御書と薬品

文書作成 平成4年秋

 明主様御真筆御書体をすでにお許しいただいている方へ、一般ではあまり知られていない表装の洗いについて私の考え方を述べたいと思います。
 二十一世紀まであと数年となり、御神業の本舞台が始まろうとする今、汚れたり、傷んだりしている明主様の御軸や御額を洗いなおし、これからに備えようとする方を最近よく見かけるようになりました。しかし、この洗いに出す前に表具店の作業内容を十分確認しないと取り返しのつかない失敗をしてしまいます。
  最近使われている薬品が御書(本紙)に決定的なダメージを与えてしまうからです。もう減ることはあっても増えることのない貴重な明主様の御真筆御書、今後数百年・数千年後々の世代へ伝えるために以後をお読み下さい。

 

 すでに御真筆御書体をお持ちの方の多くは、表装後四、五十年を経ているために、茶色く汚れていたりシミ、キズのある場合が多いものです。また当時は戦中戦後のために表装に使えるよい紙や材料がないことも不運でした。特に御額の場合は最近のようにアクリル板も無く、汚れのひどいものをよくみかけます。
  これを表具店に持っていった場合、お店では前の表装より本紙を切り抜いて「洗い」という作業にかかります。洗いそのものの作業は日本では古くから行われています。水で洗って、天日で乾かす作業が一般的でした。また水だけでは落ちない場合は昔より伝わるいろいろなノウハウがあるようです。しかし、作業には大変手間がかかったり、季節やその日のお天気に仕事が左右されるため表具店の方にとっては大変でした。 
 そこへ表具用の紙用漂白剤が現れました。これを使うことにより、今まで落ちなかった汚れが落とせたり、一年中屋内にて仕事ができたり、納期を大幅に短縮させられる等、表具店には大きなメリットがあり、今ではほとんどのお店で使われています。

 

薬品の場合

 早い話、私達が台所でふきん等を漂白するのと原理は同じです。きれいにはなりますが、ふきんはボロボロになってしまいます。
  この薬品を使うと、古くなった御書体の汚れはもちろん、旧の「おひかり」を洗って御額にするとき、人体の汗や脂にて黄ばんだり黒ずんだ汚れに対して抜群の漂白効果があります。特に濃度の高い薬品に浸けられたものは見る見る美しくはなります。
  しかし薬品は、数十年・数百年といった耐久性への影響が大きく、紙の寿命が極端にに短くなってしまいます。漂白後数年月を経ると、細かなポロポロの灰のような状態になります。表具店では過去の薬品被害による傷みを修復する作業がありますが、わずか二十年くらい前に漂白したものが前記のようになって修復不能になったケースも多々あります。 
 また、薬品を使ってもきれいにならない汚れもあります。この場合は不自然な仕上がりになってしまう事もあります。  墨の艶や表情も重要なポイントになります。墨はほとんど炭素ですから薬品には侵されません。しかし「にかわ」などの有機質も含まれています。そしてこれらが一体となって墨の色艶を形成しています。薬品に浸けられると炭素以外は失われて、印刷物のように表情が何となく平坦で軽い印象になる場合もあります。 色の塗られた「御絵姿」にはさらに大きな悪影響が予想されますし、「色紙・短冊」類は金箔や銀箔上の御文字が消えるなどの最悪の結果となった場合もありますので、漂白は絶対にしない方がよいと思います。朱印も当時のものは質が悪いので、薄くなったり変色したりもします。 
 薬品を常用する業者は、納品時の美しさを出すために、未表装やあまり汚れていない場合でも漂白してしまうので注意が必要です。重要文化財等の修理には薬品を使わないのが常識となっています。今では紙を傷めないとうたった薬品も出ているようですが敬遠したほうが良いと思います。
 御書体が書かれている和紙は西洋紙と違って、大切に保存すれば飛鳥・天平時代の美術品が残っているように千年以上の寿命があります。人体への薬害を説き美術品を大切にされた明主様の御書が薬品に侵されていくのはあまりにも皮肉で残念に思います。

 

水洗いの場合

  先に書きましたように水で洗うだけのオーソドックスな方法です。名前の通り水しか使わないのであまりきれいにならないときもありますが、残った汚れは自然な感じです。
  ただし同じ水洗いでも、夏以外の季節や屋内にて作業をするお店もありますが、ピントのぼけた写真のように何となくよどんだり、にじんだ感じに仕上がってしまうことが多いようです。やはり夏場の強い天日の下で洗ったものは、太陽熱によってにじみが出ないために、墨の艶や表情がよみがえります。夏にしか仕事が出来ないことが欠点で、他の作業工程を含めると納期まで半年や1年以上もかかることがあります。しかし、紙のためには一番安心な洗い方といえます。

 以上を読むと洗いそのものに抵抗をもたれるかもしれません。しかし、すでに汚れているものは長年月放置するよりもなるべく早く洗った方が汚れは落ちやすいのです。  表装や洗いには他にも問題があります。しかし、薬品のことが一番大変だと思います。本教の美術館関係者なら知っているはずの表具の基礎知識ですが、そういったノウハウが御書のために活用されてこなかった事は残念です。
  御書をお許しいただかれた熱心な方ほど表具店に修理に出されます。その前には作業の内容を十分確認して良心的な仕事をしてくれるお店に委ねて下さい。

 御書体は汚したり傷めたりしないように普段から心がけていなければなりません。タバコや線香類、日差しの強い所、油煙のたつ台所の近く、湿気の多い場所など十分に注意してください。洗ったり表装を替えたりする必要がないことが一番よいのです。 
 まもなく御書の本当のお力が発動される時が来ようとしています。今のうちに美しく修理し、尊くお祀りし、やがて来る大浄化に備えましょう。そして、五六七の世の宝として後世に引き継いでいけるように大切にしていきたいと思います。 
 御書「光明」「地上天国」御下付にともない、表具店への依頼もあると思いますので参考にしてください。

 

・このグラフは、漂白後の紙の寿命が極端に短くなることを理解していただくための目安です。その他の条件によって大きく異なります。

 

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