第1話 『誕生!ヘタレンジャー!』

※この番組は、ジャリーズエンターテイメントの提供で、お送りします。

年中無休、問答無用で宇宙の悪に狙われている星、地球。
宇宙の悪、とひと括りに言うそれは、宇宙人と呼ばれる異星人だったり、エイリアンと呼ばれる化け物だったり、知能の高い猿だったり、体内に侵入してくるウィルスだったり、アンドロイドやロボットと呼ばれるものだったり、マザーコンピューターの反乱だったり、様々だ。
愛する人を、愛する国を、そして愛する星を守る為、世界各国で様々な組織が人類の為に戦ってくれている。きっと、秘密基地だの司令塔だのが、そこいら中に存在しているに違いない。もしかしたら、お隣の及川さん(仮名)ちが、そうかもしれない。私たちが、知らないだけで、誰もが知るあの人が、誰も知らないこの人が、地球の平和の為に戦っているのだ。
これは、そんな戦士たちの物語である。



※主題歌挿入(みんなでうたおう!)



桜庭春人は、王城高校2年、アメフト部所属のジャリプロタレントだ。世間では、アイドルと呼ばれている。今日も今日とて女の子に追いかけられ、アメフト部ではショーグンに怒鳴られ、親友の進にはいつも通りにボケられ、元気にヘタレていた。日本語の間違いではない。落ち込んでいなくともヘタレているのだから、元気な時は元気にヘタレているのである。
仕事は順調、部活も強くなる、と決めてからは自分なりに努力もしているし、校内では桜庭を見て表立って騒ぐのは、入学間もない頃の1年生ぐらいだし、居心地は、悪くない。
売り出し中のアイドルのスケジュールは過密極まりなく、気を抜けば速攻で眠り込んでしまう桜庭を、周囲は放っておいてくれる。昼休み、食欲を満たして、次は睡眠…とばかりに眠り込んだ桜庭だった。
練習がオフなのは、王城アメフト部では、珍しい事ではない。ただ練習しさえすれば良いか、と言えばそうではなくて、まずは身体を作り、管理する事が前提にある。根性論だけの練習で身体を壊し、将来を摘み取ってはいけない。伸びる時期には個人差がある、それを見極め、指導するのが監督としての務めだ、というのが顧問監督の庄司軍平、通称ショーグンの考え方だ。事務所の社長兼、桜庭のマネージャーであるミラクル伊藤に、見習って欲しい…と常々思う桜庭であった。
練習がオフなのは珍しくなくても仕事がオフなのは、珍しい。ここのところの過密スケジュールは殺人的で、土気色の顔をした桜庭を見たミラクル伊藤が、さすがに不味いと思ったのか、今日は何ヶ月ぶりになるのかわかない、オフになった。
(メイクさん、感謝!)と、桜庭は心の中で叫ぶ。
蛇足だが、今は大御所と呼ばれる少女漫画家が、その昔編集の魔の手から逃れる為に、青のアイシャドウで顔をメイクし、本気にした編集に締切を延ばしてもらったというのは、ごく一部では有名な話だ。
メイクさんが、桜庭に気のある事を知っていて、限界に近いような顔つき、ため息、虚ろな目を無言で繰り返しつつ、力なく笑ってみせているうちに、今回の『メイクでご病気大作戦』を提案、実行してくれたのだった。この程度の手管を使う事に、ためらいはない。
(だって、そうでもしないと、ずーっと会えないままだし)
アイドル桜庭春人、只今熱烈恋愛中!
字面だけを見ると中華飯店のようだが、桜庭の今の状態は、そうとしか言いようのないものだった。仕事関係の場所では、何が命取りになるのかわからないから、そんな事は言わないが、元来、秘密を抱える事が苦手な桜庭が、そういう状態に置かれている事で、『最近、色気が出てきた』『良い表情をするようになった』と、スタッフやクルーに言われ、仕事もファンも増えて来ている。良い循環と言えるだろう。
桜庭の想い人が男で、桜庭が一方的に惚れているだけだ、と知っても、その状態が変わらないかと言えば、疑問だが。


「あ、もしもしヒル魔?僕だよ、春人。今どこ?何してたの?そっち、行っても良い?」
いそいそと想い人に電話をかける。返ってくる答えなど、わかりきっていて、だけど罵声でも何でも、ヒル魔の声が聞ければそれだけで嬉しい桜庭が、めげる事はない。
案の定、『俺は今、忙しい。来んな、糞ジャリ。迷惑だ』なんて言われても、そこで諦める桜庭ではない。
「相変わらずだなあ…ヒル魔。冷たい…でも、そゆトコも好きなんだよねぇ…」
返事から間髪入れずに切られた携帯を眺めつつ、言葉だけで困ってみる。
(部活かな、途中だったら、終わるまで待って、一緒に帰ろ。それぐらい、良いよね。)
ヒル魔の都合などおかまいなしに、貴重なオフを一方的に充実させるべく、泥門へ向かう。
その途中に、事件は起きた。


街中を歩けば、いらない騒ぎを起こす。盲目的で熱狂的なファンは、怖い。見つかった途端、どこから沸いて来たかと思う人数に追いかけられ、捕まれば遠慮なしに触られ、それでも邪険に扱う事を許されない。
だから、人の少なそうな堤防を選んだ。
下校時刻のピークが過ぎたのか、泥門の通学路とは少し離れているせいか、他に人影もない。部活の連中が通っても良さそうなものだが、通り過ぎた後なのかもしれない。
今の桜庭の視界には、誰も映らない道を、派手な音を撒き散らしながら、流しているらしいバイクが数台、近づいて来た。
さしてスピードを出していないバイクは、そのまま桜庭の傍を通り過ぎるはずだった。
その中のひとりが、桜庭に気付くまでは。
「おい、あれって桜庭?」
「…そうみたいだな…」
通り過ぎたはずのバイクは、桜庭のすぐ近くで止まった。
王城の制服を着たまま、顔も隠さずに歩いているのだから、気付かれても不思議はない。女の子に追いかけられるのは日課のようなものだし、なんとか捲けるようにぐらい、なっている。問題は、男。
ファンなら性別関係なく歓迎だが、大抵の場合、男からは反感を買っているのがアイドルと呼ばれる職業だ。モテない者のひがみ、と言ってしまえばそれまでで、それが何であれ持たざる者は、持つ者の悩みや苦労などわかろうとはしないし、相手が自分の事をわかるはずもない、という前提で話を進めてくるので、どこまでも噛み合う事はない。
普段は事務所の人間が送り迎えをするし、仕事がなければアメフト部の連中と一緒だし、絡まれる事などない。
俗に不良、と呼ばれる、絶滅したかに見える人種は、独特のファッションと共に、どの学校にも生き続けているらしい。そういう連中に囲まれているのは、今、この状態が初めてだった。
(どう、しようかなあ…)
桜庭を囲んだ連中が、少しずつ距離を詰めて来る。


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