歴史と風土が育んだ伝統の味

 マキノ町の名産品というと、誰もが最初に思い浮かべるのは「鮒寿し」ではないでしょうか。
  鮒寿しは、にぎり鮨の源流とも言われる熟れ寿司の一種で、良質の「鮒」「米」「塩」が入手できるという
湖西・湖北の地の利を生かした郷土の味です。古くは保存食として慣れ親しまれ、最近では乳酸菌発酵による健康食品として、また珍味としても食通たちから注目されています。
 伝統ある「鮒寿し」の味を今に伝えることに情熱的に取り組んでおられる老舗の当主にお話しを伺いました。


「どうして、マキノで鮒寿しが育まれたのでしょうか?」
−大きな原因は、地の利だと思います。若狭からの天然ニガリのきいた塩は、七里半越えを通って物資の中継点だった海津に集積され、入手しやすかったこと。また、身が甘く締まって小粒の卵を持つ良質のニゴロブナは、安曇川の先の舟木崎と竹生島、葛篭尾崎を結ぶ三角水域の深いところに棲み、小糸網による刺し網漁で獲ることができます。加えて、知内川と百瀬川のつくる扇状地の肥沃な砂地の田んぼでは、冷たい清流によりおいしい米が穫れます。この質の良い米の乳酸菌発酵によりごはんに酸味が生まれ、骨まで柔らかい鮒寿しができあがるのです。

「昔は、町内の至るところで鮒寿しが漬けられていたそうですが・・・。」
−海津や知内の湖岸の集落はもとより、山沿いの集落でも漬けられていたそうです。各家に棲む乳酸菌が、その家独特の発行を促し、できあがった鮒寿しはそれぞれ違った味だったといいます。当家でも、最終的な味の決め手は、発酵を当家の味に仕上げる「蔵持ちの菌」の働きに負うところが一番大きいでしょう。樽を変えるときは、同じ仕込み蔵でつけ、仕込み蔵を建替えるときは、以前からの樽をつかって漬けるなど、私らは、この代々伝わる乳酸菌を何より大切に守ってきました。また、春に獲れたニゴロブナの鱗取り・鰓取り・わたぬき・塩漬けによる血抜きという第一の工程に始まり、土用の頃に水分の抜けた鮒にごはんをつめて樽に漬け込み乳酸菌発酵させる本漬け、さらに厳しい冬の寒さの中で毎日樽の水を取り換えての低温熟成に至るという家伝の各工程を頑固に踏襲し、伝統ある「鮒寿し」の味を後世に伝えていきたいと思います。


下処理の終わった鮒は、良質の天然塩にまぶして漬け込まれる

ずっと後世に伝えたい郷土の味を作ってみましょう。
 古来より、人々は琵琶湖からの豊かな恵みを受け、それを食し、また商いをし、その恵みを無駄にすることなく暮らしてきました。しかし、いつの頃からか、その恵みにも陰りが感じられ、また多様化する食文化のなかで、消えゆくものもありますが、しっかりと現代に伝えられている郷土の味が"どんがね"と"鱒めし"について紹介します。

どんがね
どんがねは、漁師さんの料理です。朝獲れたての鮒は夕方には骨まで柔らかくなり、晩酌のつまみになったのです。


・鮒(ガンゾと呼ばれる小鮒がベスト) ・・ 3尾
・青ねぎか青じそ ・・・・・・・・・・・ 適宜
・酢味噌
  みそ ・・・・・・・・・・・・・ 大さじ3
  砂糖 ・・・・・・・・・・・・・ 大さじ3
  酢  ・・・・・・・・・・・・・ 大さじ1
  からし ・・・・・・・・・・・・ 小さじ2
  みりん ・・・・・・・・・・・・ 少々


@鮒の鱗を取る。
A魚が大きい場合は3枚におろし、骨を取って小切り
 する。
B冷水(氷水)できれいに洗い、水気を切る。
C酢味噌をつくり、Bと混ぜ合わせる。
Dさらしねぎ(または青じそ)を載せて、できあがり。


たっぷりの酢味噌であえて、味をなじませ、
大皿に盛るのが漁師さん風


鱗を丁寧におとす


エラに包丁を入れ、内臓を取り除く


魚が小さい時は骨ごとぶつ切りするのが、漁師さん風


魚が大きい場合は、三枚におろして骨を取り、
小切りにする


小切りにした鮒は冷水でよく洗って臭みをとる


よく水を切る

鱒めし
鱒めしは、人寄りがあると必ず出された料理です。運動会や寄合い、法事など人がたくさん集まると鱒めしのおいしさも倍増するのが不思議です。


・米 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一升
・鱒(中くらいのもの) ・・・・・・・・・ 一尾
・にんじん(小) ・・・・・・・・・・・・ 一本
・合わせ調味料
  しょうゆ ・・・・・・・・・・・ 1カップ
  だしの素 ・・・・・・・・・・・ 20グラム
  みりん・酒 ・・・・・・・・・・ 各少々


@にんじんは粗い千切りにする。
A鱒をきれいに洗う。
B鱒を熱湯の中で、丸ごと煮て(頭からおいしいだしが出る)、骨と皮を取っておく。
CBに@と合わせ調味料を入れ、米を炊き上げる。
D鱒が子持ちなら、炊き上がる直前に子を入れる。
E充分蒸らせて、できあがり。


誰もがおいしい鱒めしのでき上がり


鱒はきれいに洗う。さっとウロコを取る


ひたひたのお湯で煮て、だしを取る


煮上がった鱒は、トレイの上で骨と皮を取り除く

一口メモ
最近では、鮒や鱒はちょっと手に入りにくいようです。漁協や知り合いの漁師さんにお願いして、漁穫のあったときにわけてもらうのが良いでしょう。