「さあ〜くらぁばくん。いやあ、俺、ファンなんだよねぇ…いつも、見てるよ〜?見たくなくてもな?売れっ子さんが、こーんな所で、何してんのかな〜?王城は、向こうだよね〜?」
泥門まで、そう距離もない、堤防。王城の制服を見る事は、珍しい場所。
「ここいらでお仕事でも、あるのかな〜?お仕事熱心だもんなあ?さぞかしオカネモチなんだろうな〜?羨ましいこった」
「貧乏で可哀相な俺達に、恵んでやってよ?桜庭君」
5〜6人で囲まれ、わざとらしく笑いながら、金を要求される。大人しく金を渡せば、暴力を振るわれる事はないだろう。顔も身体も、大事な商品だ。桜庭にも、それぐらいの自覚はある。下手に逆らって、目立つ場所に傷を付けられたら、それだけで支障が出る。衣装やメイクで何とかなる部分も大きいとはいえ、避けられる傷は避けておきたい。だからと言って、目立たない場所なら良い訳もないが。
ギャラは給料制で振り込みだし、カードも持ち歩いていない。(これは、ちょっとヤバいかなあ…。)と思いながら、桜庭は僅かな現金の入った財布を取り出した。
「素直だね〜、桜庭君。バカなアイドルかと思ってたけど、意外と話がわかるんで、助かるよ」
ひとりが首を抱え込むように桜庭の肩を抱き、ひとりは背後へ回る。前後左右をしっかり固めて、桜庭の退路を断っているつもりだろう。
(ミラクルさん、ごめんなさーい。今回は、ちょっと商品、傷ついちゃうかも。でも、かすり傷程度にしてもらうように、しますからねー)
案外のんきに、そんな事を考えている桜庭は、実際、驚いても、怖がっても、いなかった。
(芸能界、ナメちゃいけないよ。こんな脅しで済むなら、多少の傷は安いもんだよね。そっちが暴力で来るなら、こっちは権力使うだけなんだし。)
気の弱そうな雰囲気と、優しげな顔をしているせいで、桜庭をやっかむ連中から脅されるのなんて、日常茶飯事だ。暴力を振るうと芸能活動にも、クラブ活動にも支障をきたすから、先制攻撃はしないし、思わず反撃しました、程度に収めるようにしている。ミラクル伊藤に言われて、しぶしぶ覚えた護身術は、必要になる場面に事欠かない為に、上達する一方だったり、した。
黙ったまま動かない桜庭を、この状況を怖がっていると勘違いしている不良は、財布の中身を確かめた途端、凄んで来た。
「ざけてんのか、ああ?!」
(あーもーほんっと、この手の人達の決まり文句だよねぇ。フォーマットでも決まってんの?)
「ふざけては、いないんだけど…今日は、それだけしか、持ってなくて…」
「カードのひとつも、持ってねぇのかよ、今どき。アイドル様なんだろ?あ?」
(アイドルとカードに、どういう繋がりがあるのか、わかりませーん)
「そんな事言われても…」
心の中で悪態を吐きながら、あくまで気弱そうに受け答えをする。単純な相手は、煽れば即座に乗ってくる。とりあえず、低姿勢に。調子に乗らせて、あくまで受身に。
例えどんな理由であろうと、加害者よりも被害者に、同情が集まる。少し余計に殴られた所で、ミラクル伊藤が『可哀相な桜庭君』に同情させるような記事を、ゴシップ誌に売り込むぐらいは、しかねない。
(事務所的には、どっちが良いのかなあ…)
などと、桜庭がぼんやりと考えていると、見覚えのあるシルエットが、囲まれた桜庭の横を走り抜けて行った。
(進…?だよね、今の。相変わらず、こんなとこまでロードワークしてるんだ。でも、いくら何でもこの距離なんだから、僕に気付いても良さそうじゃないの?助けろ、とは言わないけどさあっ)
自分を囲む集団を通り過ぎたあたりから、更にスピードアップしたような気がする。
「聞いてんのか、ゴルァ!」
(わけ、ないでしょ。わかってるくせに、なんで聞くかなー。)
「ごめん…聞いてる、から…」
「すみません、だろ?!」
「…すみません」
「シツレイ致しマシタ。申し訳ゴザイマセン、オソレイリマスがオナマエをチョウダイできますでショウカ?そのイマドキ貴重なオメシモノは、賊ガクの生徒サンとお見受けイタシマスが?」
「な…っ?!誰だ?!」
桜庭の謝罪の言葉のすぐ後を、聞いた瞬間ふざけている、とわかる声と言葉が、追いかけてきた。桜庭からは、姿が見えない。
「良い返事だな。悪者は、そう答えなくちゃ、面白くねぇ」
「なんなんだ、おまえら…っ」
「聞かれなくても教えてやるよ…ひとーつ!人より俺の為!」
「ふたーつ!ふとどき許さずに!」
「みーっつ!みんなで退治だよ〜」
「よっつ!呼ばれて来るとは限らない!」
「デビルブラック!」
「ヘタレッド!」
「エンジェルイエロー!」
「ナイトブルー!」
「4人揃って!…そういや名前、決めてねぇな」
「なんなんだ、一体…っ。あんたら?!そのイカれた格好と覆面…頭オカシイんじゃねぇの?!」
突然現れた、見るからに怪しい集団。ありえない光景に、不良達は軽くパニックしている。
「黙れ。おかしかろーが何だろーが、立派な正義の味方だ。覚えとけ」
「嘘だ…んなもんが、いるかよ…あ、撮影だろ?!桜庭がこんなとこに居んの、オカシイと思ってたんだ。そうだろ?!」
自分達有利で、アイドル桜庭から金を巻き上げ、少しビビらせてやろう、と考えていたらしい不良のひとりが、突然桜庭に話を振る。
(そーゆーコトに、しておけば、いっか…)
とりあえず、商品に傷付かずに済むのなら、それに越した事はない。突然現れた4人も十分、怪しいのだが、桜庭には確信があった。
「うん。今度、特撮ものにゲスト出演が決まったもんだから…あの、ごめんね?だまして巻き込むみたいに、なっちゃって」
「い、いや、いい、そんなん!悪かったな!お仕事、頑張ってくれ、な?!」
撮影ならば、周りにスタッフが居る。当然、カメラもある。何も見えないけれども、どこかに隠されているのだろう、と勝手に勘違いしたらしい不良達は、慌てて散っていった。
(さて、と)
4人の現れた方向へ向き直る。左から、デビルブラック、ヘタレッド、エンジェルイエロー、ナイトブルー、と横一列に並んで立っている。お子様向け戦隊物そのままなマスクで顔を隠し、名乗った色を基調としたスーツ…洋服のそれ、ではなく、戦隊物の…を、まとっている。見るからに、怪しい。…何も、知らなければ。
「助けてくれて、ありがとう、正義の味方のみなさん」
「良かったね〜。何にもなくって〜」
ほわほわとしてそうな身体と、ほわほわとした口調で、イエローが言う。見覚えのありまくりなその巨体と、周りを和ませるオーラ。
「良かったです、間に合って。ナイトブルーさんが、知らせてくれたんですよ。すごい勢いでした」
「うむ」
ちまっこいヘタレッドが説明し、それにひとことで答えるナイトブルー。その組み合わせは、間近で何度も見ている。
「ったく、この程度でいちいち呼び出されてりゃ、割りに合わねぇ。糞アイドルが。割増料金、払いやがれ」
これで、決定的。
「デビルブラック、人助けというものは、金を取ってするものでは、ないだろう」
大真面目に言うブルーに、反論する。
「そーゆーのは、ボランティア、って言うんだ。経費と維持費、何より高い人件費、って言葉を知らねぇのか」
「うむ。知らん」
「いばるトコじゃねぇ!だいたい、安全はタダだと思ってやがるのが間違いなんだよ!安全と安心は、金で買うもんだ」
「ふたりとも、やめてくださいよ…」
「そうだよ〜。桜庭くんも、びっくりしてるよ〜」
ブルーとブラックの会話に、イエローとレッドが止めに入る。
(みんな、僕の事さんざんバカにしてくれるけど、変わんないよ、それじゃ…。)
笑い出したいのを堪えて、4人に近づく。
「ほんとに助かったよ。ありがとう」
「いえ、良いんです」
レッドとイエローがにこやかな口調で、ブルーが無言で頷く。桜庭は、リーダーらしいブラックに向き直り、手を差し出した。
「ほんと、僕の為に、こうして助けに来てくれるなんて…」
お礼の握手、に答えようと差し出されたブラックの手を引き寄せ、抱きつく。
「ありがとう、ヒル魔あ〜〜〜vvv」
「知ってやがったのか、この糞アイドル…っ!!」
「だから言ったのに…顔隠しても、無駄じゃないかなあ、って。僕の場合、顔だけ隠しても、身体は隠れないからね」「僕は、顔は隠した方が良いんですけど…まもり姉ちゃん、知らないし…」「……………」残りの3人の言葉に、桜庭が頷く。もちろん、デビルブラックであるところのヒル魔に抱きついたままだ。そのまま、マスクを外してしまう。残る3人も、マスクを外した。
「そうそう、顔なんて隠したって、すぐにわかるんだからね?だってそのスーツ、思いっきり身体のラインが出てるもん。ヒル魔の私服と同じ色だし、素材のせいかな?却って目立ってるよ?ぴかぴか光ってて、妙にやらしいしねっ」
「ど・こ・見・て・や・が・るっ、変態糞アイドルがっ!重ぇんだよ!は・な・し・や・が・れ・っ!!」
「い・や・で・す!見てるのは、もちろん、ヒ・ル・魔v」
「即答してんじゃねぇっ!」
「僕も仲間に入れてくれたら、離してあげるv」
「てめぇみたいなヘタレ、何の役に立つってんだ!」
思いがけず鍛えられてしまっている護身術やら、自分の使える権力やらは、ここで明かすつもりはない。ヘタレだと思われているからこそ、こうして助けてもらえたのだ。
「進を連れてく係、ぐらいかなあ?ほら、進は機械をすぐ壊しちゃうから、携帯とか、すぐに駄目になるでしょ?連絡取るのも、一苦労なんじゃない?」
「その程度の役目、ケルベロスにでもさせりゃ済む。だいたい売れっ子アイドルさまが、戦隊ヒーローなんざ、務まるかっ、こーのーヘタレ!ヘタレンジャー!は・な・せ・っ!」
「い・や・だ、ってば。あ、ソレでいいよー。ヘタレンジャー。色はピンクがいいなvお色気担当でv」
「色気なんざ、求めてねぇ!」
「戦いで役に立たない戦士は、お色気担当、って相場は決まってるじゃない。それで良いよ〜、僕」
「い・ら・ね・え!」
このままでは、いつまで経っても終わらない。傍で見ている3人は、『いつまで、いちゃついてるんだろう、このふたり。しかも、なんでそれ、見ていないと…?』と思い始めていたので、それぞれに桜庭のフォローに走った。
「ヒル魔〜、良いじゃない、入れてあげようよ〜。5人の方が、格好も付くと思うよ〜」
「そうですよ。進さんだって、同じ学校に事情を知っている人が居た方が、来てもらいやすいと思います…」
「うむ」
「…だーッ!!揃いも揃って…ッ!!解った。解ったから、は・な・せ!!」
「はいv」
急に離されて、思わずよろめくヒル魔を支えながら、チャンスを逃さずキス。一瞬触れるだけのそれは、ヒル魔を硬直させ、他の3人は『見てない、見てない』と心の中で呪文を唱えて目を逸らす。桜庭にとっては、充実したオフの日となった。
こうして、ヘタレンジャーは誕生した。
お色気で地球が救えるのならば、何故に戦う必要があるのか。それが設定というものだ。大人の世界のお約束だ。今回は、何も戦っていないがツッコミは無しだ。桜庭君の設定なんか、コミックスを読めばわかるとか、ラバヒル合体なら説明はいらないから、さっさと合体しやがれ、とか、思ってないかな?
そんな君は、戦隊物の様式美を理解していない。日曜7時台に起きて、たとえイベント前であろうと、戦隊物を見て学習する事をお薦めしておこう。
果たして、どのような悪がヘタレンジャー達を襲うのか。
どんな敵と戦うのか。
戦え、ヘタレンジャー!たとえそれが建前でも、一応地球の平和の為に!
「ヒル魔さん、大変です!この間の賊学の人達だと思うんですけど…囲まれてます!」「よし、出動だ!変身しろ!」「変身って、服着替えるだけじゃ…えええっ?!ヒル魔、それ、ダメぇ〜っ!!」「変身中に、くっついて来るな!うぜぇ!」「あの…事件はもう、起こってるんですから、早く行かないと…」
次回、ラバヒル合体ヘタレンジャー 『あくまのぞくがくもんすたー』
「見ろよ、糞ガキども!」「ねえ、ヒル魔あ〜〜〜〜vv」(銃声)