当たりと言えばそれしかない円堂が、言った。
「いや、そうじゃない。俺はいいから」
「……そっか」
どうやら怒ってるわけでは、ないらしい。何だってそんなに難しい顔をしているのか解らないが、それあらまあ良いか、と気分を切り替えたらしい円堂は、楽しい悩みに戻っていった。
ほくほくと湯気を立てる、揚げたての串を手にしたふたりと、待っている間に飲み物を手にした豪炎寺は、出口に向かって歩く。
円堂が、熱い熱いと言いながら頬張るのに、思わず笑みをこぼす、ふたりだった。円堂を見る心境は、親御さんに近いものが、あるかもしれない。
「なんかさー、豪炎寺食ってるみたいだなー、これ」
あちっ、等と言いながら食べつつ円堂が言うのを聞いて、今まさに自分が手にした串に口をつけようとしていた鬼道の動きが、止まった。
「……芋と一緒に、されたくない」
鬼道には豪炎寺が返す言葉が、的外れな気がした。
「でもさー、トルネード、って名前が、なんかさー、そんなカンジなんだもんなー」
「……名前だけだろう」
……こいつら…解ってて、やっているのか…?
鬼道はまだ、自分にそういった経験はなかったが、何につけ大人の世界を垣間見る機会の多い環境の所為で、耳年増、といって良い状態だった。
鬼道が好き好んで見て来たわけではない世界で、そういった発言はつまり、恋人や夫婦や愛人や…とにかく、身体を繋いでいる関係の大人が口にする言葉、だった。円堂と豪炎寺のふたりが、そういう関係なのかと鬼道が咄嗟に思ったのも、無理はない。
「……鬼道?どうした?」
「……何でもない」
豪炎寺が聞くのに、それだけ答えるのが精一杯の鬼道だった。
ここで、ふたりに付き合っているのか(この場合、恋人として、だろう、やはり)等と、聞く勇気もない。見たところ、円堂は特に含みもないようだし、豪炎寺の様子も特に変わったところは、ない。聞いてみたところで、全くの的外れであれば、自分が恥ずかしい気持ちになる事は明白だ。
「ごちそうさま!美味かったー!豪炎寺ポテトっ」
「だから、芋と一緒にするなと言っている」
「美味かったんだし、いいだろ?不味いもんと一緒にしたら、嫌かもしんないけど」
「……そういう問題じゃ、ない」
「そうなの?ごめんな?」
「別に、怒っているわけじゃ、ない。気にするな」
「へへー!ありがとな、豪炎寺っ!」
……食えるわけ、ないだろう…。
ふたりは普通に会話をしているだけだ、という事は、よく解った。
しかし、一度妙な方向に深読みしてしまった自分の耳は、普通の会話として聞き取ってくれない。
鬼道は小さく、溜め息をついた。
「円堂。これも、食べるか?」
「え?いいのか?」
鬼道が差し出した串を、円堂が受け取る。
「あれ?鬼道、食べてないだろ、これ。折角買ったんだから、ちょっとぐらい食えばいいのに。ほら!」
口を開けろ、という仕草をしながら、円堂が鬼道の口元に串を向ける。
……いくら何でもこれは…っ。
どう見てもそれは、小さな子相手に食べさせる時の、所謂『はい、あーんしてね』状態である事に、円堂は気付いていないようだった。
戸惑って固まる鬼道の前で、円堂はにこにことしながら、鬼道が食べるのを待っている。
……こいつに他意はない、ないんだ。
こんな事を気にする自分の方が、おかしいんだ。
自分にそう言い聞かせた鬼道は、円堂の差し出す串をひとくち、かじった。
「美味いだろ?」
「……ああ」
「豪炎寺も!ひとくち、なっ!」
鬼道が食べたのを見て満足したらしい円堂が、今度は豪炎寺に向かって同じようにする。
買う事もしなかった豪炎寺だったが、円堂の押しには勝てないと判断したのか、渋る様子もなく差し出されたそれを、かじった。
円堂は鬼道の時と同じように美味いだろ、と同意を求める自分に頷いた豪炎寺を見て、気が済んだらしい。相変わらず、にこにことしながら残りを口にした。
食べ終えて、ようやく食べる事に関しては落ち着いたらしい円堂が、射的やダーツやスマートボールといった遊戯屋台に引き寄せられて行くのに、両手の荷物を預かったふたりが後をついて行くような形になっていた。
見たところ、豪炎寺の様子に特に変わったところはない。
鬼道は、気になっていた事を、聞いてみる事にした。
「……豪炎寺。さっきは、どうしたんだ?」
「さっき?」
「屋台で…えらく難しい顔をしていたから、何かあったのかと、気になってな」
何かが引っかかると解明するまで抱え続ける。最近、そんな鬼道の性分がそれなりに解ってきていた豪炎寺は、あっさりとその訳を口にした。
「芋が一袋いくらするか、知ってるか?」
「……いや」
鬼道の家では食事は基本的に使用人任せであり、食材を買う時もわざわざ店へ出向いたりは、しない。
豪炎寺の家にも手伝いの女性がおり、基本的には家事を任せてはいるが、妹に強請られて料理をする事もあり、そういった時には買い物にも行く。
「さっきの…ひとつ分で少なくとも2袋、下手をすれば3袋買える」
……まさか、とは思うが。
何とはなしに、鬼道は嫌な予感がした。
「俺は、芋ひとつにそこまで出すのは、嫌だ」
……やはり。
鬼道は脱力しつつ、円堂の荷物(殆どが食べ物だ)を落とさないよう、首だけを下に落とした。
その値段の中には、材料費の他に人件費も場所代も水道光熱費も全てが入っているからだ、という事ぐらいは理解していても、嫌なものは嫌なのだろう。それは、仕方がない。経済観念がしっかりしているというか何というか…だが、こういった場所で、そんな事ばかり考えていても、楽しめないだろう。
「……そんな事とか、夕香の事とか、考えてしまう自分が、嫌になってた。それだけだ。…悪かった」
特に落ち込んだ風もなく、ごく普通の口調で話しているところを見ると、今はもう大丈夫なのだろう。だったら、それで良い。
鬼道は項垂れていた首を元に戻して、豪炎寺を見た。
「まあ、その分で妹さんに土産が買えて、良いんじゃないか?」
「……そうだな」
豪炎寺が、目を細めて笑った。
「豪炎寺ー!鬼道ー!何やってんだよ、早く来いよー!」
遊戯屋台での戦利品、なのだろう。円堂の手には、新たな荷物が増えている。
円堂に付き合った遊戯の屋台でも鬼道は天才ぶりを発揮し、羨ましがられたり感心されたりと、忙しかった。豪炎寺は妹への土産にでもなれば、と狙った商品を獲得する事に成功する。ふたりの成果を横目に悔しがる円堂が、今度こそ、と次々と挑戦していく。
半ば呆れながらも円堂を止めない程度には、ふたりは円堂の性格を把握していた。
円堂は手持ちの資金が尽きたところで、ようやく諦めたようだった。
「はあー…結局、何にも取れなかったなあ…」
がくり、と肩を落とした円堂が、溜め息をつく。
「そんなものだろう、こういうのは」
「……お前に言われても、説得力がないと思うぞ、鬼道」
「そういうお前こそ、な。豪炎寺」
「あーもおっ!いいよなー、ふたりとも。何で俺だけ、こうなっちゃうんだよお…」
円堂は呟きと共に、残念賞の駄菓子以外のものを手にしているふたりに、恨みがましい目を向ける。
「まあ、そうむくれるな。この中に欲しい物があるなら、持って帰って良いぞ?俺が持っていても、仕方がないからな。円堂が貰ってくれるなら、俺も助かる」
「ほんとか?!ありがとな、鬼道っ!」
途端に機嫌を直した円堂が、鬼道の手にしたものを見ながら、あれこれと品定めを始めた。
「……夏になれば、稲妻町でも祭りがあるだろう?その時にリベンジ、って手もあるぞ」
真剣な顔をして鬼道の戦利品を品定めする円堂に、豪炎寺が声を掛ける。
「そっか。そうだな。また、皆で行こうぜ!今度は夕香ちゃんも一緒にさ!」
「……そうだな。きっと、夕香も喜ぶ」
「今日のリベンジはそこでするとして…でも俺、これ欲しい!鬼道、これ、貰っていい?」
「ああ、構わない」
「あと、これとこれとこれも!」
「……全部、持ってくか?」
「いくらなんでも、それは悪いよ」
今の状態でも、さして、変わらない。それに気付かないのが、円堂なのだろう。
それでも、鬼道も、見ている豪炎寺も、嫌な気持ちになる事は、なかった。それも、相手が円堂だからだろう。
「あー、でも楽しかったなー!俺、来て良かった!」
「まだ、お楽しみが残っているだろう?」
「え、何?」
「浦部の家で、夕食」
「そうだった!ごめん、ふたりとも!まだ時間、大丈夫だよな?!」
「円堂ー!遅いぞ!」
今更のように慌てる円堂を、前方から呼ぶ声がする。
なかなか集合場所に現れない3人の様子を見に来たのだろう、出口に風丸の姿があった。
「悪い!今行く!」
それに答えた円堂とふたりは、足早に出口へと向かった。
「動詞30題」より『29.たべる』ブレイクエンドです。男子でも女子でも、同年代同士で仲良くきゃいきゃいしているのを目にすると、和みます。中高生だと男子の方が、会話がおばかっぽい事が多くて、聞いていて和む事が多いのは何故なんだぜ…。女子は何か、容赦ない事が多くて怖い。円堂に対して保護者感覚になってしまう修也さんと有人さん、というのを、ブレイクを見ていて強く感じるのですけれども。……どっちがお父さんでどっちがお母さんなのか、迷います。ふたりともこう、下に妹が居るお兄ちゃん、ですし、おかん属性が強い気がしてしまって。(笑)風丸、染岡、土門、半田は、お父さん、っていうイメージが強かったり致します。一之瀬は何か、嫁、っていう感じが強いです。<リカが相手でも。嫁イメージだけど、リカ以外には攻だと思うんだ…。