
うつ病の慢性化
今年(17年)はうつ病の新患のかたが多いのです 数えていませんが新
患の3/4にはなると思われます
治療暦が長いかたも居ますが、未治療のかたも居ます また当クリニックを
初診してから、殆どは安定していますが、中には再燃するかたも居ます
本には3ヶ月で治ると書いてあったと言うかたが時々居ますが、笠原嘉は大
学病院の患者で、治癒には平均11ヶ月かかると言っていました 受診しやす
いクリニックでは、もう少し長くなるかもしれません
また経済的環境による各企業の厳しさは、予後に大きく反映するでしょう
クリニックの患者さんという窓から見る限り、各企業は厳しい合理化を強い
られています テクノロジーの進化という遊びの無い就労環境と合わせて、
患者数は増える一方でしょう 同時に治癒に至る期間が延びていくでしょう
いずれにしても3ヶ月は短かすぎます 複数の専門家が複数の本にありえな
い治癒期間を書いているのには驚かされます
ここではうつ病の慢性化要因の一つを取り上げます 病前性格、環境要因、
薬物の過少投与など様々な要因が挙げられますが、ここでは取り上げません
軽症そううつ病
ここではうつ病の回復過程の一過性軽そう状態や軽症そううつ病を含む見逃
されやすい症状を標的にします この症状は私たちプロも結構見逃していま
す
患者さんはまったく気づいていないことが多いのですが、中にはウッすら意
識していることがあります
私が軽そう状態を強く意識するようになったのは、この10年くらいです
その前にも意識していましたが、それほど強くはありませんでした
そのきっかけは、ある中年の女性が転医してきましたが、その理由が3年間
寝っぱなしで良くならない、助けてほしいと訴えたことでした
自信は無かったのですが、ダメ元で診てくれと言うので転医を受け入れるこ
とにしました
なるほど診察の度に意欲低下と疲労を訴え、もう治らないと嘆きます
しかし何度か診察していると、豪邸に住んでいて部屋数が9つくらい?(正確
な数は忘れました)あり、広い庭がある その全てを毎日掃除草取りするとク
タクタになる そうすると暫くは動けなくなると訴えます その時はもとも
と熱中性、完全主義の性格が災いしているのだろうと考えていました
それで、毎日一部屋を完璧にきれいにして、他の部屋は翌日にすると提案し
ました そうすると間もなく毎日動けるようになりました しかし2〜3ヶ
月するとやりすぎてへばり、また元気になるとやりすぎるという繰り返しを
するようになりました
頭では分かっていても止められない活動への衝動は、軽そう状態ではないか
と思ってご主人と話しました 周期的に掃除をしまくって寝不足になるがい
くら止めても止めないということでした 本人に確認すると、何故か分から
ないけれど気が高ぶっていて、最後までやらないと気がすまないと訴えます
しかし過干渉、頻回の電話など他人に迷惑をかけるような行動も、浪費のよ
うな家庭に迷惑をかけるような行動もありません
こうした行動は逸脱行動を伴わないので医師の耳には入りにくいのです
そのために見逃されてきたのです こうした軽そう病相の後にはうつ病相が
来るので、3年間寝っぱなしと言ったのです
だいたいそう病相よりもうつ病相が長いのです そう病相が1ヶ月で、うつ
病相が3ヶ月〜6ヶ月というパターンはよくあることですが、慢性化した場
合は1日動けば翌日には動きが悪くなり、無理して3日動くと回復に1ヶ月
以上かかることは珍しくありません
うつ病、うつ病相が慢性化しているというかたには、こういうパターンが多
いのです 実際にはそう病相、あるいはその中でも軽そう状態が認められる
かたが殆どで、まったく何年も動けないかたはごく珍しいと思われます
この女性は説得ではすまないので抗そう剤を投与しました もう元気が続い
て数年以上になります 寝込むことはありませんし、抑うつ気分や動けなく
て困るという抑制症状を訴えることもありません
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