「別にそんなの、わざわざ大阪に行かなくたって」
「そんなん言うたら、どっこも行かんでええんとちゃうん?人多いし、ほんまに通り抜けるだけやけど、水上バスで回っても綺麗やし、ぎょーさん種類があって、いっぺんに見られるとこなんか、そう、ないで!うちのお母ちゃんも久しぶりにダーリン連れて来い、言うてるし、皆で来たらええやん」
リカに押し切られる形で雷門サッカー部は大阪は造幣局まで、桜を見に行く事になった。
雨続きだったここ数日が嘘のように晴れ、しかも週末とくれば、人通りの多さは半端ではない。
最寄駅出口からすぐ、造幣局までの橋の上は既に列が出来上がり、のろのろと進んで行くのが見える。
「あれに並ぶの〜?」
「そやで。中に入ったら、もーっと進まへん。皆、写真撮りながら歩くしな。駅のさっき出て来たとこで待ってる事にして、適当に歩いたらええやん。あ、うちらははぐれんように、手ぇ繋いで行こな、ダーリン!」
相変わらずのリカに、いつも通り困った笑顔の一之瀬が、されるがままになっている。横断歩道までは、のろのろと進んでいた列は、渡ってしまえば片側にずらり、と並ぶ屋台に群がる者、造幣局の入り口に向かう者、すぐ横の公園から出て来て帰途に着く者、とそれなりに散らばっており、皆好きに歩いたり立ち止まったりしている割には、酷い混雑、という程でもない。
「中は飲食禁止やけど、公園に入ったら屋台あるし、テーブル席もあるから、大丈夫やで。うちらは先に行ってるわ。ほな、行こか、ダーリン!」
うきうきとした様子のリカに一之瀬が引き摺られるように連れて行かれた。壁山達1年生は、早速屋台に突撃している。
「俺達も行こうぜ」
「どっちに、だ」
声を掛けた円堂に、鬼道が確認をする。
「え?どっち、って?」
「腹が減ってるなら、ここで適当に食べておく方が良いだろうからな。中へ入ってしまえば、混雑で進まない、とさっき浦部が言っていただろう。折角ここまで来て、花より団子、になってしまうのも、勿体ない」
「後でも食えるんだったら、先に見てからの方がいいかなあ」
その場に残っていた2年生とマネージャー達は、人の流れのままに歩き、そのまま入場した。
「……すごぉい…」「綺麗ねぇ…」「こんな色のも、あるんだ」「面白い名前が付いてるなあ」「向こうにも行ってみようぜ」「何この短冊みたいなの…短歌?」「お土産も売ってるよ」「見に行く?」
口々に言いながら、人の流れに沿って、のろのろと進む。枝に触るな、肩車をするな、立ち止まって写真撮影をするな、と警備員が拡声器を手に口々に叫んでいるが、その警備員もどこか諦め顔だ。
「……見事なものだな」
「ああ。俺も、こういうのは、初めてだ」
……夕香を連れて来てやりたかったな。肩車が駄目でも、おぶされば、間近で見られるだろうし。
豪炎寺は鬼道が呟くのに答えながら、ふと思いつく。
「……鬼道」
「どうかしたか?」
「音無と、撮ってやろうか?」
写真の事を言っているのだ、とすぐに解った。生憎カメラは持って来ていなかったが、そこかしこで携帯で撮影している姿を見て、思いついたのだろう。
「……もう少し、警備員から離れたらな」
「立ち止まらなければ、良いんだろう?」
豪炎寺から返ってきた意外な言葉に思わず笑いながら、携帯を手渡す。鬼道が、すぐ傍らを歩いている春名と寄り添うようにして歩いていると、何度かシャッター音が聞えた。
「気に入るかどうか、解らないが」
そう言って豪炎寺から返された携帯を手にした鬼道は、そのまま豪炎寺に向かってシャッターを切った。
「後で送る。妹さんに、見せてやると良い」
驚いて立ち止まった豪炎寺に、そう言いながらカメラを向ける。そうだな、と言った豪炎寺はふわり、と笑った。
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