県大教主催シンポジウム
日時:2007年3月2日 (金) 15〜18時
場所: 滋賀県立大学交流センター 研修室1〜3
内容
1.講演 「都立大学で何が起こったか?」
講師 茂木俊彦氏(東京都立大学前総長、桜美林大学健康福祉学群長)
2.パネルディスカッション
「新しい大学に市民として望むこと」
パネラー 宮川卓也氏 (宮川バネ工業椛纒\取締役)
植田一夫氏 (近江八幡市立島小学校教諭)
北川啓子氏 (県立大学生保護者)
和田浩平氏 (県立大学生)
司会 森脇克巳 (県大教委員長)
県大教主催シンポジウム「県立大学に何を期待するか−法人化と大学での教育・研究」を企画、開催しました。『民主的大学法人の実現』に加えて年間活動方針として掲げた『長期的展望に基づいた大学改編へのたゆみない取り組み』および『大学構成員間での大学の理念づくりに関した議論の喚起』に対応するもので、「中期目標・計画にとらわれた急場しのぎの大学改編の動きに対して、全学レベルでの開かれた議論と長期的展望に基づくたゆみない大学改編を提起し、そのために必要な運動を進めること」と「本大学を構成する教員、職員、学生・院生に呼びかけ、これからの大学のあるべき姿に関する議論を喚起する」ことをめざしました。
内容は、東京都立大学前総長の茂木俊彦氏(現桜美林大学健康福祉学群長)による講演「都立大学で何が起こったか?」と一般市民・学生によるパネルディスカッション「新しい大学に市民として望むこと」で、パネラーには、宮川卓也氏(宮川バネ工業椛纒\取締役)、植田一夫氏(近江八幡市立島小学校教諭)、北川啓子氏(県立大学生保護者)、和田浩平氏(県立大学生)の4人の方に参加いただきました。
茂木俊彦氏は、東京都立大学が他の3大学とともに首都大学東京に移行する過程で、石原都政がいかに強引な「改革」を押しつけてきたか、現場の討議や現場と設置者とのそれまでの協議の積み上げをいかに乱暴に踏みにじったか、そして、これに対して現場の共同がいかに粘り強く対抗してきたか、について時間的経過を追って具体的にお話くださいました。総長・学長として大学の何を守り、支え、発展させるのかにおいて、氏の姿勢は、彼我の違いの大きさを感じさせるものでした。同時に、氏が強調されたことは、構成員自らが考え、意見を述べることの重要性であり、一般行政の施策をそのまま大学に持ち込むことの弊害でした。さらに、公立大学教員であるならば、納税者たる市民が求めるものを真摯に汲みとる力を一層高めることが必要となると述べられました。
パネルディスカッションにおいては、まず、和田氏が法人化によって強調される数値目標(たとえば英語力20%増)やGPAなどは学生にとって違和感があること、トップダウンではなく、学生をもまきこんだ改革を求めたいこと、学生自治会設立への要求や具体的な動きが学生の間にも芽生えていることなどを述べられました。
北川氏は、大学における教員と学生の関係について、とりわけ配慮を要する場合があることに対する大学教員の自覚を促されました。大学における学生相談機能の充実の必要があると同時に、学生が自分のやりたいことを実現する力をもつことへの支援、社会とかかわりながら社会へでていく力を大学で身につけることへの支援の必要も指摘されました。その際、市民が学生とかかわりつつ、相互の支援関係を強くすることのメリットも述べられました。
植田氏は、小学校教員として現在の子どもに見られる学習の危機的状況に触れつつ、大学において学生が学習や授業への参加度を高める課題、現場の子どもや教師を育てることに大学の教員や学生が貢献する課題を指摘されました。さらに、「役に立たないことがいかに大切か」など、大学ならではの発信も含め、県立大学が一層の魅力を備えることへの希望を語られました。
宮川氏は、所謂「産学連携」が市場原理主義で推し進められがちなことに問題意識を持っておられること、低い志での連携ではなく、大学と企業の人がともに育ち合う関係をどうつくるかが今後の課題であることを述べられました。さらに、市民の生活を見つめ、同じテーブルにつくことを真剣に考えることや共同の成果については市民の立場からの評価を受けていくことが必要であると述べられました。そのような市民との連携の不十分さを「新自由主義」の影響を受けた行政や産業界がとらえて介入してくる、という認識を、まとめの討議の中で茂木氏も示しておられました。東京都立大学が学問の普遍性や国際性を追求する一方で、地域との真の共同関係の構築においては弱点を有していたとの指摘でした。
開学11年の本学で、このようなシンポジウムを組合が開催するのは初めての試みでしたが、参加者の心に残る集いとなりました。41名の方が参加されました。さらに多くの方に届けたい内容でしたが、茂木氏執筆の岩波ブックレット「都立大学に何が起きたのか−総長の2年間」を全組合員に配布できたことで、参加されなかった方にも開催の意を汲んでいただけたのではないかと考えています。今後とも、構成員が各自の教育・研究・学内諸業務において研鑽をつみ、大学運営についても積極的に集団的討議の機会を設けるような大学であるよう、県大教として努力していくことが必要と考えます。