家に帰っていつものように「ただいま」とドアを開けると「おかえり、啓介」と言うアニキの声が迎えてくれる。けど、今日はその声に妙な違和感を感じた。なンか、アニキの声なんだけど、アニキじゃねぇ、みたいなカンジがする。気のせいかな…。
昼過ぎのこの時間なら、アニキはリビングでくつろぎながらコーヒーでも飲んでるだろ。あ、やっぱりそうだ、香りがしてる。
アニキはいつだって優しいけど、この午後の時間ってのはゆったりとできるせいか、アニキのカオがいつもより穏やかで、オレはそれが気に入ってる。そんなアニキの傍らで、他愛もない話してんのが、なンかすげー心地イイんだ。
「アニキ?オレもそっち行っていっか?」
いちお、聞いてみねーと。アニキにだって、邪魔されたくない時間があんだろーし。
…?返事がない。
ンなの、初めてだ。寝てんのかな?最近、研究が忙しいとか言ってたし。オレと違って何でも出来るアニキはすごいけど、たいへんそうだ。そーゆーコト言うと何故だかアニキが困ったようなカオすっから、あんま、言わねーけど。
「アニキ…?」
もし寝てんだったら起こしちゃマズいよな…と思って小声で呼びながらリビングのドアを開ける。
なンか、ちまこいのがソファにちょこん、と腰かけて、コーヒーなんざ飲んでる。
親戚で一番年下は従姉妹の緒美だから、それカンケーじゃねぇよな。…まさか、今になってオヤジの隠し子とか?!…いや、そーじゃねぇだろ。今時ハズカシーぐらいに、いつまでたっても新婚なみだしな、ウチの親。
あ、アニキに聞けばこいつのコト、わかるか。
ひとりでパニクりかけてたけど、アニキの声がしてんだがら、アニキがいる、ってコトだ。留守中に頼まれたのかな…子守り。な、なンか、アニキと子守りって似合わねーかも。でも、留守の両親のかわりにオレを育ててくれたの、アニキだもんな。子育ての才能、あんのかも。…やっぱオレのアニキはすげーや。
オレが少ねぇ脳ミソで、ガラにもなくあれこれ考えてたもんだから、そのちまいのが、こっち見てんのに気が付かなかった。視線が合う。…あ…れ…?なンか…どっかで…。
……!嘘だろ?!こいつ、アニキに似てンだ!怖いくらいに、うりふたつ、って言葉そのまんま、ガキん時のアニキそのまんんま、なんだ…ってことは、オヤジの隠し子じゃなくて……かっ、考えたくねーっ!!!そりゃアニキも23だし、(だったらいつの子だ?)カオから頭からカンペキだし、オンナにゃ不自由してねぇだろうとは思うけど、なンか、とんでもなくイヤだ……ダメだ…情けねぇけど、泣くかも、オレ。
「どうした、啓介?」
がっくりうなだれたオレにアニキの声がかかったから、顔を上げる。けど、目の前にはガキしかいない。
「あ…れ?アニキ…?」
「分からないか?俺だ、啓介」
「あ…?」
確かに口調はアニキだけど言ってるのは目の前のガキで、でも声のトーンがちょっと高いぐらいで目線とか仕草はいつものアニキで……夢でも見てんのか?オレ。はくちゅうむ、ってんだっけ?こーゆーの。確か、アニキが言ってた。いや、そーじゃなくて!
「…アニ…キ?」
恐る恐る呼んだオレに返された微笑は、やっぱどこをどー見たってアニキのもんで…。
「よくわかんねーんだけど…アニキ、なのか?」
「ああ、そうだ。新薬の実験でな。データにミスがあったらしくて連絡が来たんだが、服用した後だったんだ。こんな姿になるとは思ってもみなかったがな。退行するのは身体だけで、他はもとのままだ。他に副作用らしいものも、今のところ出ていない。驚かせてしまったな。悪かった」
落ち着いた、いつものアニキの口調だ。
よくわかんねーけど、アニキなんだ、コレ。…って、安心してる場合じゃねーだろ、オレ!
「そんなンかまわねぇよ!それより、元に戻ンのか?!アニキ?!」
「まだ、薬の効力が切れないから何とも言えない、というところだな」
「ンな、ノンキなコト言ってていーのかよ?!」
「おまえが泣く事じゃないだろう、啓介?」
「だって…そんなん…」
何でそんなに落ち着いていられんだか、オレにはさっぱりわからねぇ。
「まだ実験段階の新薬だからな。一般販売されてからデータミスが発見されるよりは、この段階で良かったんだと思うぞ。この身体じゃ、不便な事も多そうだから、戻れるに越した事はないが戻れなければ、その時は何かまた考えるさ」
「アニキはそれでもいいンか?」
「いいも悪いも、戻れないと決まったわけじゃないからな。まぁ、様子を見てみるさ」
オレを安心させるように笑うアニキを見て、泣きたくなる。
アニキがこんなに落ち着いてるのに、何でオレが悔しくなるんだ。
「啓介…?」
「オレ…アニキが戻れなかったらヤだよ…」
紛れもなく本音だ。言ってて泣けてくる。
「…啓介…おまえは、この姿のオレだと嫌か?」
「その姿がイヤとかじゃねぇよ…アニキはアニキなんだし。でも…クルマ乗るにしたって、今までどうりじゃねぇんだぜ?!オレ、アニキのテク、すげぇと思う。いつだって、これからだってずっと、オレの前を走って欲しいと思ってる。そりゃ…アニキだったら、それでも変わんねーのかもしんねぇけど、さ…」
言いながらアニキを見ると、困ったような顔をしている。
サイテーだ、オレ。
自分の事ばっか考えて、アニキの気持ちなんて考えてる余裕がなかった。アニキだって、好きでそんなんになったワケじゃねぇのに。
「…ごめん、アニキ。オレ…なンも考えてなかった…アニキの事」
「無理もないさ。俺だって、最初から落ち着いていたわけじゃねぇからな」
こんな時ですら、アニキはオレの事を考えてくれる。
「…だが、そうだな。俺も戻れなかったら、困る事があるな」
ガキの姿のままで深刻そうな顔になるアニキに、不安になる。
そりゃオレだってアニキがこのまんまじゃ、困る事がたくさんあるだろうけど、アニキ自身はもっとたいへんなはずだし。
「俺がこのままだと、おまえを抱く事ができねぇからな」
……あ?
なンか、すげぇ場違いなコト聞いた気がすんのはオレの気のせいか?
よっぽど間抜けなツラを晒していたみたいで、アニキがくすくす笑い出す。ガキの姿で笑われると、いつもより恥ずかしいような、なンかヘンなカンジだ。顔、アツくなってきた。
「…っ…アニキっ!からかうなよ…っ。オレ、マジで…」
「からかってなんか、いないさ」
マジな目でオレを見上げて、視線を合わせるアニキに、抗議の言葉が続かない。
「だったら…ンなコト…」
「この姿の頃みたいに、大切な弟としておまえを見ているだけなら、それでもいいさ。だが、自分の気持ちを自覚して、やっとおまえを手にした今、おまえを抱けないのはつらいぞ?おまえが俺を想ってくれているなら、なおさらだ。いくらおまえの心が俺のものだとしても、それだけじゃ足りねぇからな…分かるか?啓介」
…分かる気はする、けど…何て言えばいいんだよ。そりゃ、オレだってその…アニキは好きだし、抱かれんのもイヤじゃねぇけど。アニキなら。
…ああ、そうだ。
アニキが望むなら、何だってしたいと思ってたのに。何を迷ってんだろ、オレ。
今ここに居んのはガキなアニキで、戻るかどうかもわかんねぇままで。
そんなでも、オレの事、抱きたいって言ってる。
だったら、オレの答えなんか、ひとつしかねぇじゃんか。
「オレは…アニキのコトが好き、だぜ…?アニキがどんなンなったって、アニキはアニキだし、でもオレには、なンもできねぇし…。だから、その…アニキがその姿ででもオレを抱きてぇんだったら…かまわないぜ?オレは」
言ってるうちに、なんか覚悟みたいなもんが出来てた。
どんなんでも、オレのアニキに変わりはねぇんだし。
何でも持ってるアニキが、こんなふうにオレの事、欲しがってるっていう事実が嬉しかったりもする。なんつか、その、くすぐってぇカンジ?
「…本当に、いいのか?啓介」
オレがこんなにあっさり納得するとは思ってなかったんだろうな。
ガキの姿のせいかもしんねーけど、小さく驚くアニキが何だか…カワイイ。って、ンな事言ったら、どんな顔すんだろ。中身はもとのアニキだから、言わずにおこう。クチでは勝てねーもん。
「さっきも言っただろ…どんなんでも、アニキはアニキなんだからさ…。そりゃ、人間じゃないとかだったら、ちょっと怖ぇかも、だけど。オレだって、アニキの事が欲しい。カラダも…全部でアニキなんだから…全部、オレのもんだって、教えてくれよ」
「教えてやるさ…何度でも、な」
唇の端を少し上げて微笑む様子は、ガキといえども凄みがあってゾクゾクする。
突っ立ったままのオレがアニキに促されてソファに座ると、小さな手がオレを引き寄せた。そのまま倒れ込むようにアニキに寄りかかろうとして、相手がガキのカラダだって事に気付く。いつものアニキならオレの事を余裕で受け止めるだろうけど、ガキじゃツライよな。オレ、図体デカいし。
一瞬、戸惑って中途半端な体勢でいたら、そのまま押し倒された。
そのまま口づけられる。
……な……ンか……やっぱ、いつもと違う、な…。
オレの唇を辿って、歯を軽くなぞられてオレが口を開きかけたところに舌を入れられる。口ン中、アニキの舌が這い回ってんだけど、なンか…たどたどしい。アニキにキスされっと、情けねぇけどオレはいつだって、それだけで意識がどっかいっちまうトコあんだけど、今日はなんか、冷静に頭が働いてるカンジ、する。アニキにしてみりゃ、いつものとおりにしてんだろうけど、ガキのカラダだもんな。なンかが、ちょっとだけ足りねぇカンジ?
キスされながら、薄く目をあけると一生懸命な顔したガキがいる。アニキが必死になる姿なんて想像もできないけど、こんなカンジなんかな。
キスしながらもガキの姿をしたアニキの手は、しっかりオレの服をはだけさせている。いつもなら片手で軽々とするその行為も、カラダが違うと勝手が違うのか、しっかり両手なのを見て思わず笑いそうになる。
「何がおかしいんだ?啓介}
少しむっとした顔をしてアニキがオレを見る。気付けばキスは終わっていて、抑えたはずの笑いが出ていたみたいだ。
「…だってよ…アニキ、いつもと違って…怒らねぇでくれよ?その…なんか、カワイイなー……なんて」
「……そうか。おまえはいつもどうり、かわいいぞ?啓介」
「う……」
カワイイなんて、言わないって思ってたのに、オレ。つい言っちまったら、案の定コレだ。
どれだけアニキに、その…してる時とかに…言われたって、やっぱカワイイってのは慣れねぇ…。緒美とかの事をカワイイ、ってんなら分かるけど。(アニキはカワイイってぇより綺麗、だろ、やっぱ)
言葉につまったオレにはおかまいなしで、アニキの手がオレのカラダを辿り出す。
……どうしよう、オレ…ダメだ、ぁ…こーゆーの。
いつもと違う、ってコトを意識しすぎてんのか、妙に…クる。恥ずかしいとか情けないって思うよりも先に、声が、出てしまう。
「……は・あ…」
オレの声を聞いたアニキが口の端を上げて笑う。オレがその表情に弱いの知ってて、見せつけるようにゆっくりと浮かべる微笑は、怖さに似た何かでオレを興奮させる。ガキの姿をしたアニキが相手でも、それは変わらないみてぇだ。背筋を寒気じゃない何かが、伝ってくる。
ガキの手は小さくて、オレの弱いトコロを攻めてても、なンかが足りねぇようなもどかしさが抜けねぇ。…もっと、カンジさせて欲しい、なんて。いつもなら、恥ずかしくてアニキに言わされるまでは絶対に言えねぇけど。
「…っアニキ…ぃ…そーじゃなくて…もっと、ココ…」
言いながら、アニキの手をオレの弱いトコロに触れさせていく。
「ココ、とか…ぁ…ふ…」
自分で自分のカンジるトコロにアニキの手を這わしてンだから、当然息があがってきて、言葉も怪しくなっていく。
いつもの、大きくて堅いアニキの手じゃなくて、小さくてまだ柔らかさを残したガキの手。それだけで、カラダの反応がどっか違うのが自分でも分かって、煽られる。
「珍しいな、啓介…おまえが自分から俺を欲しがるなんて」
さすがに最初は少し驚いた様子だったアニキが、自分の手をオレのするにまかせてオレを見ながら言う。
「…あ…ニキが…っ……いつもと、違うん、だ、か…ら…ァッあ!…たまに、は…イイ、だ…ろ…?んぅ…」
も、息が上がってそれどころじゃねぇけど、何とか言葉を繋げる。
「…どんなに想っていても、やはりこの身体じゃ、おまえを満足させる事はできない、か…」
切なげな表情を浮かべるアニキに、ムネんトコが苦しくなる。
そうじゃねぇのに。
「ちが…っふ…ぅ…あ・あ…」
自分で煽っておきながら、耐えられなくなってアニキの手を離したオレのカラダをアニキの舌や指で攻められて、言いたい言葉も形になんねぇ。
アニキのつらそうな顔が見たいわけなんかねぇのに。
触れてるのがアニキだから、カンジてんじゃねーか。
オレだって年相応にオンナとの経験ぐらいはあるけど、それなりの快楽と性欲の処理は知ってても、触れるだけで泣きそうになるほど嬉しいなんて感情は、アニキに抱かれるまでは知らなかった。
同性だとか兄弟だとか、なンも考えねぇで、抱かれる立場だって特別な抵抗なんか、なかった。心だけじゃなくて、カラダでもアニキに触れてる事が嬉しくて、ただもう、それだけだった。
思い出すと恥ずかしくて、アニキとしてぇとか思っても、オレからは言えなくて、いつだってアニキの言葉を待っている。アニキがオレを甘やかすから、オレはどんどんズルくなっていく。
こんな時でもなけりゃ、素直に言えねぇのが情けねーけど。
後悔すんのはシュミじゃねぇから、ほとんどない意識をかき集めて言葉にする。
「オレ、が……ンなコト、してぇの、は…アニキだから、だぜ…?満足とか…そんなん…考えたコト、ねぇよ…。言った、だ…ろ…どんなん、でも…アニキは…アニキだ…って。だか、ら…ンな顔…しないでく、れよ…ぉ…んあ…ァ、ニキぃ…っ」
喘ぎに変わりそうな息を必死に抑えて言ってるオレの言葉に微笑を返したアニキは、何事もなかったかのように行為を続ける。
オレのカラダを包み込むような、いつものアニキじゃない。ちまいカラダでオレにしがみつくみたいに、指や舌、目線でオレを犯してくガキ。
こんなガキでも、アニキだってだけで、いつも以上にカンジてるのは自覚してる。
アニキがいくらいつものとうりにしてるつもりでも、その姿のせいで、必死なカンジがする。ちまいカラダ、全部で、オレに快感を与えようとしているアニキの姿に欲情するなんて、オレ、ヘンタイってやつかもしれねぇな。
も、なんでもイイや…気持ち良くて、考えんのメンドーだ。もともと、あんま考えねーけど。
「…ぅ…く…ッあ・ああ…ンっ…」
声、抑えようって気にもなんねーぐらい、アニキに煽られていく。
「イイのか…?啓介?」
「すげ、イイ…っ…あに…きぃ…っ!……も、ダメ、かも…んんっ…」
実際、限界が近いのが分かる。
ガキ…と言ってもアニキだけど…に、いいように狂わされてる自分ってのは、かなりクるもんがあるよな。
「あああ…ッ…んァ……マジ、も………ァメだ…って…」
ガキを抱え込むみたいに、縋り付いちまう。
気持ちイイのも限界越えると苦しいだけなのは知ってるから、早くイカせて欲しいンだけど。
「…っニキは…?」
「啓介?」
「オレは…イイけど…アニキは…?しなくて、いいンか…?」
オレばっか、気持ちよがっててもマズイんじゃねーか、やっぱ。
「俺の事を心配する余裕があるのか?」
意地の悪い微笑を浮かべたアニキは限界にキてるオレに指を絡めて、舌でさんざん焦らした挙げ句、オレを解放した。
息も整わないうちに、何度も快楽に突き落とされて、オレの記憶は途切れてる。
目が覚めたのは夜になってからで、自分の部屋のベッドの上だった。
カラダはきれいになってて、服も着替えさせてある。アニキがしてくれたんだな、きっと。でも、ちまいガキが、デカい図体のオレを風呂場に引きずって行くだけでもたいへんなのに、よく2階の部屋まで運べたもんだな。あとで謝んなきゃな。
そこまで考えて、なンか引っかかった。
そうだ!アニキ、元に戻れたんじゃねーか?!
だったらオレを風呂に入れるなり部屋まで運ぶなり、できるもんな。それでもいらねぇ手間、かけさせたんだから、謝んなきゃならねーけど。
とにかくアニキの事を確かめないとな。
腹も減った事だし、下に降りるとすっか。
そう思ってベッドから降りようとして、落っこちた。…焦ったからって寝ぼけてるわけでもねぇのに。ま、いっか。
起きあがったオレは、とりあえず寝起きの頭ぐらいは何とかしようと思って鏡を見る。全身が写る鏡が備え付けのクローゼットに付いてんだ。
……何でガキがンなトコに居んだあ?
って、オレじゃん、コレ!
ってぇか、ガキん時のオレそっくり。…え?待てよ、オイ。
鏡、見てんのはオレで、写ってんのはガキん時の俺で……?
どっかで見た光景だよ、な…。なンかすげぇ、ヤなカンジがすんだけど。
………何だ、コレ?
頭文字Dにハマった当初、FAXで送ったものを某サイトにUPしていただいたもの。当時の友人・知人は知っているかと思われます。仮タイトル「ロリータの高橋兄弟」(爆)続編と共に個人誌に収録致しましたが、身内、と呼ぶ方々に配った後、焼却処分しましたので、まあ、4年も経てば時効だろう…と勝手にUPしてみました。何もないよりは、賑やかしぐらいになるだろうと。これが兄編で、弟編もございます。